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眩暈

作者: 青水

 ぐらぐら、と。

 ゆらゆら、と。

 ――眩暈が、した。


 どうして、突然、眩暈がしたのか、私にはまるでわからなかった。眩暈という結果があるのだから、その原因があるのは間違いない。しかし、わからない。特別、体調不良というわけでもないし、ぐるぐるとその場で回転したわけでもない。何もしてないのだ。いや、何もしてないからこそ、眩暈という現象が発生したのか? 意味がわからない。視界だけではない。私の頭の中までぐるぐる回り出した。何らかの怪奇現象が私に襲いかかっているのだろうか。混乱する頭で考える。しかし、まるでわからない。


 回る。

 回る。

 私の世界、そのすべてが回り、揺れ動く。


 誰か私を助けてくれ。私を救ってくれ。意味不明で、複雑怪奇なこの世界から、私を救ってくれ。助けの声を出そうとする。そこではたと気づく。声を発することができない。口をぱくぱく開いても、そこから声発せられない。それはただの口の上下運動にすぎない。ほんの少しの声も出ない。私の声帯は一体、どこへ消えた? 混乱がやがて恐怖に変わる。私は動き出そうとした。足を一歩、前へと踏み出す。しかし、その瞬間、平衡感覚を失ったのか、私の体がぐらりと揺れた。まずい、と思った瞬間には、私は地面に倒れていた。倒れ方がよかったのか、私の肉体はそれほど傷ついてはいない。


 痛い。

 痛い。


 目に見える大きな傷は負ってないはず。しかし、なぜかどうしようもないほどに痛かった。私の体が叫んだ。痛覚が刺激された。私も叫ぼうとしたが、やはり声は出ない。呻き声すら出ない。私の目は空か地、どちらを向いているのだろうか? 激しい眩暈によって、私の視界は一時たりとも安定しない。


 揺れる。

 揺れる。


 そのうち、私という存在がおかしいのだ、と思うようになった。私がおかしくて間違っているのだから、それを正すために世界が再構築されている。その過程で眩暈その他諸々の事象が発生しているのだ。そのように思うようになった。


 変わる。

 変わる。


 私という存在が変わる。私の世界が変わる。どう変わるのかはわからない。どこへ向かうのかもわからない。私にわかるのは、眩暈が生じているということだけ。なんだか、思考すること自体が億劫になってきた。もう何も考えたくない。そもそも、私はどうして、こんなわけのわからぬことを考えているのだろうか? 何も考えなければ、ただただ時が一定の速度で過ぎ去るのみだ。


 待とう。

 待とう。


 しばらく、ぼんやりとしていると、いつの間にか眩暈が消え去っていた。声も出るようになったし、痛みもなくなっていた。この眩暈は一体、なんだったのだろうか? 考えてみても思い当たる原因はない。病院へ行こう、と私は思い、立ち上がった。そして、取り戻した平衡感覚で、まっすぐに歩き出した。しかし、心の中では、きっと病院に行っても何もわからないのだろう、と考えていた。これは、一般的ではない特別な眩暈なのだ。

 病院の前に到着した。病院の建物の中に入った瞬間だった。


 ぐらぐら、と。

 ゆらゆら、と。

 ――眩暈が、した。


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