表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

恋の図書室へようこそ 短編VER

作者: ヒマダナマコト

数日前からキーボードでの作業のしすぎで右腕が痛くて普段連載している「大学生活最後の1年でボディーガードの仕事の依頼人が美人で人気な小説家だった件」の第9項以降の原稿が書けていないので、今日は過去に短編で書いたこの作品をお楽しみください。


僕は身長も決して高くなく髪もぼさぼさで”ザ・陰キャ男子”と言えるクラスカーストの奈落の底に居る奴である。


陰キャの人は勉強が意外と出来ることがラノベ主人公として描かれていたりするが、僕にはその理論には当てはまらない。


陰キャ男子にとって一番つらいのは休み時間の過ごし方だと思う。

ここ2年間くらいはずっとお弁当の時間が終わったら昼休みを図書室で過ごすことが多かった。


その空間に入ってやることは、新たな本を探したり日向ぼっこをしたりと勉強ができるわけではないけど、本を読むことは好きだったので開館している日は毎回この場で過ごしていた。


逆に閉館日の時は教室以外で陰キャでも過ごせる場所は無く結局教室の自分の机に突っ伏していることが多かった。


本を読むジャンルはラノベに限らずミステリー、ファンタジー物、警察ものなど読む本を選ぶ際に室内の色々な場所にある本棚で面白そうだと感じたものを読破してきた。


また、ただ、読むだけでなく司書の先生とお話をするのが俺の唯一の人とのコミュニケーションを取る時間で楽しみにしている瞬間でもある。


司書の先生以外にもう一人クラスメイトの女子と話す時もあった。


その彼女は学年で見ても容姿端麗・品行方正・成績優秀と四字熟語が3つも並ぶようなこの名前を知らない人は居ない生徒である。


特に長くて艶のある黒髪と緋色に近いメガネが彼女を示す大きな特徴である。


この人はこれだけのハイスペックさがあるのにも関わらず、クラスカーディガンのトップには入っていない。


そして学校以外の彼女の姿を知る人は居なくてプライベートは謎に包まれていると誰かの話声から聞いた覚えがある。


他のクラスメイトは教室に居る時の彼女の雰囲気しか知らないだろうが、彼女は教室に居る時と図書室に居る時と雰囲気がかなり異なると僕は思っている。


図書室に居る時は優しいトーンで穏やかに話し長くて黒い前髪の奥から時折見える素顔からはかなりの美貌の持ち主であることが伺えるのだ。


彼女とたまにこの図書館で話す時が楽しみでこの場所に昼休みや放課後に来ると言うのもある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は卒業まで1週間を切っていて県立高校の合否発表まで残り2日に迫る中緊張感が一層高まっているのが

自分でも分かる。


少しでもその緊張を解きほぐす為に今日も他の生徒は居ない放課後の図書室で司書の先生と話をしていた。


公立受験の際に緊張したことを報告し高校に入学したらやりたい部活とかについて話をしていた。


その時に図書室の扉が開く音が聞こえた。


足音から本の貸出カウンターの方に向かって来るのは1人だと分かる。


現れたのは同じクラスメイトで長い黒髪を後ろに結びメガネを外した姿で唯一ちゃんと話をしたことがある容姿端麗で成績優秀者でもありながら多くの謎に包まれている彼女だった。


改めて見ても人形みたいな整った顔立ちをしていて窓からの日差しが彼女を当てて足元には彼女の影が映る。


この影を見ただけでもその美しさが分かる。


「あ、高島(たかしま)さん?お久しぶり~。受験はどうだった?」


司書の先生は彼女の姿を確認して口を開いた。


この女子、高島って言う苗字であることを今になって知った。


今まで話したことは何度かあるけど、苗字を今この瞬間に知ったというのもとても恥ずかしい…。


「お久しぶりです。先生。受験はたぶん合格していると思います。」


「そう。すごいね!自信あるんだ?」


「ええ、勉強してきたことがそのまま試験で出たので、たぶん問題ないと思います。あとこの本返しますね。」


すらすらと受け答えをするその姿は見ている僕の心を揺らがせる。

立っている姿勢だけで絵になる。


相変わらずこの人凄いなぁ。

どこの公立高校受験したんだろ?

噂だとこの人の学力偏差値は78以上を超えていると聞いた覚えがある。


偏差値78ってもう化け物の領域だなぁと思う。


「あの~、長本(ながもと)君、今少し良いかな?」


え、ええ~、なんか俺の名前が呼ばれた。

この人僕の名前知っていたというのが驚きである。


「あ、はい。なんでしょうか…。」

僕は急に丁寧語で話し始め女性に話しかけられて緊張してもじもじしている自分が居た。


「こっちに来てもらってもいい?」

僕の学ランの袖先を高島さんは引っ張りながら俺は彼女のが歩く方についていく。


果たして何の話だろうか…。


もう図書室という密室空間で男女の生徒2人が一緒に居るという状況がやばい。


てか、司書の先生傍観視していないでなんか言ってよ~。

僕の心臓は既に跳ねまくっていた。


高島さんは立ち止まり僕の方に身体を向け目を合わせてきた。


彼女の前髪の奥から時々見える顔を見たのは初めてでは無いけど、すぐ近くに彼女の顔があって距離も近い。


ここまで彼女の顔が間近にあると自然と僕の視線は彼女の肌に目が行ってしまう。

白くて雪のような透明度だ。


そして彼女が前髪に触れる事でシャンプーの良い香りが鼻をくすぐる。


「あ…あの…ね...。明後日3月10日の県立高校の入試の発表日に自分が受験した高校の合否を確認した後に学校の図書室に来てくれませんか…。」


彼女の声は震えながらも一生懸命に僕に伝えていた。


更に彼女の表情は少し不安げにそしてまだ3月の初旬の図書室の寒さによるもののせいなのか緊張によるものか分からないが、手が震えていることが鈍感な僕でも分かった。


「わ、分かった。どういう話なのかは今は触れない方が良いのかな?」

僕はそう聞き返す。


彼女は”うん”と首を縦に振り図書館を出ていった。


普段は余り表情を見せない高島さんだったが、僕との距離を縮めてこの言葉を言って離れていった時のはにかむような笑顔と少し恥ずかしさを隠しているような気もした。


何だろうか…。今日この場で言えなくて明後日の発表日に言いたい事って…。

それにあんな普段教室だけでなく図書室で話す時には絶対見せる事のない表情を見せつけられたら多くの男子は落ちるだろうし、僕の足元のすぐ先には地面がない状態に近い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



2日後俺は受験した大宮総合高校の数字の羅列が並んだ合格発表のボードを見ていた。


俺の番号である”1222”と記された受験番号を探すと見事に記されていた。


俺は無事公立高校に行ける事が確定し一人喜びを噛みしめながら入学書類を頂く。


その先の人生の合否を表すボードの周りでは数字を見て喜ぶ者、膝から崩れ落ち泣いている者と色んな人で賑わいをみせていた。


僕自身も公立高校への合格きっぷをを入手出来て受験勉強を頑張って良かったという嬉しさと図書室で2日前に高島さんに言われたあの約束を守る為にも喜びを噛みしめながら中学校までの道のりを急いだ。



担任の先生に報告し、握手を頂いて少し話しをしたあと急いで図書館に向かった。


図書館に着くと、部屋には司書さんのみがいた。


「どうだった?受験は?長本くん?」


「合格しましたよ~~。国際教養学科(こくさいきょうよう)。」

俺は、到着してすぐ報告した。


「良かったじゃ~ん。長本君遅くまで図書室で受験勉強頑張っていたもんね?」


司書の先生も自分事のようにして喜んでくれた。


「はい。受験勉強あの時にはじめてちゃんと諦めずに頑張って良かったです。」


「うん、先生も嬉しいよ~。」


たぶん担任の先生以上にテンション上げて報告した気がする。


約束の彼女の方はまだ来ていないようだ。

それに気づいた僕の方を見ながら先生は言った。


「高島さんはまだ来ていないみたいね…。たぶん彼女の学力なら合格していると思うんだけどね…。」


「ええ、受かっていると良いですねぇ…。」

俺もどこの公立高校に受験したのは今日まで聞けず仕舞いだったが、彼女の成績ならたぶん良いところに合格しているだろう…。


「そういえばさ、長本君って高島の事どう思っているの?」


司書の先生は切り出した。

「え、どう思う…。というのは?」


俺は急に振られた質問に動揺する…。


「え、だから好きか嫌いかという事だよ?」


「う~ん、好きか嫌いかと言ったら…。」

俺はしばらく考える。


高島さんは俺と同じクラスメイトであって教室で話したことは余り無いけど、この図書館では何回も会話を回したことはある。


彼女は綺麗だから一目惚れしなかったのかと言うとそれはウソではないが、誰だってこんな美人と話したら好きになることは間違いないと思う。


教室に居る時の高島さんを見ると愛想が無く意見を求められても彼女が口を開くことは無く、多くの場合黙っていることが多い。


でも前に席替えで僕の横の席に高島さんが座る事になった時に授業中に2人1組で課題をやるときに多く話した覚えがある。


その時に彼女の要領の良さと頭の良さを知ったのだった。


あの2ヶ月ぐらいの期間は僕も中学校生活の中で一番の有意義な時間を過ごせた気がする。


なので席替えで離れてしまった時は少し寂しかったし俺の心にはまた空虚な状態が続いていた。


ただ、図書室に彼女が現れて時々話すことでその穴を埋めていた自覚はある。


「言ったら…?」


先生は真剣な顔でカウンターから身を乗り出して聞いてくる。


「人としては好きですね。」

無難な回答だろう…。


「あ~ん、恋愛的にはどうなの?」


「恋愛的には…。え、分からないですね。考えたことないです…。」


実際高島さんの見た目や数カ月近くの席に座っていて話したことくらいしかないから、

よくわからないが、彼女自身に悪い印象は無く良い印象の方が多いのは事実だと思う。


「そっかぁ。」

そう呟いて司書の先生はPCに向かって仕事をしていた。


僕がこの部屋に入って1時間経っても彼女は現れなかった。


1時間後司書さんが昼休憩のため図書館を出て行った。


僕は何万冊もある本がある図書館という学校の中でも特に静かな密室空間にいる。


この全ての本のうち何冊の本に3年間で出会っただろうか?

自分は、多くのジャンルを読んできたつもりだが、この図書室に蔵書されている本すべては読破はしていないはずだ。


3年間で読破する猛者なんてなんて普通いないだろう。


窓の方ヘ行き外を見る。 天気は快晴で春らしい陽気だが、まだ少し寒さも残っている。

眠気を誘う暖かい風が頬を優しく包んでくれる。


本の貸出カウンター近くの椅子に座り丸机に顔の側面を乗せる。

太陽の光が顔の片面を照らしてくれる。

風と壁時計の秒針の音だけが静かに囁く。


あまりの暖かさで一眠りしてしまった。

目を覚まして時計を見ると丁度12:00を2つの長さを持つ針は指していた。

腹の虫が鳴り響く。平和な一日だと思う。


その時図書室の扉が開いた音がした。

司書さんが昼休みから戻ってきたのだろう。まだ、高島さんは現れないのか…。


僕はまだ机に顔を当てて、窓側に顔を向けてだれていた。


自分の背後で人の気配が感じた。こちらに向かって来る。


微かに上履きが床にこすれる音がする。

誰か生徒が来たのだろう。5秒程の時間の流れの筈だが…。やけにゆっくりに感じられた。


僕に近づいてきたその人はこう言った。


「約束の時間に遅れてしまってそして長く待たせてしまってごめんなさい。」

謝罪の言葉が耳から入り長い髪が前に垂れていることが分かる。


たぶん謝っているのだろう…。


改めて思うけどこの人の声は透き通っていて聞いている僕自身もなんか浄水される感じがする。


僕は頭を上げ、高島さんの顔を見た。


昨日の学校生活でもこの人の姿を目で追いかけて見ていて一昨日には約束の話もしているからひさぶりに会った感じはしないけどなんか新鮮な気持ちになる。


俺は腰を伸ばし高島さんの方に身体を向ける。

「大丈夫だよ」と指を突き出して言う。


「合格発表どう…でしたか…?」


高島さんは俺がいる机に歩を進めて近づいて話を始める。


「大宮総合高校の国際教養科に合格したよ。運よく潜り込めたね、とりあえず高校生になれて良かったよ~。」

俺は公立高校合格という嬉しさを素直に伝える。


「高島さんは合格発表どうだったか聞いても良い?」


俺は聞き返す。


彼女はもじもじしていた。その質問を聞いた途端、彼女の顔は急に赤く染まっていた。

日差しが彼女の顔に当たり神々しさが見ていて感じられる。


「実は、私が受験したところ長本君と同じ高校でコースも同じなんだ…。それで、合格できたよ…。」


小声で彼女はあごを机に載せて目線を俺に合わせて言った。


僕は最初彼女が言った事が信じられなかった。


そして彼女が発した言葉を何度も噛みしめ咀嚼をしながらやっと理解し始める。


俺と一緒の高校に受験ってどういうこと?

高島さんって学力優秀者だからもっとレベルが高い高校に行ったのかと思っていたけど、

でもなんで彼女がそんな偏差値60も切っている高校に…。


俺は彼女が発した文章だけで疑問点が一杯だった。


手を胸にあてる。

正直言うとこの人と一緒に高校生活を楽しめることができるかはわからないが、同じ高校という事は話せるチャンスが次の3年間まであるという事だ。


もちろん嬉しいに決まっているが、まだ彼女がそこに決めたことが実感できていない。


偏差値77以上の学力を持っているとうわさされている高島さんがわざわざこの高校は入学する必要は本来ならば無いはずだ。


他のクラスメイトは、先日彼女が都内の超優秀な高校に行くと聞いて少しがっかりしたと漏らしていたのを聞いたことがある。


「高島さん、学力優秀って聞いていたからどこの高校に進むのも自由だとは思うけど、あの高校偏差値は57くらいしか無いのになんで大宮総合高校に受験したの?」


「言わなければ分からないですか?」

そう小さく言った。

僕の目線の先にある彼女の顔はどこか恥ずかしさをこらえている表情をしていた。


いやわかんないだろと思ったが。

まさか、告白に近い物を感じたのは俺の気のせいかもしれないなとも感じた。


高島さんは僕の方に身体を向けて一度息を吸って話始めた。


僕はこの台詞を一生忘れることは無いと思う。


長本巽(ながもとたくみ)君。あなたの事が好きです。入学式があったあの日に私を助けてくれてありがとうございました。あの時はお礼も言えず助けてくれた人の名前を知ったのは3年生になってからでした。それもまさか当時助けてくれた人が自分のクラスにいるとは思わなくて…。3年も月日が経って遅いかもしれないけど、言わせてください。あの時はありがとうございました。そして…。この気持ちをうけとってくれませんか?」


「あ、思い出した!!あの時の自転車にぶつかって倒れた女子って君の事だったんだね?いや、まさか高島さんだったとは分からなかった…。あれから大きな怪我でなくて本当良かったよ~。」

僕は3年前の入学式の出来事を思い出しながらあの自転車にぶつかって怪我をした本人というのは高島さんのことだったんだなぁ。


僕もあれからどうしたのかなと思っていたから…。


「それで、あの、もしこの気持ちをうけとってくれるなら私と付き合っていただけませんか…。」

僕はいま清楚系学力超優秀?の容姿端麗美人に告白をされている状態だ。


てか、なんで俺なんだろ?


「気持ちは分かりました…。素直にうれしいで・す。でもなんで僕なんですか?」


「昼休みや放課後に図書室で話した時間が楽しかったことや、一度席替えで席が近くになった事があったと思うのですが、その時の時間が楽しくて私自身人見知りなので、話しかけてくれた時は嬉しくて。再び席替えで長本君と離れてしまった時はなんかもっと君の事を知りたいと思う気持ちが強くなってしまったんです。でもその気持ちをコントロールするのが大変で、公立高校の合否が分かるこの日なら受験勉強という終止符を打ち完全に終わることができ気持ちを伝える事にも集中できるかなと思って一昨日この約束を君に話したんです。」


「そうか、実は、俺もさ、高島さんと図書室で話す時間が楽しみであったし教室で席が近くになった時も話しかけづらかったけど実際に話してみるとけっこう面白いというか楽しくてあの時がとても充実していたなぁと感じていたんだよ。」


「え、じゃぁ、それって…。」


「僕からも伝えるね、本当は告白なんてしたことないし、テンプレートみたいな物があるのかもしれないけど、はっきり言う事にするよ。”高島みやび”さん僕もあなたの事が好きです。僕で良ければ付き合ってください。」

僕は一つ一つの言葉を噛みしめながらこの人への想いを伝えた。


「はい。よろしくお願いします。」

彼女は最後まで僕の話を聞いてくれ、そして嬉しそうな表情を見せてくれた。


その表情は破壊力ある。


でもまさか高島さんが僕に対して好意を持っていたことが驚きの連続である。


そしてタイミングよく司書の先生が入ってきた。時刻は12:30だ。

彼女がこの部屋に入って30分しか経っていないことを知る。


司書の先生は「あ、私邪魔だね」と言って急いで部屋を出て行こうとする。が僕達は先生が部屋を出るのを慌てて止めた。


「いや~やっと付き合い始めたのね?」


「え、やっとって…。先生は分かっていたんですか?」


「もちろん、2人がここで話しているのを見た時どっちも心の底から笑っているなと感じたからね。高島さんもこの部屋に居る時はずっと長本君の顔を見ていたからね?女の子が男の子の顔を見るのはそこに何かが付いているか、その男子の事が好きなのかのどっちかなのよ。」


「先生、恥ずかしいのでもうこれ以上言わないでくださいよ~~~。」

高島さんが急に恥ずかしさを顔で隠しながら言う。


「じゃぁ先生今日はもう帰ります。」

俺はそう言って高島さんの手を連れてこの部屋を後にする。


この告白一部始終を先生はドアの所で聞かれていたんだなと思った。


それにしても超絶美人の高島さんと付き合う事になるとは頭の中は大混乱していた。

なぜ、彼女と同じ高校なんだと思う疑問がまだ拭えない。勿論素直に嬉しいけどね。


昇降口で靴箱から靴を取り出す。

告白されたが、あのあと高島さんと何も会話がない。


「長本君って、携帯とか持っている?」

高島さんの方から先にこの空気を切り出してくれた。

ありがとう。ヘタレていてごめんよ。


「今は持っていないけど、たぶん親に頼めば買ってくれるかもしれない。」


「これ私のメールアドレスだから、携帯購入したら、メール送ってよ」

彼女はメモ帳から一枚メールアドレスが書かれた紙をくれた。


まさか高島さんのメールアドレスをゲットできるとは思わなかった。

たぶん今日の一日で今年の運は使った気がする。

「分かった。ありがとう。」

丁寧に受取り制服のポケットに入れる。


正門に出ると、太陽が僕たちの真上にいた。

僕にとっては学業と恋への2つの合格を祝っているのだろうか?


「今日はありがとうね、長本君からも”好き”って言ってもらって嬉しかったよ。また明日~じゃあね。」


そう言って高島さんは去っていた。僕も彼女の後ろ姿が見えなくなったことを確認し家路を急ぐ。


家に向かって歩いていると次の瞬間頬に彼女の唇が当たった。


いつのまにか真後ろに彼女の姿があった。


この人の勝手なイメージだと、告白してすぐに男にほっぺにキスする様なタイプではないはずなんだが、意外性を感じた。


「じゃあね、高校の入学式説明会は25日だからね、忘れないで。」


そう言って青い空に向かって駆けていった。


全くしっかりしている人だと思い、キスされた頰を抑えながら本当に家路につく。


卒業式は3月13日つまり明後日だ。やっと卒業だ。正直いって嬉しい。


陰キャ男子でクラスカースト最底辺にいる俺にとっては受験や告白と同じくらいの喜びがある。


家に帰りを昨日同様遊びまくるとしよう。

告白の事はまだ親には黙っていよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次の日 朝学校に行くと公立受験した人達は大盛り上がりだったのと同時に学校全体でも有名であった”高島みやび”が告白をしたニュースがあっちこっちの会話から飛び交っている。


久しぶりに校舎内に生徒の声が響き渡っている。


卒業式の準備もしつつ、最後の学年集会が行われた。


体育館の床寒いから勘弁してほしい。


学年の先生達は色んな事を熱く語っていた。でも1時間くらいで終わった


僕は安定の睡眠時間でしかなかった

その日は、授業が終わり家でのんびりしていたかったが、 親が合格祝いにスマートフォンを買ってくれるというので、ありがたく頂く。


早く初期設定して高島さんから頂いたメール先に送ろうと。


これで、今後の楽しみができ今は幸せの気持ちでいっぱいである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


12:00ぴったりに卒業式は終わった。


これで中学校の家庭及び義務教育9年間は終わりを迎えたのだ。


最後のSHRが終わりクラスの人は最後に話をして別れを惜しんでいるなか僕はクラスメイトに用は無いので急いで教室を出る。


自分は再びこの敷地に入る用事はないしクラスの人から卒業パーティの招待状は受け取っていないので、早々と帰宅する。


昇降口出ると爽やかな青空が広がっていた。

後ろから、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。俺の名前を呼ぶ奴なんて限られている。


声をかけたのは高島さんだった。満面の笑みで返してみる。


「卒業おめでとう!」のやりとりがしばらく続く。


「クラスの方に行かないのか?」

俺はそう聞く。

この人は俺と違いクラスカースト底辺では無いから友人も少しはいるはずだ。


「私もクラスメイトに素直に話せる友人は居ないからこのまま帰るよ。」


高島さんの横を歩きながらとりあえず正門を目指す。


「高島さん。明日のお出かけ何時集合にする?」

俺は高島さんに聞く。


「もう恋人同士なんだから高島さんって呼び方はやめてよ?”みやび”って呼んでよ?」


「いきなり呼び捨てはハードル高いから”みやびさん”で良い?」


「う~ん、しばらくの間はそれでも良いけど、高校に入学したら呼び捨てで呼んでもらうからね?(たくみ)くん?」


髪をリボンで結びヘアピンをつけたいつもより気合が入っている彼女は手を後ろにやりながら俺を振り返るポーズでそう言った。


「はい。わかったよ。みやびさん…。」

女子を下の名前で呼ぶなんて今までやったことないから緊張するなぁ…。

これに慣れるのには時間がかかるそうな気がする。


「明日の集合場所は駅の改札前に10:00くらいで良いかな?」


「了解。それで行こう!」


「明日遅れてこないでよ?」


「ああ、1時間前には来るようにする。」


女性とのデートの際には集合時刻の1時間前には男の人は来るものだとつい先日買ってもらったスマホで検索したインターネット記事にはそう書いてあった。


「まぁ、そんなに早く来なくても良いけど…。私とのデート楽しみにしていることが伝わったよ。じゃあ。また明日ね。私も楽しみにしているからねぇ。」


「ああ、じゃあね。」


俺は歩きながらなんでクラスでも相当な陰キャ(自虐)な自分が、憧れだった人と明日遊びに行ける状態であるのか今でも実感が持てない。


彼女いない歴イコール年齢という空間からは、どうやら解放されたようだ。


俺は人生で最初の女子とのお出かけを心待ちにしていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの出来事から月日は10年が経過していた。


僕とみやびさんとの結婚式を終えた所だ。


一緒の高校に進んだ後同じ大学に進み就職先は別々だったが、その後同棲生活をして

結婚に至ったのだ。


プロポーズは僕の方から先にした。


10年前の3月のあの日は彼女の方から気持ちを伝えてくれたので、10年の時を経てこっちから先に気持ちを伝えることができた。


それから更に15年の月日が経ち息子は大きくなり今日は彼の中学校の卒業式に出ていた。

息子も自分達と同じ中学校に3年間通い感慨深い物があるしこの敷地に入っただけで自分の学生時代を思い出す。


俺はみやびに一つ聞いた。


「中学時代に雅さんの方から告白される前にさ司書の先生からみやびの事を恋愛的に好きか聞いてきたんだけどさ、もしかしてだけど、司書の先生は既にみやびが俺の事を好きであることを理解していたのかね?」


「私もそのことをこの敷地に入ってから思い出しているんだけどね、実はだけど、司書さんは私が巽さんに気持ちがあることをけっこう前から分かっていたみたいでその気持ちを受験終わったら伝えてみたらと提案されたんだよ。」


となりの席に座り式にあった服装に身を包むみやびさんは言った。

今日も美しい。


「え、司書の先生も生徒の想いに気づいていたなんて凄いなぁ。」


「本当だよねぇ。だからそれを言われてあの時巽に告白を決めたんだよ?」


「まさか、あの告白でここまで長く一緒に居られる事になるとは思わなかったなぁ。」


「そうね、私もそう感じるわ。運命というかなんか凄い偶然というか奇跡的な出会いを私達はしたんだと思うわ。巽さん。」


俺たちは息子の卒業証書授与の瞬間を動画に収めながらこの中学校には親子3人でお世話になるとはあの告白をされて気持ちをこっちも伝えた時は考えもしなかっただろう…。


息子よ。俺でも青春を感じられたんだからお前も頑張って青春を謳歌しろよなぁ!


                                           完


短編と言いながら長い話だったと思います。


ヒロインの高島みやびは「大学生活最後の1年でボディーガードの仕事の依頼人が美人で人気な小説家だった件」で出てくる男主人公の高島俊明の妹である高島聖奈の娘と言う設定です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ