26:学院編:君達に真理を教えてあげよう。
4年に1度の2月29日。せっかくなので更新してみた。
そんな理由で更新してすまない。本当にすまない。
中近世において武士だの騎士だのいう連中が猛威を振るった理由は、常備軍無き時代にあって奴らだけがガチで戦うための存在だったからだ。
農民が一年中地面を引っ掻き、町民が朝から晩まで日銭を稼ぐ時代にあって、騎士や武士だけが農民から巻き上げたものをたらふく食い、町民から搾り取った金で鍛えまくっていた。そりゃあ強いに決まっているのだ。
であるがゆえに、武士だの騎士だのと言われていた連中と正面切って戦える奴は、同じ武士だの騎士だのしかおらず、武士も騎士も雑兵の命など手柄と認めなかった。土屋正恒の片手100人斬りなど数量で計測される程度の命。それが兵というものだった。
そんな雑兵が騎士や武士を倒そうとすれば、犠牲覚悟で衆に恃み押し潰すか、矢玉を雨霰と降り注がせるか、姑息で卑劣な罠や策を弄するしかなかった。
実際、ハプスブルクの精鋭騎士達を相手に独立戦争を行ったスイス人達は、それはもう当時の戦争ルールを全て無視した残虐ファイトで騎士達をハメ殺した。
ここまでしなければ、倒せない相手が騎士や武士というゴリラなのだ。
そして、アイヴァン・ロッフェローは名レスラー、ブロック・レスナーのような筋肉モリモリフルマッスルな巨漢のゴリラだ。
しかも、ダンジョンアタックで実戦経験を積み重ね、既に人間も殺し(しかも素手で殴殺)ていて、娼館から学園へ通うことすらあるロクデナシで、公爵家に喧嘩を売ったイカレポンチというヤベー奴だ。
絵に描いたような色物系キャラ。そんな奴が公爵家のボンボン一党と一人で決闘するとなれば。
アイヴァンが決闘に備えて訓練用装備へ着替えている間に、騒ぎを聞きつけた暇人共が競技場へぞろぞろと集まってきていた。
大部分の暇人共は単なる野次馬根性。学園きっての色物野郎と鼻持ちならないブラット・パックの決闘を見物したいだけ(出来れば、ブラット・パックがボコられるところを見たい)。
少数派は学園屈指のゴリラ野郎アイヴァンの実力を見たい奴とか、貴族界隈的なしがらみによってやってきた奴とか、あるいはゴリラの関係者とか。
「公爵家とまた揉めやがってっ!」「このバカッ! このバカゴリラッ!」「謝ってっ! 絶対また面倒に巻き込まれる私達に謝ってっ!」
アイヴァンの冒険者クラン関係者達が競技場に入ってきたアイヴァンの許へ駆けよると、全員総掛かりで引きずり倒してがっこんがっこん殴りつけ始めた。副団長のアーシェなど先頭に立ってアイヴァンを蹴り飛ばしている。容赦なし。
「……随分と手荒い激励ですね」
ピンク髪の正統派ヒロインこと王女アンナローズが引き気味に呟くと、取り巻きサブヒロインBであるロリペタ魔導術師ローレインが淡白に言った。
「や。アレはガチで殴ってる」
仲間の名誉を守るために決闘を受けたのに、その仲間達にボコられるゴリラ。アンナローズは端正な顔に何とも言えない表情を湛えた。
「ぬああああああああああああっ!!」
アイヴァンが怒号を上げ、強引に立ち上がってクランの団員達を押し退ける。戦う前からボロボロである。鼻血まで出てるが、これはアーシェが顔に蹴りを入れたからだ。エグい。
「このクソアマっ! 仮にも副団長なら、勝ったら私を好きにして良いよ、くらい言えやっ!!」
「あんた、頭の病気なんじゃないの?」
喚き散らすアイヴァンへ、アーシェは女性が示し得る最大級の冷淡さで吐き捨てた。
いつものやり取りをすませ、アイヴァンは足跡が山ほどついた訓練用甲冑を軽く払い、殴られてへこんだ訓練用兜を被る。バイザーを下げてスリットから主人公一同を窺う。
いまだダメージの抜けない主人公様と少年戦士が悔しげな面差しでこちらとブラット・パックを睨んでおり、そんな主人公を気遣うヒロインBことヒルダ・フォン・ガイアーと主人公の親友様。
ざまあねェぜ、マヌケヤロー。転生しようが、主人公のガワとチートを得ようが、テメェの根っこは負け犬なんだよ、社畜野郎。
アイヴァンはバイザーの内から漏れぬよう小さく嘲笑し、自身の転生に関わる神と社畜野郎に対する悪意を弄ぶ。
主人公様を嘲りながら競技場の試合線を越えた先には、ラ・モラデイオン家の子倅と取り巻き5人が並んでいる。
うらなりの青瓢箪の甘ったれ。
自分は他人のケツを蹴っ飛ばして許されると思っている薄らバカ。
想像力の足りない知恵遅れのノータリンにパープリン。
名門のおこぼれに与かる人生しか考えてないタマしゃぶり野郎とケツ舐め野郎。
ふん。クソガキ共が。
クソ上司とクソ部下とクソ取引先を相手しながら、嫁と子供達を食わせて、家と自動車のローンと保険料その他諸々を稼ぎ続けてきたことに比べりゃあ、テメェらの相手なんざ屁でもねェんだよ。
「ロッフェロー」
決闘の審判役を担う、取り巻きサブヒロインAことデカパイのエルズベス・フォン・アイトナが声を掛けてきた。
やめろ、デカパイ。声を掛けてくるな。俺が死ぬ。
パブロフの犬的被害妄想を走らせて内心悪態を吐きつつ、アイヴァンはエルズベスに顔を向ける。
「審判として不適切であるが、貴殿の健闘を祈る」
騎士たるを誉れとするエルズベスはこの数的不利な決闘に思うところがあったらしく、声援を寄こした。
「気遣い無用」
が、アイヴァンは歳若き女騎士の気遣いを鼻で笑い飛ばし、居並ぶブラット・パックに対し、訓練用の片手剣と盾を激しく打ち鳴らし、高々と吠えた。
「競技場の床の味を教えてやろう、クソガキ共っ!」
○
「はじめェっ!!」
エルズベスの凛々しい宣言と共に決闘の火蓋が切られた。
冒頭にも記したが、力も技量も体格も劣る者達が騎士や武士を倒す方法は、囲んで叩くしかなかった。それも、アニメや時代劇みたく一人一人順番に、ではない。一斉に襲い掛かるのだ。上手くいけば、被害なく一方的に袋叩きに出来るし、上手くいかずとも幾人か犠牲になるだけで騎士や武士は殺せる。
しかし、相手が灰色熊のような奴だったら?
話がだいぶ変わってくる。
「ミューカス・バインドッ!!」
モラデイオンの子倅がデバフ魔導術を放つ。主人公様を絡め捕らえた粘液の蛇達がアイヴァンの足腰に襲い掛かり、
「しゃらくせえっ!」
罵声と共に文字通り一蹴された。
「なぁっ!?」「なんでっ!?」
試合線内でモラデイオン家の青瓢箪が、試合線外で主人公様が吃驚を上げる。
「当然です」ロリ魔法少女ラーレインが隣で驚き顔を浮かべる姫様へ「ロッフェロー卿は入学以来、ダンジョンに潜り続けていると聞きます。つまり、武人としての格がモラデイオン卿達と違いすぎるのです。あまりにも格に開きがあると、あの手の妨害系魔導術はまず効きません」
いわゆるゲーム的レベル補正。低レベル側のデバフが高レベル側に効き難いというアレだ。
デバフを蹴散らしたアイヴァンがフルアクセルの四トントラックの如き迫力で、ブラット・パックに突っ込んでいく。
「ファイアボールッ!」「くらえっ!」
魔導術師のパープリンが急いで牽制の火系攻撃魔導術を、弩銃持ちのノータリンが矢弾を放つ。も、アイヴァンは盾をかざして火焔球と矢弾の直撃に堪え、そのまま突貫を継続。さながら、砲弾を跳ね返しながら突っ込む重戦車のようだ。
突撃を止められぬと判断し、前衛役の薄らバカとタマしゃぶりとケツ舐めがシールドラインを形成。
「来るぞっ!」「おおっ!」「来やがれ、ゴリラヤローッ!」
雄々しく叫ぶ三バカに対し、アイヴァンはへこんだ兜の中で嗤い、シールドラインへ体当たりをぶちかます。
身長2メートル弱の全備重量100キロ超の質量が、100メートル走15秒台の速度で突撃したなら。
自動車事故みたいな轟音が競技場に響き渡り、撥ねられた薄らバカが宙を舞い、頭から落ちた。弾き飛ばされたタマしゃぶりとケツ舐めが転げ倒れていく中、アイヴァンは中衛のノータリンとパープリンへ向け、跳躍。
訓練用とはいえ、全身甲冑姿の巨漢が飛び跳ねるという暴挙に、中衛の2人は驚愕して反応が遅れる。
その一瞬が運命を決した。
訓練用片手剣が風切り音と共に振り抜かれ、弩銃使いのノータリンが野球ボールのようにぶっ飛び、返す刀で魔導術遣いのパープリンへフルスイング。
訓練用片手剣がへし折れる音と骨が砕ける音色と共に、ノータリンとパープリンが放物線を書いて試合線外へ落ちていく。
「ぎゃああああああああああッ!!」「ムッハハハハハ――――ッ!!」
少年達の悲鳴と野獣の哄笑が響き渡る。
アイヴァンは折れた訓練剣をモラデイオンの青瓢箪へ投げつけて牽制。攻撃先を身を起こそうとしているタマしゃぶりとケツ舐めへ移し、素早く運足。左手で持っていた盾を両手で盾の先端に持ち替え、さながら折り畳み椅子でぶっ叩くように、タマしゃぶりの頭へ思いきり叩きつける。訓練盾がへし折れるほどの衝撃にタマしゃぶりが一瞬でノックダウン。
「ひ、ひいっ!?」
恐怖に屈したケツ舐めが反射的に振るった訓練剣を左手であっさりと受け止め、筋肉ゴリラが顔を覆うバイザーの奥から嘲笑を漏らした。
「細ェ……ほっせェなぁ。か細ェんだよ、テメェらはよぉ」
ぐいっと訓練剣を引っ張ってケツ舐めを引き寄せ、ガシッと訓練甲冑の襟首と腰の装具ベルトを掴み、
「な、何をっ!」
悲鳴を上げたケツ舐めを高々と持ち上げて、
「もっと筋肉を付けろっ!」
硬い競技場の床へ垂直落下式ボディスラム。訓練甲冑が床に衝突する轟音と落ち方が悪かったせいでケツ舐めの右腕が砕け折れる音色が響く。
「これが、決闘?」ヒロインBことヒルダが唖然と呟く。「一方的な蹂躙じゃない」
「違うぞ、一回生」
ヒルダの呟きを聞き止めたアーシェが鼻を鳴らす。
「あれはゴリラの遊びだ」
瞬く間に取り巻き達を撃破され、一人残されたモラデイオンの青瓢箪は慄然と震えあがった。
頼れる仲間は皆叩き潰されており、重傷で苦痛に泣き喚くか苦悶をこぼすか、失神して昏倒している。これから、たった一人で怪獣を相手にしなければならない。
「お、俺はモラデイオン公爵家の人間だぞっ!」
虚勢を張るにしても、それは悪手だった。
「名門モラデイオン家の御子息様。凄いねえ大したもんだねえ」アイヴァンはせせら笑い「もちろん、最後まで戦うよなぁ? 無手丸腰の相手に参ったとは言わねェよなぁ? 木っ端男爵家の子倅相手にそんなみっともねェマネしちゃあ、今度こそパパに勘当されかねェもんなぁ?」
エグいことを、と観戦者達――貴族子女達は思う。そこまで言われたら、もうモラデイオン家の青瓢箪は絶対に引けない。勝てないにしても、逃げずに戦い、仲間達と同じく血反吐をぶちまけて競技場の床を舐めねば、面目が立たない。
周囲の想像通り、退路を断たれた青瓢箪の選択肢は一つだけだ。
「ほ、ほざくな、ロッフェローッ!!」
青瓢箪は自身が持つ最大のカードを切る。生意気な一回生を懲らしめるために用意したインチキ――能力強化アイテムを用い、本来使用不可能な位階の魔導術を発動した。
「くらえっ! サンダー・アローッ!!」
翳された青瓢箪の左手から紫電の矢群が放たれ、筋肉ゴリラに襲い掛かる。
峻烈な閃光が走り、雷電によって大気が弾ける音色が競技場内を満たす。荒事慣れしていない子女達が思わず悲鳴を上げ、戦い慣れている者達も眩しそうに目を細めた。
「流石のロッフェロー卿もあれでは……」
アンナローズが案じる顔を作るも、ラーレインは首を横に振る。
「今のは見掛け倒しです。本来のサンダー・アローより劣っていました。あの程度では」
「おーおーおー、今のはちっとばかりビリビリしたぜェ」
電撃魔導術の直撃を受けた訓練用甲冑が黒く焦げていたものの、アイヴァンは冷笑を上げるほどにピンピンしており、傲然と青瓢箪へ襲い掛かる。
「ひっ!?」
怯えた青瓢箪が恐怖のままに訓練剣を横薙ぎに振るった瞬間、アイヴァンは身を低く屈めて地面を滑るように剣閃をかわし、そのままぬるりと青瓢箪の背後に回り込み、太い両腕で腰をがっちりとホールド。
「くらいぃいいいやがれぇええええええっ!!!」
まるで樹木を引っこ抜くが如く青瓢箪を担ぎ上げ、その勢いのまま後方へ身を仰け反らせ、青瓢箪を思いっきり競技場の床へ叩きつける。
どっが―――――――――――――――――――――ん。
アイヴァンは甲冑を身にまとっているにもかかわらず見事なブリッジを決め、叩きつけられた青瓢箪もケツを天井に向けたまま失神硬直するという高芸術点を披露。
ジャーマンスープレックスを決めたアイヴァンは傲然と立ち上がり、両手を高々と掲げながら勝利の雄叫び。
そして、興奮する灰色熊は周囲に向かって喚き散らす。
「いいか、雑魚共っ!! 戦いを制するもんは生まれじゃねえっ! 数じゃねえっ! 筋肉だっ! 筋肉は全てを制するっ! 筋肉は全てを蹂躙するっ! 筋肉は全てを解決するっ!! その空っぽの頭に刻んで忘れんじゃねえっ!!」
ゴリラの熱烈な筋肉賛歌を聞いた全員が思う。
こいつ、頭がおかしい。
○
アイヴァン・ロッフェローは知らない。
この一件で、自身がジャン・ラ・モラデイオンから決定的な恨みと憎しみを買ったことを。
アイヴァン・ロッフェローはまったく気づいていない。
それは、原作通りのチャートにおいて、主人公がアイヴァンの恨みを買い、郊外大演習でモンスターをけしかけられた条件と合致することを。
運命の郊外大演習はもうすぐだ。
Tell me how the grass tastes little man!
検索せずに何のことか分かったら、貴方はこちら側だ。




