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彼は悪名高きロッフェロー ~悪役貴族になったので散々悪さしたら、主人公御一行が殺意ガンギマリになりました~  作者: 白煙モクスケ


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22/27

22:学院編:偶にはデレても良いんじゃない。

お待たせしました

 ダンジョン内で余所のパーティにモンスター・トレインを食らわされ、クランの前衛と後衛が分断。副長アーシェが率いる後衛組がダンジョン内に取り残された。救出を試みたが、死傷者多数のために撤退した。


 そんな内容を、斥候班長の女子がベソを掻きながらまくし立てた。

「どうしよう、ロッフェローっ!」


 荒事慣れしていても、所詮は10代の子供だ。対応できるキャパはたかが知れている。アイヴァンは半狂乱になっている斥候班長の肩に手を置き、言った。

「大丈夫だ。俺に任せろ」


 その一言に斥候班長は冷静さを取り戻し、自覚する。こいつは変態だけど、やっぱりあたし達のボスだ。変態だけど。


 見事な統率者振りを発揮したアイヴァンの姿に、デカパイ騎士エルズベスは『ほう』と小さく感嘆を漏らし、カイル・グリーンが査定するような目を向ける。メインヒロイン1号アンナローズも同様にアイヴァンの指揮官振りを計っていた。主人公オーリスは何とも言えない顔つきを浮かべていた。


 アイヴァンはカイル・グリーンへ言った。

「グリーン先輩。すみませんが、早上がりさせてもらいます」

「話は聞いてた。許可を出すしかないな」と眉を下げるカイル・グリーン。


「力を貸そうか?」

 エルズベスが善意から言い、

「あの、俺達も行けますよ」

 主人公オーリスが一歩前に踏み出し、主人公様御一行やアイヴァンが指導する新入生達もコクコクと頷く。彼らはまだダンジョンを体験していない。初めての実戦へ期待する向きもあろう。


「ありがとうよ。だが、気持ちだけで十分だ。これは俺のクランの問題だからな。お前らを連れて行くわけにはいかねー。そもそもお前らぁ冒険者登録してねーからダンジョンに入れねーよ」

 アイヴァンは謝絶し、斥候班長へ告げる。

「動ける奴らに支度させろ。医薬品と食料をありったけ出せ。俺が準備を終え次第、ダンジョンへ潜るぞ」


「わ、わかったっ! すぐに用意させるっ!!」

 斥候班長が訓練場を飛び出していき、アイヴァンもその背に続く。


 アイヴァンを見送った面々はふと気づいた。

「あれ? グレイウッズはどこいった?」


        ★


 それは戦友愛か、団長の責任か、彼自身の良心か。


 否。


 狂気の神髄は理性以外の全てが削ぎ落された状態にある。理性のみに成り果てたうえで、他者からは狂っていると断じる他ない所業を、常人には理解できない論理に基づいて選択し、論理的に決断して実行する。


 アイヴァン・ロッフェローも同じだ。

 頭の毛先から足の爪先まで主人公様オーリス・オレッツェに対する純度120パーセントの高濃度の殺意に染まり切っているからこそ、アイヴァンはこの場でオーリスを殺すことを辞め、斥候班長の言葉を採った。


 なぜか。

 斥候班長の闖入で殺意に煮えたぎった頭が冷やされたからだ。


 憎悪と怨恨の炎に焼かれていたアイヴァンの心魂は急激に引き締められた。さながら鍛造焼き入れ中の鋼が急冷されることで、硬度を高めるように。


 急冷されたアイヴァンの心魂に高密度な芯が通る。

 悪意という名の芯が。


 ――あのクソガキをただぶち殺すだけじゃあ“足りねェ”。


 全然足りない。

 この世界のクソシナリオを台無しにできるだろうが、それだけではもはや“足りない”。

“主人公オーリス・オレッツェのシナリオ”をクソミソにしたうえで、この世界のシナリオを台無しにしなければ、アイヴァンの憎悪と怨恨が晴れない。


 ぶっ殺すだけでは復讐と報復にならぬ。それでは足りぬ。全く足りぬ。俺の魂魄に宿る憎悪と怨恨の炎が焼尽せぬ。

 そう、アイヴァンはこの瞬間、誓ったのだ。


 最悪の目に遭わせてやると。


 そのために手駒が要る。

 クランという手駒が。だから全滅させるわけにはいかない。

 アイヴァンの報復と復讐のために。


        ★


 凶鬼の甲冑に着替えたアイヴァンがダンジョン『オルタミラ遺宮』の入り口に到着すると、クラン幼獣団の動ける者達が整列していた。


 頭数は少ない。全員が酷く汚れ、傷ついていた。

 が、顔は強い決意と覚悟で固められている。何よりアイヴァンの姿を見たことで、彼らは勇気を取り戻していた。

 なんだかんだ言って、幼獣団の面々はアイヴァンを強く信頼しているのだ。


「状況報告」

 アイヴァンが頭に包帯を巻いた遊撃班の班長と斥候班の班長へ問う。


 2人の班長は背筋を伸ばし、まるで将軍の諮問へ答えるように報告した。

「前衛班は3名。班長のブルースは負傷して参加できません。遊撃班は俺を含め4名。斥候班は4名。以上です」

「医薬品と食料、担架を運べるだけ用意しました。ダンジョン内に取り残されたのは、射撃班、医療班、物資運搬班の22名。アーシェ副長とレイニー魔導術士が居ます。状況は不明」


「分断されたのは浅層の深部だったな?」

 アイヴァンの問いに、

「はい、団長。余所のパーティがトレインを擦りつけてきました」と憎々しげに吐き捨てる斥候班長。


「そこは後できっちりカタにハメる」アイヴァンはごきりと首を鳴らし「俺が先頭に立って強行する。お前らは俺の側面と後方だけ注意しろ。速度勝負(RTA)だ。前進の邪魔になる敵以外は全て無視し、アーシェ達の元まで突っ走る。いいな?」


「はい、団長」わかった」

 全員が真剣な面持ちで頷く中、なんか緩い返事が混じった。


 アイヴァンや団員達の目が、しれっと混じっていたセレン・グレイウッズに注がれる。

「……おう、猫娘。なんでオメェがいるんだよ」

「恩の押し売りに来た」とセレンは悪びれずに言い「私、回復魔導術が使える。そちらに損はない」

 舌打ちし、アイヴァンはセレンを睨み据えた。

「猫娘。今回はお遊び抜きだ。余計な真似しやがったら殺して犯すぞ」


「時と場合は弁える。問題なし」

 不愛想な無表情のまま、ぐっと親指を立てるセレン。ホントに分かっているのやら。


 鼻息をつき、アイヴァンは兜の恐ろしげなバイザーを下げ、右手を大きく振る。

「突入開始」


      ○


 この一年、時間と労力と金をかけて鍛えた団員達が大勢、死傷した事実に、守銭奴アーシェ・クルバッハは怒り狂っていた。


 必ず生還し、モンスター・トレインを押し付けてきた腐れパーティ共からケツの毛まで毟り取らねばならぬ。

 何よりも腹立たしいのは、モンスター・トレインを受けた際、運搬班が壊乱して本日の稼ぎが全てパーになったこと。金。あたしの金。あたし達の金。ちきしょう。許さん許さん絶対に許さんぞ。


 後衛組22名のうち、死亡5名。重傷6名。軽傷7名。無事だったのはムッチリ女魔導術士レイニーと医療班の3人だけ。医療班が限られた物資で重傷者の命をつないでいるが、それもいつまでもつか……アーシェ自身も右腕を負傷しており、弓が上手く扱えない。


 アーシェは自分と仲間の血に塗れた顔を拭い、手信号で団員へ隠れ続けるよう指示を出す。


 今やこの(フロア)はモンスターの支配する狩場だ。狩人は奴らで、こちらが獲物。キタンキタンに痛めつけられた幼獣団後衛隊では突破など出来ない。負傷者が多すぎてスニーキングで密かに脱出することも難しい。

 動けない者達を置き去りにして脱出するという案もあるが……冒険者のルール的にはそちらが正しい。

 が、その場合、脱出に成功しても団としての連帯と結束に大きな瑕疵が付く。全員で生き延び、全員で生還する。それが最もリターンが大きい。


 守銭奴アーシェは最も危険で、最も稼ぎが多い選択をした。


 後衛全員でダンジョン内の物陰に身を潜め続け、今もなお徘徊し続けているモンスターの群れから隠れ続ける。奴らが厭きて余所へ行くか、別のパーティがやってきて奴らを追っ払うか、もしくは……あの筋肉ゴリラが助けに来てくれるまで。


 ハイリスク・ハイリターン。勝ち目があるかどうかも分からない賭けだ。


 来てくれるだろうか。

 アイヴァン・ロッフェローは冷酷な男ではない。粗野で乱暴で荒っぽいけれど、面倒見は悪くない。貧乏なガキンチョ冒険者達を鍛え、規律ある猟犬集団に育て上げた手腕は大したものだ。アーシェも“その点だけ”はあの筋肉ゴリラを尊敬している。


 アイヴァンは部下も大事にするクチだ。自分を天上人か何かと勘違いしているバカ貴族の腐れ指揮官とは比べ物にならない。

 同時に、アイヴァンは指揮官として犠牲を受け入れる冷酷も備えている。クランを立ち上げた頃、大勢の死傷者が出たがまったく日和らなかった。心を痛めている様子もなかった。ただ犠牲が出たという事実を受け止めるだけ。


 アイツはあたし達を助けてくれるだろうか。あたし達も『仕方ない犠牲』と切り捨てるかもしれない。その可能性を否定できない。ロッフェローは冷徹な指揮官だ。


 と、ファットマンの一団が現れた。

 ボーイソプラノの美声を奏でる腫瘍塗れの全裸デブ。歩く度に腫瘍がうねり、ぼたぼたと膿を垂れている。


 アーシェを始め、後衛隊は息をひそめて腐れ怪異をやり過ごす。本能的な不安と恐怖に悲鳴を上げそうになった者達が口元に手を当て、敬虔な者達は目を瞑って口の中で加護を哀願する。アーシェは神になど祈らない。痛めた右腕の代わりに左手で小剣の柄を握りしめるだけ。


 ファットマン達はアーシェ達の傍を通っていく。その気色悪い面がはっきりと拝める。腫瘍の一つ一つがうねる様、垂れ落ちる膿の一滴までもが鮮明に伺える。


 耳が痛くなるほどの静寂。呼吸と心臓の鼓動が過剰なほど速くなる。心を苛む巨大な不安と恐怖から、泣き叫びたくなる衝動が突き上げてくる。緊張感が強すぎて膀胱が震えて漏らしそうだった。緊迫感が大きすぎて胃が震えて吐きそうだった。


 ファットマン達はアーシェ達に気付かず、通路を進んでいく。


 ……うう


 不意に、誰かの呻き声が漏れた。小波のような苦悶の音色を、デブ共は聞き逃さない。ぴたりと足を止め、ねっとりとした目で通路を見回し始める。


 アーシェは血走った眼で呻き声を漏らした奴を睨む。重傷者だった。発熱でほとんど意識が無く、無意識に呻いたのだろう。医療班の少年が半ベソを浮かべながら件の重傷者の口元を押さえ込んでいる。


 くそ。

 口の中で毒づき、アーシェは小剣を握りしめた。最悪、このデブ共を殺せるとしても、戦闘騒音で他のモンスター共が殺到してくる。そうなれば、戦闘ではなく食事会に化けるだろう。もちろん、卓に上がる料理は自分達だ。


 諦観を覚えつつ、アーシェが肩越しに団員達を窺う。

 射撃班の面々は達観した顔で“最後の”戦闘へ臨む勇気を絞り出している。ムッチリ女魔導術士レイニーはヤケクソ顔だ。医療班と運搬班の面々は半分が口元を押さえながら泣いており、もう半分は絶望に屈していた。

 

 ファットマン共がアーシェ達を見つけ、全滅(APD)まで秒読みに入った刹那。


 (フロア)のどこかからモンスター達の雄叫びと悲鳴が轟いてきて、

「邪魔だクソ野郎っ! 地獄の底へ失せやがれっ!!」

 聞き慣れた濁声が響いてきた。


       ★


「ウィンドストーム」

 セレン・グレイウッズが覇気のない詠唱と共に、風系範囲攻撃魔法を放ち、モンスター群を一蹴。突破口を確保した。


 そこへ双角の鬼が突撃する。


 右に戦斧。左に戦鎚。

凶相の全身甲冑をまとい、両手の得物でモンスターを叩き切り、殴り潰し、薙ぎ払い、薙ぎ倒すその姿はまさに鬼そのものだ。


 汎用モンスターもダンジョン専用モンスターもお構いなし。

 眼前に立ち塞がる全てを殺す。ただ殺す。一方的に殺していく。踏み潰し、蹴散らしていく。

 アイヴァン・ロッフェローの前進は止まらない。


「ボスッ! デカブツだっ!」

 ツインズと呼ばれるLサイズモンスターのエントリー。


 4メートル級の半端な巨人。その腹の辺りに小人の上半身が生えていた。大小歪な結合双生児の怪物で、巨人の方は棍棒と盾を扱い、小人の方は魔導術を駆使する。一体でコンビネーションを発揮する難敵だ。


「邪魔だクソ野郎っ! 地獄の底へ失せやがれっ!!」

 が、凶鬼の鎧という強力な重防御装備を有するアイヴァンは、足を止めたりしない。


 小人の放った炎熱の魔導術を蹴散らすように突破して肉薄、巨人の繰り出した打ち下ろしを戦斧でいなし、左の戦鎚で巨人の左向こう脛を粉砕。ひしゃげた左足から骨が覗き、黒い体液が飛散する。


 崩れ落ちたツインズが盾を構えて追撃を防ごうとするも、アイヴァンは戦鎚のピックを盾の縁に引っ掛け、盾ごとツインズの巨体をうつ伏せに引きずり倒した。下敷きになった小人が悲鳴を上げる中、アイヴァンは右の戦斧を素早く振るって巨人の後頭部を素早くカチ割り、延髄を叩き切る。


 そして、全体重を乗せてツインズを思いきり踏みつけた。胴体の下敷きになっていた小人から、べきべきッという骨の破砕音と、ぐちゃっという肉の圧潰する音色が響く。


 瞬殺。


 相性の問題もあるが、もはや浅層のLサイズモンスターなど恐れるに能わず。Sランク装備を得たアイヴァン・ロッフェローは相応に強くなっていたのだ。


        ★


「あんたの顔を見て嬉しいと思ったのは初めてだわ」

 救出部隊――アイヴァン達と合流したアーシェが、思わずハッとなるほど美しい微笑を湛えた。


「そこはお前、団長素敵めちゃくちゃ抱いて、とか言うべきだろ」

 なんと無しに照れ臭くなったアイヴァンはバイザーを下ろしたまま、憎まれ口を叩く。


「バカじゃないの?」

 定型セリフを返すアーシェに、アイヴァンは楽しげに喉を鳴らす。そして、後衛隊の面々を見回す。

「よく頑張ったな。死人が出たのは残念だが、お前らがこうして生きてることが嬉しいぞ」


 すすり泣き始める後衛隊に小さく首肯し、そのうえで、アイヴァンは声を張る。

「おら、メソメソしてんじゃねえっ! まだ生きて帰れるわけじゃねえぞっ! 動ける奴は動けない奴の移送準備を手伝えっ! 戦える奴は装具を整えろっ! ダンジョン潜りは家に帰るまでだっ!」


 はい、ボスッ!!

 幼獣団の元気な返事がダンジョン内に響く。


 いつの間にか傍にいたセレン・グレイウッズがアイヴァンへ告げる。

「弱っちいけど、良い兵士達だ」

「素直に褒めろや、クソ猫娘」と唸るアイヴァン。


「ダンジョンの深奥へ挑むには力不足だけど、しばらくは手を貸してもいい」

「なんで上から目線だ。手を借りるのはお前の方だろーが」


 ふん、と鼻を鳴らしてアイヴァンは手を振るう。

「撤収するぞ。移動開始」

 幼獣団の脱出が始まる。


 アイヴァンは先頭を歩きながら考えていた。

 こいつらを私兵として内戦に参加させるには、もっと忠誠心を育まにゃあならねーな。

 今に見てろ主人公(クソガキ)共。

 お前らのシナリオをワチャクチャにしてやっからなぁ。


      ★


 この日を境に、アイヴァンは主人公様一行に対する慎重さが一層増した。

 原作シナリオ通りにイベントで木っ端悪党として死なないように。来たる内戦編で本懐を遂げるために。

 

 そんなアイヴァンの胸中をまったく知らない魔女が、昼食の招待状を寄こしたのは、入学式から二か月半後のこと。

 夏の郊外大演習を半月後に控えていた頃だった。




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[良い点] パワーと物理で気分爽快! 筋肉だるまオラオラ系主人公流行らないかなー
[一言] 殺意がどんどん高まってくる…
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