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A氏の冒険  作者: バナナウンコ
1/6

A氏の冒険1日目

ここは、とある大陸の、とある国。

A国としておこう。

経済や、科学の発展の程度は、現実でいう中世から近世の程度。

蒸気機関が発明される寸前といったところか。

ただし、われわれの住む現実と違うのは、この世界には、魔法がある。

錬金術も、実用化されている。

悪魔の存在も確認されているし、洞窟に潜れば、ゴブリンも住んでいる。

集落がオークの群れに攻め込まれるなんて日常茶飯事だ。

そういった世界で、いわば冒険者として暮らしているのがA氏だ。

彼の経歴は、はっきりいって平凡だ。

農家の4男として生まれた彼は、幼少から魔法に卓越した才能を示したとか、剣術に抜群の才能があったとか、そういうことはなく、ただ平凡に過ごしてきた。




A氏には、兄弟がいた。

長兄は、王国の兵として徴兵され、隣国との小競り合いで戦死した。

弔慰金は雀の涙だった。

次兄は、数匹のはぐれゴブリンが村に迷い込んできた時、ゴブリンに棍棒で殴られて死んだ。

一つ上の兄は、「冒険者になって一山あてる」と言って、村を出て行った。

それきり音信不通だ。

また、A氏には、妹が1人いた。

A氏が冒険者となったのは、この妹のためだ。

仮に、彼女の名前を、B子としておこう。

B子は、A氏の平凡な家族には似つかわしくない女だった。

けっして、美女ではない。

たびたび怪物たちに襲われる村が、あるとき、飢饉になった。

そして、A氏の妹は、口減らしに、売られていった。

よくある話だ。

そして、A氏は、数年後、村を飛び出し、冒険者として生活していくようになった。

妹を売って、その金でメシを食う家族に嫌気が差したというのもある。

外の世界に憧れたというのも理由だ。

これも、よくある話だ。

だから、A氏自身、自分はよくある最期を迎えるのだろう、と予期している。






A氏は、焚き火を前にして、もう会うこともない兄妹たちのことを思い出していた。

ここは、王国の一都市から、徒歩で2週間ぶんの距離のある街道だ。

A氏は、街道から10歩ほど逸れたところに、焚き火を起こして、簡単なキャンプをしている。

周囲には魔除けの魔術をかけたので、弱い魔物は近づけない。

だが、魔除けなぞは、気休めだ。

「弱い」魔物は近づいてこれないということは、こちらの命の危険があるような強い魔物はスルーパスということだ。

自分が寝ている間、周囲を見張ってくれる仲間がいれば良かったと思うこともある。

A氏は、いま1人だ。

A氏は、基本的に、仲間を作らないことにしている。

1人だと、寂しく感じることもある。

魔物と出会った時も、1人だと対処に困ることもある。

ただ、1人のほうが、いろいろ楽であったし、なにより責任というやつが軽くていいのだ。

人間の仲間と一緒だと使えない手段というやつもある。


A氏は、日が落ちる前にでくわした戦狼の肉を焼いている。

戦狼の肉は、あまりうまくはない。

どちらかというと、まずいほうだ。

牛や、豚や、鹿の肉のほうがずっとうまいが、飢えるよりはマシだ。

それに、今回請け負った仕事は、だいぶ遠方まで歩いて行かなければならない。

保存のきく携帯食料は節約しなくては。

いわゆる常識のある仲間と一緒だと、「魔物の肉を食うなんて!」と騒がれることもあるし、ときには「王国の保安機関に通報するぞ!」と言い出す奴もいる。

お行儀の良い彼ら、彼女らは、A氏の手によって、もう何も食べる必要のない体になった。

だが、A氏としても、そういうことを毎回気分良くできるわけではない。

だから、A氏は、1人でキャンプを作り、1人で魔物の肉を焼いている。

A氏は、リュックの中から携帯用の瓶を取り出すと、戦狼の肉にササッと中身の塩を振りかけた。

「コショウでもあればな…」とA氏は思うが、長い旅に、余計な荷物を増やすわけにはいかない。

香辛料は高価だ。

肉の焼き具合を確かめると、A氏は戦狼の肉にかじりついた。

想像通りのまずさだ。

腐りかけの豚肉というか、肉汁のしみた雑巾を噛んでいるような味だ。

A氏は、なんとか戦狼の肉を喉の奥に押し込むと、水筒の水を一口飲んだ。

これで晩飯は終わりだ。

寝るとしよう。

A氏は、手持ちのリュックを枕にすると、寝袋に入った。

また、明日、ちゃんと生きて起きられますように。






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