4階層B トラック島防衛2
敵の反撃はこちらにやってきた。目論見通りだ。トラック島に行かなければ、こちらの目的は達成出来る。
たいした戦力を置いていない動かない基地よりも、機動部隊の方が明らかに脅威だろう。当たり前の判断だ。
電探ではおそらく200機としていたが、迎撃に向かった戦闘機隊からは200機以上300機未満と通信が来た。何隻の空母がいるのだ。
前衛の水上砲戦部隊からは完全に無視されたという通信も先ほど入っている。彩雲も一緒に出て管制をしているが、80機程度の戦闘機で200機以上を相手取るのは無理だろう。
「直衛隊、突破されました。100機以上こちらに向かってくるそうです」
「電探、距離は」
「30海里です」
「飛行長、HSS-2は格納庫で所定の措置を済ませてあるな?」
「勿論です」
「一航戦司令官からです。1万で迎撃開始」
「了解した」
「砲術、1万で迎撃開始。兵装使用自由」
「砲術了解です。主砲と12.7センチ単装速射砲を使います」
「主砲も使うのか」
「近接信管と照準装置が優秀です。高角砲と変わりません」
「自動装填装置で毎分15発撃てるのだったな」
「やって見せます」
「張り切ってくれ」
この程度の機数ならマニラ湾防衛で経験済みだ。防空能力は今の方が高い。大きな被害無しに撃退は出来る。ただ未経験者もいる。恐慌に陥らなければ良いが。
1万で各艦が発砲を始めた。敵は高度3000で編隊を組んで飛んで来た。自分たちの戦力を過信して油断しているのか、ただの下手くそか。どちらでもいいが、有能な敵は困るからな。
やはり主砲は強力だ。6門で毎分90発が編隊に向けて撃ち続けられる。何発が炸裂し何機かが墜落した時点で、敵編隊がばらけた。こうなると主砲はもったいない気がする。
「砲術、艦長だ。主砲は雷撃機に指向」
「砲術了解」
76ミリ速射砲も撃ち始めた。もう5000まで来ているのか。ここまでで相当数の機体が墜ちている。積まれている四八式統合射撃管制装置と速射砲は、音速を超えるミサイルも迎撃できるのだ。300ノットも行かない鈍重な機体など浮かんでいる的でしか無い。
ただ機数が多く、何機かは弾幕を抜けてきた。今度はエリコンKDA艦載型連装銃塔の出番だ。ミサイルは無理だが、今の敵機なら問題ない。
結局、敵の攻撃は20ミリCIWSの出番も無しに終わっていた。
本艦、黒部は被害無しに終わったが、はやり被害が出た艦も有った。
海龍が集中的に狙われ、直衛としてへばり付いていた古鷹も狙われた。雷爆撃による被害は無いが、弾幕を突破して来た戦闘機によるロケット弾攻撃で損傷した。ただ航行に影響の出るような被害では無い。
艦載機の発着艦にも問題ない。
艦隊としてはほぼ無傷と言ってもいい。
だが、艦載機の損害は直衛隊・攻撃隊とも大きかった。艦隊で使える機体は、零戦52機、彗星15機、天山12機まで減っている。未帰還機と使用不能機を引いた数だが、高速の彗星と天山でこれだ。九七や九九では全滅に近かったのでは無いかと思う。
やはり航空戦は数が大事だ。
「司令長官、一航戦からです「ワレ損害軽微 戦闘ニ支障ナシ」」
「そうか」
「このまま行かれますか」
「当然だな」「そうだ。空母部隊にも続けと指示しろ」
「空母部隊にもですか」
「海龍のプラズマ熱砲と7戦隊の雷撃力は対艦戦で威力を発揮する。山口さんなら必ず突撃してくるさ」
「電文は「空母部隊も祭りに参加されたい」でよろしいでしょうか」
「通信参謀、なかなか洒落た文言だな。それでいい。分かってくれるだろう」
「空母部隊も祭りに参加されたい」を受け取った一航戦司令官は、当然参加しなければと艦隊速力を上げる。他3隻は乗り気では無いが先任司令官の立場で強引に引っぱていく。七戦隊に異論があるわけも無い。各空母では彗星と天山に対艦攻撃兵装の装備を始めた。それでは足りないと、山口司令官は零戦にも25番の装備を命じた。
「索敵機、瑞鶴1番からです。「敵機動部隊発見、空母3隻を中心とする輪形陣2群。戦艦は見えず」」
艦隊はその電文を受け取り、どうするか思案する。もう攻撃に出せるような艦載機は残っていない。迎撃網を構成しようにも50機では出さないよりもましな程度だろう。やはり艦隊による砲戦しかない。しかし、敵戦艦は何処だ。機動部隊の近くにいるはずだが。彩雲の電探で見つけられないと言うことは、離れているのか。何故?
まさか、トラック島を艦砲射撃する?
彩雲はその速度で敵戦闘機を振り切り、敵艦隊との接触をしていた。ただ、敵戦闘機もレーダー誘導か回り込むことが多く、回避に苦労する。なにしろ小回りや機動性などという言葉は、彩雲には存在しない。速度特化の機体、それが彩雲だ。
「須藤少尉、穴は無いか」
「柿本中尉、電探ではどちらにも敵機が」
「小川一飛曹、ヒ連送だ」
「「中尉」」
「復唱どうした」
「ヒ連送発信します」
敵と接触して逃げられないような状況で発信する「ヒ連送」は事実上の遺言だ。敵と交戦中、俺はまだ生きている。受信出来無くなれば……
「ヒ連送受信。周波数は瑞鶴1番」
「そうか」「発信地点の特定急げ。敵艦隊の予想進路に急行する」
水上砲戦部隊は予想される敵針路に向けて高速で接近していった。
その頃、空母部隊は敵戦艦部隊を捜索すべく彩雲を発艦させていた。
そこに入った一報。
「発 イ-701 宛 第一艦隊 ワレ敵戦艦部隊発見セリ 戦艦4以上巡洋艦5以上駆逐艦10以上 位置 トラック島北北東140海里 速力27ノット以上 追尾不能」
発艦した彩雲に位置情報を知らせ進路を変更させたのは当然だった。同時に残り全機を発艦させた。彩雲の他は直衛機さえ残さない全力出撃だ。
水上砲戦部隊も当然、そちらを指向した。空母機動部隊は艦載機が無ければただのドンガラだ。今の防空力なら脅威となり得ない。それよりもトラック島砲撃に向かう敵戦艦部隊が大事だった。
敵戦艦部隊はトラック島からの空襲を受けていた。と言っても旧式機混じりで30機程度での襲撃が2回だ。たいした被害は無い。それでも回避運動で多少は時間を稼がれた。
翔鶴2番が敵戦艦部隊を発見したのは、トラック島まで80海里だった。あと3時間もしない内に艦砲射撃可能になってしまう。
すでに空母部隊を発艦している索敵攻撃隊に位置を知らせ、自機は上空にとどまる。
敵戦艦部隊がトラック島まで60海里のところで攻撃隊が襲いかかった。零戦まで25番を抱いている。零戦の精密爆撃能力は無いに等しいが、それでも数の内だ。零戦各機は一番先に突っ込んだ。
「露払いは任せろ」と言って。
52機が爆撃を敢行し、20機が投弾前に撃墜された。投弾した32機も無事では無い。戦場を離脱できた零戦は20機に過ぎなかった。
その32発の25番が挙げた戦果は、燃えながら重巡に突っ込んだ1機が中破させ、駆逐艦2隻に至近弾の被害を与え、戦艦には2発の命中弾だった。いずれも砲塔に当たり損害とは言えない程度の被害だった。それでも対空砲火の分散という効果は十分にあった。
分散された対空砲火の密度は低く、その中を天山が海面を這うように、彗星が逆落としに突っ込んでいく。
彼らの奮闘は報われた。
戦艦2隻に魚雷命中各1、戦艦に爆弾2発命中(魚雷が命中した艦とは別)、同一巡洋艦に魚雷命中1爆弾1命中、駆逐艦1隻に魚雷命中撃沈。駆逐艦2隻に爆弾命中大破。
ただ損害も多く、帰還したのは零戦18機天山4機、彗星3機だった。零戦2機、天山3機は途中不時着水。
これで敵艦隊の速度は一気に低下した。溺者救助を行っているのか駆逐艦が海面を捜索している。損傷艦の速度に合わせているらしいので、15ノット前後と言うことを翔鶴2番は報告してきた。その後翔鶴2番は、敵空母部隊から飛んできた戦闘機に追い払われたとも報告があった。
これならトラック島が視界に入る前に水上砲戦部隊が追いつくことが可能だ。
橋本司令長官は、まだかと思う。
「敵電探波探知。水上見張り用と思われます」
来たか。伊勢の電探は少し前に敵戦艦部隊上空にいる敵戦闘機隊を捉えていた。今度は本命の戦艦部隊だ。すでに総員戦闘配置に就いている。
「電探に反応、大型艦3以上」
「敵反応、変針します。伊勢の頭を押さえる模様」
「反航戦の後、同航戦に移る。面舵、方位60」
「面舵、方位60」
「艦長、撃とう。プラズマ熱砲なら行けるだろう」「通信、全艦に撃ち方始め」
「「はっ」」
「砲術、プラズマ熱砲用照準電探で捉えているか」
「捉えていますが、艦の動揺周期がなかなか読み切れません。出来れば速力を落としていただきたのですが」
「確かに動揺が少し大きいか」
その時、砲術参謀が割り込んできた。
「司令長官、艦長。砲術と話をしたいのです。よろしいでしょうか」
「砲術参謀か、艦長どうだ」
「かまいませんが」
「では」「砲術長、貴様、手引き書を読み込んだのか。訓練でもやっただろう。忘れるな。動揺吸収装置を入れていないな」
「動揺吸収装置‥。砲スタビライザー!至急作動させる。後で奢るよ」
「日向も聞いた方が良いな」
「聞きましょうか」
と言っている間に、日向から赤い光が飛んで行った。
日向は忘れていなかったようだ。
伊勢からも赤い光が飛んで行く。四戦隊各艦も撃ち始めた。
今までのような豪快な砲煙も轟音も無い、静かな砲戦だ。反動はそれなりにあるが小さい。本当に撃っているのかと思いたくなる。外の配置の者に聞くと結構大きなはじけるような音がするというのだが、分厚い防弾ガラスを通した音は手拍子くらいだった。
「この距離で弾着観測機が居ないと、当たっているか分からないですな」
「そうだな、艦長。電探で敵の様子を窺うしか無い。なんとかならんかな」
「今後のポイントに期待ですか」
「敵艦発砲」
「ム!」
敵は3万で撃ち返してきたな。反航戦だし遠くないか。
案の定、遙か彼方への着弾だった。敵を見ると黒煙を吐いている船がある。当たっているようだ。当たっても爆煙が上がらないので、分からんな。
おっと!爆煙が上がったな。砲塔にでも命中して誘爆したか?
低い弾道で着弾した日向の砲弾は、アイオアの2番砲塔前面装甲をその物理エネルギーで粉砕した。前面装甲を粉砕した結果、内部を衝撃波と前面装甲の破片で破壊し、砲塔内にあった装薬や砲弾がそれで誘爆したのだった。
「まだ本艦の砲弾は有効なところに命中していないようですな」
「そうだな、艦長。だが当たってはいるみたいだな。その証拠に敵1番艦は砲撃をしていない」
伊勢の砲弾はニュージャージーの艦橋を吹き飛ばしていた。射撃指揮装置が故障して撃てなくなっていた。
他の敵戦艦からの砲弾が伊勢と日向を取り囲むように着弾し始めた。伊勢も日向も2発は喰らっている。バイタルパートや艦橋には被害は無いが、そろそろかな。
「距離2万」
「同航戦に入る。取り舵だ。艦長」「通信参謀「ワレニ続ケ」を」
「「はっ」」
伊勢への着弾は進路が変わったことで無駄になったが、舵が効き始めたばかりの日向には降り注いだ。煙が出ているぞ。
「速射砲に被弾も主砲に影響なし」
日向からだった。
定針した伊勢から再び砲撃が始まる。距離は1万9000まで近づいた。
「敵1番艦火災発生。速力落ちます」
「もう駄目かな」
「機関がやられたのでは。目標変更します」
「分かった」
「砲術、艦長だ。目標敵3番艦」
「砲術了解」
主砲の能力で圧倒している水上砲戦部隊が敵戦艦部隊を壊滅に追い込んだのは当然だった。
その頃、空母部隊は敵機動部隊からの空襲を受けていた。
迎撃できる戦闘機も無く丸裸だが、その防空能力は200機あまりの敵機に対して果敢に攻めていく。
航海に影響が出るほどの損害があったのは、古鷹と四万十だった。古鷹は海龍の盾になり魚雷を喰らった。少し傾いているが、トリムは復旧可能と言う。だが高速は発揮できない。四万十は撃墜したはずの敵機が根性を発揮して艦首に体当たりしたのだった。艦首のフレアがごっそり削り取られ、波浪が2番砲塔まで届く。波をかぶってしまい高速はやはり発揮できない。
空襲が終わった後、山口司令官は進路変更を言い出した。
「敵の後をつける。どうせ戦艦は沈んだ。今から空母をやりに行くぞ」
「新しい祭り会場に向かう」と橋本司令長官に電信して。
「古鷹と四万十は水上砲戦部隊と合流せよ」
「新しい祭り会場だと」
「機動部隊ですな」
「追いつけないか」
「今度はこちらが指をくわえている番でしょう」
「古鷹と四万十に合流位置を確認。その後帰投する」
「空母はいいのですか」
「勝手に帰ってくるだろ」
勝手に行動されては面白くないわな。艦橋の皆はそう思った。
「お待ちください」
通信兵から電文綴りを渡された通信参謀が遮った。
「何か」
「最高指揮官の指示が来ています」
「最高指揮官だと」
「加納少佐ですね」
「少佐ごときが我々に指示か」
「航海参謀。貴様、トラックの最高指揮官が誰か忘れたのか」
「はっ。最高指揮官は……」
「分かったか。これは指示だが、実質命令だぞ」
「失礼しました。肝に銘じます」
「分かれば良い」
「通信参謀、指示とは」
「はっ「敵艦沈没現場に向かいブイを回収されたい」とのことです」
「ブイか。何だっけな?」
「司令長官、敵艦を撃沈するとブイになると説明を受けました。それでしょう」
「なら前回は何故回収しなかった?」
「本土から近すぎたのでは。あるいは」
「あるいは?」
「忘れていたとか」
ハックション。誰か噂をしているのかな。
「そうなのか。まあいい。古鷹と四万十には、ブイ回収後に合流すると伝えろ」
残された彩雲は3機だった。すでに敵機動部隊の監視で3機が失われた。貴重な3機だ。
「蒼龍2番。敵編隊そちらへ向かう。推定120機」
「120機か」
「少ないですね」
「向こうも種切れか」
「こちらも種が少ないですよ。対空砲弾を派手に撃ちすぎました」
「砲術参謀、事実なのか」
「不慣れですね。面白いように墜ちるので、撃ちすぎました。7戦隊の連中は本艦などよりも残しています」
「向こうはここでの先輩だ。落ち着いているな」
「空母部隊の対空砲弾が残り少ないだと」
「一航戦の砲術参謀と主計参謀が言ってきました」
「二航戦も同じか」
「問い合わせたところ」
「まあ全機空母を目指したと言っても過言ではないしな。弾も使うだろう」
「どうされますか」
「3隻だしな。どうしようか。黒部を3角形の頂点で先頭にして、九頭竜と石狩は艦隊の左右後方で配置する」
「それしか無いでしょうね」
敵機の攻撃は、撃退できた。損害は少ない。翔鶴が飛行甲板中央に1発喰らっただけだ。航海には支障ない。それにもう艦載機が無いので飛行甲板に用は無い。一部では弾が尽きたという報告があった。対空砲弾だが、OTOメララ76ミリ速射砲の弾が切れたと。徹甲は残っているので対艦戦は出来る。
彩雲からの報告では、敵機動部隊に戦艦は居ない。
海龍のプラズマ熱砲で空母と巡洋艦を、七戦隊の3隻で駆逐艦を。3隻の空母は自衛に徹する。方針は決まった。
敵機動部隊と接触する前に7戦隊からHSS-2を瑞鶴と蒼龍に移動した。海龍からもわずか数機だが移動した。
敵機動部隊は逃げに入っている。彩雲の飛行経路からこちらの位置を推測したのだろう。だが速力の違いからじわじわと近づいている。一昼夜に渡る追跡行の末、ついに敵機動部隊を捉えた。
「距離2万」
「敵発砲」
「遠い。当たらんよ。艦長。巡洋艦からだ」
「砲術。撃ち方始め。目標巡洋艦」
「撃ち方始め、了解」
すでに照準は済んでいた。海龍から赤い光が飛んでいく。
その頃になって、敵の着弾があった。遠いうえにばらついている。
「命中、敵巡洋艦火災発生」
「凄い威力だな」
「驚きますね」
7戦隊は、空母を逃がすべく突撃してくる敵水雷戦隊の相手をしている。かなり隻数を減らしたがまだいる。どれだけいるのか。
戦闘は終わった。やはり装備の差が大きい。こちらの損害は少ない。
さてブイを集めるか。
「何回か拾っていませんでしたよね」
「マラッカの時は、相手が小さかったからな。本土近海ではやりにくいだろ」
「そういうことにしておきましょう」
「そうそう」
避難していた蒼龍と瑞鶴からHSS-2と艦載機が飛んできて、捜索活動を手伝う。
「そうだ。古鷹と四万十、翔鶴には艦艇用ポーションの使用を許可すると伝えてくれ。もう必要なさそうだからな」
いつも艦艇用ポーションに頼っていては練度の向上や危機感の維持に役立たない。いざという時だけの使用に制限している。航行に支障が無ければ使用しないという内規も作った。
合流して帰投した。
次回更新 10月30日 05:00予定




