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濃灰の艦隊  作者: 銀河乞食分隊
序章
6/73

演習 再挑戦

 ヤップ島をベースに訓練を繰り返す。時にはカロリン諸島まで出張って全速航行を五時間行い帰りに燃料の余裕があるか確認したりもした。あまり余裕は無い。

 砲術が砲に慣れてきたというので、実戦に出ることにする。

 前回と同じように突入する。

 砲が4門というのは破壊力が違うな。新型炸薬も強力だ。電探併用で測距精度が良いので命中弾も多かった。こちらの損害はなんとか中破程度で4隻を沈めることが出来た。

 さて帰るか。


「前方、水平線に煙」


 何、敵艦だと。


「四時にも煙」


 2隻か。待てよ、最大1000ポイントと書いてあったな。駆逐艦1隻で100ポイント。10隻いるのか。後6隻いる。参ったな。


「航海、一番近い脱出場所は」


「東ですね。15海里くらいです」


「東か。4時にいる奴とぶつかるな」


「ですが、西だと35海里ですから」


「もっといる可能性が有るか」


「そう考えます」


「面舵、進路真方位90度に取れ。機関両舷全速。イファリクアトール島の北部を通過、島と暗礁の間を抜ける」


 幸い、水線下の被害は断片程度で軽微だ。速力は出せる。そう言えば、甲板を呼ぶか。


「甲板、ブイはいくつだったかな」


「赤ブイが1個、黄ブイが2個、白ブイが1個。拾ったのは赤ブイと黄ブイが1個です。黄ブイ1個と白ブイは混戦の中、拾えませんでした」


「そうだったな。ぶつけたんだった。中身なんだろうな」


「期待して良いのでしょうか」


「こればかりは開けてみないとな。しかし黄ブイの中身はどこかに有るんだろうか」


「手空きで艦内を探していますが、見つかりません」


「ご苦労、配置に戻れ」


「失礼します」 


 艦は既に東へ向けて全速航走に入っている。4時の敵が今は一時になって近づいてきている。


「敵艦、正面。回り込みます。1万2000」 電探も同じ距離を報告してくる。


 同航戦ではなく、正面を押さえに来たか。こちらは1門。あちらは4門。勝ち目は無いな。


「面舵20。敵の後ろを抜ける。左砲戦用意」


 左砲戦と言っても主砲は1門潰された。3門でやらねばな。初回の2門よりも希望は有る。必殺の魚雷は使ってしまった。取っておけば良かったか?いやこれは後知恵だ。あの時使わなければ、被害はもっと増えていたはずだ。


「敵回頭、同航戦に入ります。1万」

「砲術、8000で撃ち方始め」

「8000で撃ち方始め、了解」


 撃ち合いは始まった。唐突に終わったが。

 良いところに命中したようだ。魚雷か爆雷か、それとも弾火薬庫かボイラーか。ブイを回収に行かねば。

 ブイを回収していると、先ほど水平線に見えた煙の主だろう。


「10時、敵艦。距離1万8000」

「ブイの回収は?」

「内火艇が戻ってきます。収容完了まで10分ください」

「待てん。内火艇に信号。ここで待て」

「内火艇に信号「ここで待て」了解」

「機関、両舷前進微速」

「取り舵」


 少しでも敵艦に近づいて内火艇への脅威を減らさんとな。


「敵艦、止まりました。傾いています」


 なんだ?


「艦長、あそこは暗礁が有る可能性が高い海域です」

「先任、そう言えば有ったな」

「見張り、距離は」

「7000」

「よし、電探だけでやってみるか」

「電探だけでですか」

「先任、これから夜戦もあるかも知れん。電探でやれば勝率は上がる」

「テストですか」

「そうだ。相手は都合良く、座礁してくれた。据え物切りだ。出来るだろう」

「電探が悲鳴を上げそうですね」

「やって貰うさ」

「砲術、座礁している敵艦は電探射撃で沈める」

「電探射撃ですか。距離の精度は出ますが、測角が甘く方位がいまいちです」

「そうなのか」

「そうです。測距儀と併用ですが、測角は測距儀の方が正確です」

「ふむ。まあやってみてくれ」

「了解」


 打ち出すが、当たらんな。尺は合っているが、本当に苗頭びょうどうが合わんな。

 でも4射目で修正が出来た。後はこのまま撃ち続けるのだろう。

 8射目で爆発炎上を始めた。ブイを拾いに行きたいが、内火艇でいくと時間が掛かるな。諦めるか。もう1隻出てきたら、危ない。さっきと今回は運が良かっただけだ。時間が掛かれば、損傷している本艦が不利なのはいなめない。


「内火艇を拾い、帰投する」


 内火艇を拾い、帰投すべく進路を東に取った。周囲から煙が三本見えるが、脱出の方が早い。さあ帰るか。

 さあ帰るかと思ったが、演習海面を出た途端に白い空間でまた動けなくなった。やられた時と同じだが、今度は意識がある。なんだろう。

 

 なんだろうどころでは無い。白い空間が薄くなってきたと思ったらヤップ島が目の前だ。

 入港しようとしたら、灯台から信号が。


「信号読みます。「ドックへ向へ」以上」


「ドックか。修理しなければいかんよな」


「進路ドックだ」


 曳船がまた出てきた。こいつらいつの間にか出てくるが、どこに係留してあるんだろう。

 曳船の手を借りて、ドックに進入する。


「舫い方始め」 

 

 艦が止められ渡り板が渡された。

 負傷者と戦死者を先に降ろしたいが、でかい看板に「負傷者と戦死者は収容済み」と出た。


「主計、負傷者と戦死者はどうした」


「キラキラ光って消えました。代わりに紙が有って「負傷者と戦死者は収容するので任せろ」と」


「不思議だな」


「全くです」


 気にしたら負けだな。

 乗員を点呼解散させた後、科長を集め管理室に向かう。


「さて、演習は無事に通過した訳だが、各自思うこともあるだろう」


「艦長。負傷者と戦死者がドック入りと共にキラキラ光って消えました」


「そうらしいな。主計。気にしたら禿げるぞ」


「大丈夫です。うちの家系は白髪です。ハゲはいません」


「なんだと~。貴様、実に羨ましい家系だな」


 先任。羨ましいのか。確かに軍帽を脱ぐと少し寂しいな。まだ若いのに。

 ジリリリ。ジリリリ。ジリリリ。

 突然電話が鳴った。通信の役目だろう。皆で見る。嫌そうに受話器を取る通信。


「こちら、ドック管理室」


『艦長達か?』


「そうだが、そちらは?」


『聞き忘れたかな。神だ』


「神ですか。なんの用でしょうか」


『そんなに素っ気ない対応をしないでね。心に刺さるから』


 うん。通信が受話器を叩き付けたい気持ちはよく分かる。なにしろ受話器を取ったら部屋に声が流れているのだから。


『待て、受話器は上げたままにしてくれ。重要?な話がある』


 何かニュアンス的に信じて良い物か発言だな。

 

『実はブイの中身を見直した。中には大きさ的に艦内に収まらない物も有るのでな。最初はブイの中身を艦上で広げることにしたのだが、それでは拙いことに気が付いての』

『考えた結果、目録という形にした。ブイを拾っていればブイの中に有る。ブイにぶつけた場合は海図室に転送されるようにした。大きさは30センチ角で厚さ10センチの箱だ』

『その場で使える目録も有る。赤ブイに入っている物だな。今回は言い忘れた。済まぬ』


 通信は受話器を電話機の横に置いた。持っている気力は無いようだ。


「神。質問だが良いか」


『良いぞ』


「ブイの中身は決まっているのか」


『無作為抽出だ。全ての物品の中から、ブイが回収された時点の技術とあまりかけ離れない物の中からだが』


「回収された時点とは」


 砲術が聞いた。


『今更、旧式装備はいらないだろう。後は今の状態ではとても使えない装備も。現時点で使えそうな物と少し先なら使えそうな物の中からだ』


「この先もっときつくなると?」


『頑張ってほしいものだ』


 えらそうに。


『では頑張ってくれ。尚受話器を降ろすと会話は終わる。さらば』


 通信が今度こそ受話器を叩き付けた。


「艦長。神は死んでいますね」


 通信が言った。


「そう言った哲学者もいたな」


「まあ、通信もいい加減に神になれろ」


 今度は機関だ。そうだな。慣れて欲しい。切実に。俺の胃と毛根のために。


「そうです。艦長。今度こそ酸素魚雷を」


「では、見てみるか。装備可能になった奴を」


 














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