演習 1回目
先程神を名乗る爺が羅針儀と時計を修正していった。おかげで正確な位置を航海が割り出した。
「艦長。戦闘海面まで300海里です」
「21時間か」
「全艦、各部点検の後、直を通常に戻せ。20時間後に警戒配置」
「「了解」」
だが、以前の船ならいざ知らず、新造とも言えるこの船のクセに慣れていないよなと思い、丸1日を訓練に費やし以前との感覚の違いを身につける。1日では不安だが油の問題も有る。おそらく演習中はほとんど全速に近い速力だろう。旧式な機関は全力運転の燃費が悪い。拠点に帰るだけの油を残していかなければいけない。
「先任、演習海面での問題は無いか」
「はい。イファリクアトール北東10海里に暗礁地帯が有ります」
「本艦のような吃水でも危ないか」
「イファリクアトール北東で通過できる場所が有るかも知れません。お勧めはしませんが」
「この海図だと載っていないぞ」
「以前第四艦隊で勤務していまして、その時に危険水面として覚えました」
「あの爺」
「不親切ですね」
「全くだ。海図の端っこを走ると暗礁に乗り上げる訳か」
「近づかない方が良いですね」
「うむ。近づく気は無いが、態となのかな」
「有りそうですね」
信用されていない神だった。
「おまけにウリアイアトールは環礁か」
「近づかない方が良いです」
「そうだな」
暗礁を書き足して、各科の長を呼んだ。
各科の長と相談結局の上、演習水面には北からの侵入となる。時間調整のため演習海面の外で一夜を明かす。
突入時間は日没2時間以上前に戦闘終了となる10:00とした。夜間当直の仮眠時間も取らなければ全力が発揮できんので、07:00から3時間仮眠を取らせた。
10:30か。10:20から警戒配置には就かせている。そろそろ戦闘配置に就かせてもいいだろう。その後、速力を上げて演習海面に突入する。良し、行ける。
「総員戦闘配置に就け」
やがて各部から配置完了の答えが来た。
「艦長だ。何故今のようなことになったのかは、未だにわからない。ただこれだけは言える。我々は生きている。必ず生き延びよう。そしてあの神とか言う爺に文句を言う。では、総員奮闘せよ」
「機関増速、第三戦速」
「取り舵90、真方位180で定針」
前を見ても区切りというか境界はわからない。一度出るそぶりを見せる必要があるか。
すると何かふわりと言う感じがした。艦橋要員も皆不思議な顔をしている。これが入ったと言う事か。
「艦長だ。今何か感じた者も多いと思う。演習海面に入ったと判断する。警戒を厳に為せ」
「先任、こちらに寄ってくると言っていたな」
「一部違う動きをする艦も有ると言うことです」
「そうだったな」
「あの爺が言うには駆逐艦4隻以上と言う事だが」
「駆逐艦4隻以上としか言わなかったですね」
「大物はどうだろう」
「見てみませんと」
「心配してもしょうが無いか。大物からは逃げよう。幸い機関は絶好調だ」
「水雷が文句を言ってきそうですね」
「やり直しは効く。後で撃たせる」
20分くらい直進した頃だ。
「3時、水平線に煙」
「煙だと」
「方位86、距離不明」
「面舵」
「全艦、接敵した。これより戦闘を開始する」
船体は設計通りの性能を発揮しているのか切れが良い。30度変針した後ですぐに定針に入る。
双眼鏡で見るが微かに煙が有るような気がしないでも無い。手持ちの双眼鏡と、艦橋据え付けの双眼鏡では見え方が違うしな。
「先任、あの爺の言葉を信じて良いならこちらに近づいてくるよな」
「そうですね。ああ、見えました。排煙ですね」
「8時、水平線に煙」
「何?」
「方位260度、距離不明」
「艦長、寄ってくるは信じても」
「そうだな。まあ近い方からやろう」
「前方の目標を甲、後方の目標を乙とする」
「甲、方位50、マスト見ゆ」
「進路このまま。右砲雷戦用意」
「甲との距離、1万8000」
「砲術、8000で撃ち方始め」
「8000で撃ち方始め。了解」
「艦長、水雷です」
「水雷は待て。相手が多い。ここぞという時に撃つ」
「発射機会を待ちます」
そう言えば機銃員は砲戦には無用だし被弾で怪我されても困るな。夜戦でもないしな。
「機銃員は艦内退避、探照灯員もだ。被弾時には復旧作業を担当せよ」
その後、2隻を沈め3隻目と4隻目を同時に相手したのだが記憶が無い。結構えらかったなと思うのだが……