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彼は悪名高きロッフェロー ~悪役貴族になったので散々悪さしたら、主人公御一行が殺意ガンギマリになりました~  作者: 白煙モクスケ


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25/27

25:学院編:僕はざまあって笑いたかっただけなのに。

本当にすまないと思っている(CV小山力也)


:前回までのあらすじ

大した量じゃないから読み返して(暴言)

 ゲーム『黒鉄と白薔薇のワーグネル』において、アイヴァン・ロッフェローは“演出素材”的な悪役貴族だ。主人公とヒロインBの関係を発展させ、主人公の強さを表現するためにあっさりと蹴散らされる当て馬。


 死んでしまってもストーリーに大きな影響を与えない。実家のロッフェロー男爵家は当主が死んでおり、継母と異母弟妹が控えるのみ。嫡男のアイヴァンが死ぬことはむしろ好都合。

 しかし、アイヴァン・ロッフェローの中に“彼”が転生インスコされたことで、事態はゲーム本編と大きく異なる。


 当て馬がアイヴァン・ロッフェローではなく、モラデイオン公爵家三男坊ジャンに変わっていたのだ。


        ★


「バカボンとはいえ、モラデイオン公爵家の倅に領主貴族家の育預……平民上がりが喧嘩を売るとはね」

 王都学院三回生にして冒険者クラン『幼獣団』副長アーシェが声を潜めて囁く。

「いよいよ“末期”じゃない?」


「かもな」

 アイヴァンは丸太のように太い腕を組んで応じる。


 そりゃ末期だろうよ。じきにクソ内戦が始まるンだから。淫乱ピンクに与せば王権奪取のクーデター。第二ヒロインは君側の奸を討つ維新。第三ヒロイン様はなんとフランス革命よろしく王政打倒の大革命。どのルートを選ぼうと血みどろ待った無しだ。


 とはいえ、所詮は三流会社の凡作。タクティクスオ○ガほど重厚なシナリオではないし、ファイナルファ○タジー・タクティクスほど込み入った展開もないし、ヴァンダ○ハーツシリーズほど救いのない物語ではないが(特にⅡのバッドルートはエグすぎる)。


 アイヴァンは鼻息をつき、目線を正面へ戻した。

 訓練場の試合線の中で、訓練用甲冑をまとって武具を構える2人の少年。


 右に主人公様こと一回生のオーリス・オレッツェ。

 左にアイヴァンの代わりに当て馬となった三回生のジャン・モラデイオン。


 さて、どうなる。


 原作ではクソ雑魚ナメクジのアイヴァン・ロッフェローだったが、今は改変が起きてモラデイオン公爵家の小僧が相手だ。


 転生者インスコ済みのアイヴァンにとってはヘナチョコのボンボン。学院の昇降口で主人公様にぶっ飛ばされたというから、実力はたかが知れている。


 だが、御家の影響力は零落寸前のロッフェローと桁違いの大身貴族だ。公爵家とは本来、木っ端貴族が対等に口を利くことも許されない相手である。


 せいぜいイキッてぶっとばしゃあ良い。アイヴァンは内心で冷酷にほくそ笑む。クソ社畜野郎。権力を敵に回してどう立ち回るか見ものだぜ。


「はじめっ!!」

 アイヴァンに淫乱ピンク呼ばわりのヒロイン一号ことアンナローズが凛々しく宣言。


 瞬間。

“主人公様”のオーリス・オレッツェが弾かれたように駆けだす。自分の勝利を疑っていないのだろう。いや、勝って当然と思っているのか、動きに一切の迷いがない。


 まっすぐ行ってぶっ飛ばす。そんな怒涛の突撃。

 原作イベント通りの非インスコ版ロッフェローならそれでお釣りが来ただろうが、此度はそういかない。


 なぜなら、モラデイオン家のボンボンはカイル・グリーン同様の魔法騎士。搦手で戦うタイプなのだ。


 ゲームにおける魔法騎士タイプは大抵二通りに別れる。

 近距離を剣で、遠距離を魔法で。遠近選ばず戦う攻撃特化タイプ。カイル・グリーンはこちらに当たる。


 もう一つは魔法でバフ・デバフを掛ける魔法を近接戦の補助として使うタイプ。

 ジャン・ル・モラデイオンは後者だ。すなわち――


「スタンミストッ!」

 ボンボンは魔法触媒のブレスレットを装着した左腕を伸ばし、麻痺系魔法を放つ。ショボい実力相応に効果範囲も効力も狭い。が、麻痺効果を伴う霧の中は考え無しに突っ込んだアホを見事に捉えた。


「ぅぐっ!?」

 完全な麻痺に至らなかったようだが、主人公様の動きが大きく鈍る。当然だ。ゲームならともかく血肉を伴う現実において、わずかでも身体に麻痺効果が生じれば全力で動けない。


「僕が下賤な雑民風情と剣を交えるとでも?」

 モラデイオンの小倅は嗜虐的に口端を歪め、再び魔法を放つ。

「ミューカス・バインドッ!」


 オーリスの足元から粘液の蛇達が現れ、襲い掛かる。麻痺効果で動きが鈍っている主人公様はかわすことが出来ず、両足や腰回りに絡みつかれ、動きを縛られた。


「クソッ! 剥がれろっ!」

 オーリスが苛立たしげにもがき暴れるも、粘液の蛇達は剥がれるどころか接着剤のようにオーリスの下半身をより強く縛り付ける。


「フハハハッ! では狩りを始めようかっ!」

 哄笑をあげ、モラデイオンの小僧が剣を構え、主人公様へ襲い掛かった。


    ○


 動きを縛られたオーリスは上体と腕だけで抗っているが、モラデイオンに嬲られるように打たれ続けている。


 立会人の御姫様は表情を曇らせ、主人公様御一行達は心配そうに、あるいは悔しそうに顔を歪め、それでも健気に声援を送っている。そんな一年生達をボンボンの取り巻き達がにやにやと笑っていた。


 ――うーむ。こいつは予想外というか、意外というか。

 アイヴァンは丸太のような腕を組んで小さく唸る。

 こりゃ番狂わせか? 相手が変わって勝ち確イベントが負けイベントになったか? まあ、それはそれで愉快だが。


「コスい真似してるわね」と隣に立つアーシェが密やかに呟く。

「? 相手を弱らせて仕留めるのぁ上策だろ?」

「そういう意味じゃないわよ」

 怪訝顔のアイヴァンへ、アーシェは小声で言った。

「モラデイオンの奴、小細工してるわ」


 アーシェ曰くモラデイオンの小倅は隠しアイテムも使っている可能性がある、と。

「間違いねえのか?」

「あのボンボンがあれほど強かったら、もっと噂になってるわよ。本来の実力はあの半分もないわ」

「なるほど。デカパイとロリ魔法少女が仏頂面を浮かべてる理由はそれか」

 アイヴァンはエルズベスとラーレを横目に窺いつつ鼻息をつく。

「ま、別に違反してるわけでもねえし、こんなのガキの遊びだろ。ほっとけほっとけ」


 とアイヴァンが鼻で笑った直後、オーリスの振るった剣がモラデイオンの顔をかすめた。

「クソッ! 外したかっ!」悔しがるオーリスに、


「―――小賢しい真似を。良いだろう。遊びは終わりだ。アクア・シュートッ!!」

 モラデイオンは距離を取ってから左腕を構え、バレーボール大の水の砲弾が撃ち出され、動きの鈍いオーリスを打ちのめす。


「ぐあぁっ!?」

 たかが水と侮ってはいけない。相応の質量に高圧/高初速を得て放たれたならば、大の男を吹き飛ばすくらい容易い。


 訓練場に倒れ伏すオーリス。悲鳴を上げる一年達。


「ひざまずいて許しを請うならこれで勘弁してやるぞ、濡れ鼠」

 せせら笑うモラデイオンに、オーリスは身を起しながら訓練剣を握りしめる。

「なめんなっ!」


 あーあ。やっちまったな、とアイヴァンは鼻息をつく。

 これはゲームではない。交互に行動順番が来るターン制でもないし、パラメータによって行動順番が決まるアクティブ制でもない。行動の先と後を決するのは、個人の能力と場の状況と条件。


 主人公様の現在の能力と位置からでは、一投足で間合いを詰められない。後の先を取るスキルも技も無い。


 モラデイオンの小倅は勝ち誇った薄笑いを浮かべ、左手を伸ばして魔導術を放つ。

「仕上げだ。サンダー・シュートッ!!」


 電撃魔導術が濡れ鼠のオーリスに襲い掛かり、

「ぐあああああああっ?!」

 ずぶ濡れで通電性が高まっているために威力以上の効力を発揮。オーリスは悲鳴を上げて崩れ落ちた。


 ありゃりゃ……負けやがったよ。だらしねェ。

 アイヴァンが小馬鹿にするように鼻を鳴らす。隣でアーシェもつまらなそうに眉をひそめていた。主人公様御一行達は半分が身体から白い蒸気煙を放って倒れているオーリスを案じ、もう半分が悔しげに顔を強張らせながら『立て!』と声援を送っていた。


「負けられねえ……俺は主人公なんだ、こんなところで……」

 オーリスは小声でブツブツ呟きながら立ち上がろうとしていたが、効力増大の感電ダメージ+麻痺効果で動けずにいる。


 審判であるアンナローズは沈痛な面持ちを浮かべつつ、右手を高く上げた。

「――勝負ありっ! そこまでっ! 勝者ジャン・ル・モラデイオン!」


 よっしゃーっ! とボンボンの取り巻き達が喝采を上げ、ボンボン本人はきざったらしく前髪を掻き上げ、オーリスを見下して嘲り笑う。

「これで分かったか、下賤な育預め。今後は下を向いて歩けよ、負け犬」


 はーっはっはっ! と高笑いするボンボン。

 くそぅっ! と床を叩く主人公様。


 そんな二人に冷めた目を向けながら、アイヴァンはこのイベント変化がどう転がっていくか思案していた。


 このイベントでボンボンが負けて、腹いせに演習で悪さしてモンスターが襲ってくるっつー流れは無くなったか? て、こたぁどーなるんだ? モンスター襲撃時に主人公様達が活躍して姫様の御守りになっていくはずだよな? うーん……


 腕組みしたまま顎を撫でつつ、アイヴァンが思案していると。

「ロッフェローッ!!」

 モラデイオンの三男坊は訓練剣の切っ先をアイヴァンへ向け、朗々と宣言する。

「先日の屈辱を晴らしてやるっ! 勝負しろっ!」


「なんで俺がそんな面倒臭ェことしなきゃいけねェンだよ。そもそも先の件は、畏れ多くも畏くも国王陛下の仲裁が入ってチャラになっただろうが。テメェ、陛下の裁定に否やを入れようってのか、あ?」

 思考を邪魔されたアイヴァンが苛立たしげにモラデイオンの倅を睨み、小理屈を並べる。

 隣のアーシェは『このゴリラ、ゴリラのくせに舌が回るのよね』と冷ややかな眼差しを向けていた。


 陛下の御名を持ち出されては、貴族子弟としてごちゃごちゃ抜かせない。モラデイオンとその仲間達はぐぬぬぬと歯噛みして唸る。も、そこは罵詈雑言を巧みに用いてナンボの貴族。


「はっ! 陛下の御名前を持ち出してまで戦いから逃げるか。貴様の父君は叛徒に倒されたと聞くが、本当は逃げる際に背中を斬られたというのが真相ではないのか? 今の貴様のように」

 モラデイオンの言葉はガチの殺し合いに発展してもおかしくないほどの暴言だった。


 が、実の父親に対して精子提供者以上の感想を持たぬアイヴァンは筋骨隆々の肩を竦め、

「あのな。俺は立ち合いに来ただけなんだ。他人様の決闘のついでに雑魚の群れをぶちのめす趣味はねーンだよ」


「雑魚だと……っ!!」モラデイオンの顔が真っ赤に染まり、取り巻き達も憤慨する。

「姫殿下。決闘も終わったようですし、私はこの場を辞させていただいても?」

 ボンボン一党を完全に無視してヒロイン一号へ恭しく申し出る。


「そう、ですね」

 アンナローズは仲間達に手当てを受けている主人公様を心配そうに窺い、ふぅとゆっくり息を吐いて首肯した。

「今日は御足労ありがとうございました。ロッフェロー“先輩”」


「いえいえ、殿下の御召とあれば、いつでも御声掛けください」

 調子良く社交辞令を返しつつ、内心では『二度と余計なことに巻き込むんじゃねえぞ淫乱ピンクがっ!』ヒッデェ悪態を吐く筋肉ゴリラ。隣でアーシェが『また要らんことを』と冷たい目を向けていることに気づかない。


「では、失礼させていただきます」

 深々と一礼し、アイヴァンが踵を返してアーシェと共に出入り口へ向かい始めた。


 刹那。


「父親が賊徒相手に敗死する負け犬なら、息子も腰抜けか。下賤な雑民を率いてお山の大将を気取るに相応しいな」

 モラデイオンの三男坊がアイヴァンの巨大な背中へ悪罵を浴びせかける。


 ぴたり。


 アイヴァンは振り返った。額に青筋を浮かべて。隣のアーシェも整った顔立ちを強張らせている。

 凶相を歪め、アイヴァンは重く低い声で質す。

「今……俺の団を侮辱したか? 命を懸けてダンジョンへ挑んでいる俺の部下達を蔑んだか? 俺の戦友達を貶めたのか?」


「ほう。魔物相手に発情するようなケダモノも仲間をバカにされれば怒るか」

 公爵家の小倅は再び切っ先をアイヴァンへ向けた。

「決闘だ、アイヴァン・ロッフェローッ! 先の屈辱を晴らさせてもらうぞっ!」


「いつぞやの配食堂で教育してやったのに、学ばなかったようだな」

 アイヴァンはキャッチャーミットみたいな手を固く握りしめてバキバキと鳴らしながら、言った。

「今度はきっちり叩き込んでやろう。骨の髄まで苦痛と恐怖をな」


 往時の恐怖と苦痛を思い出したのか、モラデイオンの小倅や取り巻き達は顔を青くするも、貴族の矜持か勝利の興奮か、踏みとどまる。否。踏みとどまってしまった。

「決闘の形式は―――」


「しゃらくせェ」

 アイヴァンはボンボンの口上を遮り、頭蓋骨より太い首をボキボキと鳴らす。

「全員だ。いっぺんにお前ら全員相手にしてやる。姫殿下」


「! は、はい」水を向けられたアンナローズは目をパチクリさせる。

「立ち合いを願います。よろしいでしょうか?」

「え、ええ。構いません。ですが……」


「御配慮無用」

 ウォーハンマーのような右拳を翳し、筋肉ゴリラは傲岸不遜に嗤う。

「王家直参男爵ロッフェロー家の武を御覧あれ」


次回はやはり未定。本当にすまない。

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最後の台詞が決まってる!
[一言] まってる
[一言] 待ってるけどなるべく早くなんなら明日(無茶ぶり)
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