17:学院編:死神共が入学してきますた。
お待たせしました。
王都学院入学式の日は快晴を迎え、春の心地よい好天の下、ゲーム本編は始まった。
その入学式はまんま日本式だった。
ただし、舞台が体育館ではなく豪奢な講堂で、居並ぶ学生と教師とお偉いさん連中が、日本人ではなく大多数が白人で、少数の有色人種もいる(ポリコレではなくキャラ分けのためだ)。髪と目の色がやたら豊富であり、遠目には多色の色鉛筆セットみたいな有様だ。
そんな目がチカチカする光景を、アイヴァン・ロッフェローは不機嫌顔で眺めていた。
精確には、眼前の光景をほとんど知覚していない。アイヴァンは沈思黙考に耽っており、意識を完全に内へ、思索へ集中させていた。
もちろん、考えることは一つだけ。
今、この講堂内にいる主人公のことだ。
これまで、アイヴァンは自身の死亡イベントがあるゲーム本編の第一章――学院編をなんとか生き延び、第二章以降の内戦編で大暴れし、シナリオをワヤにし、この国を滅茶苦茶にしてやろうと考えていた。
が、一年に渡ってダンジョン潜りを重ね、Sランク装備(ただし呪物)を得た今、アイヴァンは思う。
やっぱり今のうちにぶっ殺しておく方が良いんじゃねーか?
今ならパラも低いし、ヤバい装備も持ってねー。
考えてみりゃあ内戦の発生を待つ必要なんかねェよな。主人公をぶっ殺しちまえば、一切合財をワヤに出来るじゃねーか。何もラダトームの城で勇者が来る日を暢気に待つこたぁねー。アリアハンを出たばっかのところをぶっ殺す方が簡単だ。
大義名分だのなんだの知ったこったちゃねー。別に犯罪者になったって構やしねーんだ。俺にぁ失くして困るもんなんか一つもねーしな。爺ちゃん婆ちゃんももう死んでんだ。ロッフェローが取り潰しになろうがなんだろうがどーだっていい。
ふん(右を見る)。
うーん(左を見る)。
そうだな(天井を見あげて)。
決めた。
殺ろう。
元が平和な日本で生まれ育った人間とは思えぬ倫理的ハードルの低さ。イカレてるからね、仕方ないね。
と、新入生代表のアンナローズ王女が壇上に姿を見せた。
美形揃い(ゲーム会社とイラストレーターの都合だ)の生徒達の中でも、段違いの美貌に、あちこちから溜息が漏れる。
しかし、アイヴァンは疫病神を見るような目でピンク髪の王女――メインヒロイン1号を見据えた。
ゲーム本編開始前に接触を持った点がどんな影響をもたらすか、想像もつかないが、面倒と厄介を押し付けてきそうな予感はする。
で。
アンナローズは卒のない無難な代表挨拶を済ませ、優雅に壇上から降りていく。
ゲーム本編でも入学式の描写は乏しい。プレイ開始はクラスへ移ってからが本番だ。
そーはいかねーぜ。
アイヴァンは内心で残忍に嗤う。
今夜、完全装備で寮の奴の部屋へ討ち入りして、ぶっ殺す。
くくく……恨むなら主人公として生まれたことを恨むんだなぁ主人公様よぉ……
突然、唇の口端を吊り上げてニタニタと笑いだす身長2メートル弱の筋肉達磨に、両隣の男子がびくっと身を震わせた。
○
入学式日は半ドンであり、昼のうちに放課後を迎える。が、自由時間を迎えることを意味しない。今期新入生はグループ分けされ、上級生の指導役が付く。
というわけで、新入生達は昼食後に指導役と顔合わせを迎えることになっていた。
昼食後、再び講堂に集合した新入生達の前で、指導役が壇上に上って担当グループの生徒の名前を読み上げ、全員が揃ったら講堂から出ていく。
第一王女アンナローズのグループが最初かと思われたが、完全なランダムらしい。
学年主任の教諭が名簿を手に言った。
「次、第8グループ。指導役三回生カイル・グリーン、二回生アイヴァン・ロッフェロー」
名前を呼ばれたカイル・グリーンとアイヴァンが壇上に上がる。
筋肉ゴリラが壇上に上がった刹那、ぶーっ! と誰かが吹き出した。なんだ? と講堂内の誰しもが訝る。人数が多いため、誰が吹いたのか分からない。
アイヴァンは壇上に上がり、新入生達をゆっくりと眺めていく。“死神ども”ばかり注視するわけにはいかない。下手に注意を引いては危険だ。討ち入りを悟られては困る。
だが、視界内にははっきりと捉えていた。
主人公の親友。見た目は茶色髪に柔和な顔つきのモブ崩れだが、その“キャラ性能”は最序盤からラストバトルまで一軍に留まる強キャラだ。
主人公の仲間となる少年戦士。こちらは日焼け肌の細マッチョ系。攻撃力と耐久力が高くなるガチガチの前衛キャラだ。オーソドックスにやるなら一軍から外されることは無かろう。
メインヒロイン一号の第一王女アンナローズと、サブヒロインの一人ロリ魔法少女ラーレイン。
そして、メインヒロイン第二号。貴族令嬢ヒルデ・フォン・ガイアー。
薄青色のサラサラ長髪。垂れ気味の双眸。すらりとした肢体に大きくはないが、たしかな存在感を放つ胸元。王女に劣らぬ美貌の持ち主だ。
もっとも、その美少女姿に騙されてはいけない。SRPG物でありがちな敵の釣りだし戦術を使う際、ヒルデはそのカギとなるキャラだった。高い機動力と回避性能を誇り、敵中に突っ込ませてもまず撃破されない生存性を発揮する。
流石はルート持ちのメインヒロイン。性能が恐ろしい。
最後に……主人公様。
オーリス・オレッツェ。
黒髪に紺碧色の目と日本人に近しい特徴を持つ。この辺りはプレイヤーが自己投影し易いという生臭い要素が考慮されてのことだろう。中肉中背で整った容姿をしているが、比較的主張の乏しい外見もそのためだ。
基本的には正統派の前衛キャラながら、育成と戦術次第で遊撃も支援もこなせる。その点は『タ○ティクス・オ○ガ』や『F○タクティ○ス』の主人公に近い。まあ、フォロワー作品だし、多少はね?
主人公オーリスとメインヒロイン第二号ヒルデを目にしたアイヴァンは、密やかに恐怖と憤怒がまじりあった感情を覚える。自身にとって最大の脅威であり、生死を左右する存在であるから、無理もない。
まして、オーリスの敵に回るネームドは大半がことごとく殺されるのだから。
まさに死神。
やはり今のうちに殺しておくべきだな。ぶっ殺そう。ぶち殺そう。今夜殺す。必ず殺す。絶対に殺す。
アイヴァンは内心で決意を新たにした。
「ロッフェロー。グループの名前を読み上げてくれ」
カイル・グリーンから名簿を渡され、
「第8グループのメンバーを読み上げるっ! 名を呼ばれた者は壇上に上がれっ!」
アイヴァンはその野太い声で名前を読み上げていく。さながら海兵隊の教育隊訓練教官だ。
「ロイド・ルナルシンッ! カーロ・トラテンパっ! エミリア・レッドリバーッ!」
名前を呼ばれたモブの少年少女が元気いっぱいに(それと緊張気味に)返事をして壇上にのぼっていく。
アイヴァンは最後の一人の名前を挙げた。
「セレン・グレイウッズッ!」
はい、と少女が無機質な声色の返事と共に立ち上がった。
視界の端で誰かが再び吹き出していた気がしないでもないが、アイヴァンは隣で顔を引きつらせているカイル・グリーンに注意を向けていた。
「どうかしましたか?」
「い、いや。何でもない」
何かあるって面しておいて、なーに言ってんだ、この優男は。
アイヴァンは片眉を上げて訝りつつ、担当グループ全員が壇上に上がったことを確認し、
「よろしい、ヒヨッコ共。オリエンテーションにいく。ついてこいっ!」
カイル・グリーンと共に担当グループの新入生達を引き連れ、行動を出ていく。
アイヴァンは知らなかった。
無理もない。彼がプレイした『黒鉄と白薔薇のワーグネル』はスマホ版である。このスマホ版は原作(据置機版)準拠の完全移植だ。言い換えるなら、追加要素皆無のベタ移植品。
しかし、最終版であるPC向けHD版……Ste○m版には追加要素が新たに加えられていた。
まあ、追加要素は新ダンジョンと装備類、新ダンジョン用モンスターと本編に関わらない物ばかりだったが(今更シナリオを弄る面倒を省いたともいう)。
ただ、この新ダンジョンに挑むイベントも追加され(あくまで小イベントである)、その専用キャラクターがこのセレン・グレイウッズなのだ。
ちなみに、その設定は……“本当の名”から分かる。
セレン・グレイウッズ。
本当の名をセレン・ブラックストーン。
強ボスのアルテナ・ブラックストーン、その妹という設定である。
そんな極めて重大な情報を知らないアイヴァンは、単純にセレン・グレイウッズを見て思う。
パラのひくそーな小娘だな。
知らないということはある種の幸福である、という一例。
○
オーリス・オレッツェ。
『黒鉄と白薔薇のワーグネル』の主人公様である。キャラ性能ではなく性格やバックボーンはどんな主人公か。
簡単な経歴をあげると、両親はいない(ありがちである)。孤児であるが、親父の旧知である地元領主により、育預として実子同然に育てられ、その後見によって王都学院に入学させてもらえた、という設定。
ちなみに、その地元領主とは親友様の親父で、親友様とは兄弟同然に育った(ちなみに、親友様より態度がデカい。ありがちである)。
性格は正義感が強く、助けが必要な人を放っておけない心の優しい少年。行動力と決断力に長じ、機知に富む少年。だけど、剽軽でちょっと抜けてる面も、と盛り盛りである。一昔前のラノベ主人公か。
ともかく。
この主人公オーリスがこのマーセルヌ王国の運命を左右するキーマンなのだ。
今、この段階でぶっ殺したなら、この世界は、この国は、このシナリオはどんな風に変貌するのだろうか。
今夜。今夜だ。待ってろよクソ神ィ。テメェの世界をワッチャワチャにして、シナリオを根っこからグッチャグッチャにしてやんよぉ……
オリエンテーションとして、グループの新入生を引き連れて校内を散策している中、アイヴァンは暗い愉悦に心を沸かせていた。
今、アイヴァンは頭の中も心の中も、今宵、主人公オーリスを殺すことでいっぱいだった。その心理状態は初めて恋人が出来たティーンエイジャーに近いかもしれない。『貴方に夢中で他に何も見えない』状態という奴だ。
そんな嫌なトキメキを抱いているアイヴァンに、セレン・グレイウッズが声を掛けた。
「ロッフェロー先輩」
抑揚の乏しい声色。
癖のある金髪のショートヘアに鋭い翠眼、端正な細面と肉付きの薄い体つき。美しい娘なのだが、鉄か何かから削りだした彫像のような無機質さがある。
「なんだ、グレイウッズ。質問か?」
「はい。先輩に聞きたいことがあります」
片眉を上げたアイヴァンへ、セレンは問う。
「ダンジョンで女王ナメクジを手籠めにしたというのは本当ですか?」
無機質な顔でとんでもないことを聞くセレンに、他の新入生達がぶーっと吹き出した。
彼らとてアイヴァンの噂は知っていた。というか、マーセルヌ王国の貴族なら誰もが、アイヴァンの『噂』を聞いている。
『女王ナメクジを手籠めにした男』。『スラムでチンピラ達を素手で殴り殺した撲殺男爵』。『Sランクの発狂性呪物装備を狂うことなく扱う豪傑』。『モラデイオン公爵家令息その他を半殺しにした拳骨魔人』。『モラデイオン公爵家で蛮族の如き催しを開いた狂犬野郎』。
一言で言うならば。
『ヤベェ奴』
そんな『ヤベェ奴』へセレンは無表情のまま問いを続けた。
「女王ナメクジと先輩がどうやって情交したのか、すごく気になります」
「なんだぁ、テメェ……」
アイヴァンはびきびきと額に青筋を浮かべる。ルンルンに湧いていた上機嫌は一瞬で、この不愛想な少女に対する苛立ちに転換された。
「知りたきゃあお前の体で味合わせてやろうか、ああ?」
「よせ、ロッフェロー」
カイル・グリーンが鋭い声を飛ばしてきた。その声には殺気すらこもっていた。
「あ?」
アイヴァンはぎろりとカイル・グリーンへ顔を向ける。
「この無礼な新入生の肩を持とうってのかぃ、グリーン先輩よぉ」
「そもそもはお前が招いた悪評が原因だろう。自業自得だ」
「ほーぅ?」
額に浮かぶ青筋を増やしながら、アイヴァンはカイル・グリーンへ相対し、メンチを切り始める。カイル・グリーンも一歩も引かない。彼には彼の“事情”があるゆえに。
指導役二人がマジものの殺気をぶつけ合う事態に、はわわと慄く新入生達。放火犯のセレンは無表情のまま成り行きを見守っている。
アイヴァンはカイル・グリーンを睨みながら告げた。
「……グリーン先輩よぉ、次は訓練場の見学と行こうか」
カイル・グリーンは柔らかく微笑みながら、されど目は一切笑っていないまま、言った。
「上下関係をしっかり学ばせる良い機会になりそうだな」
そういうことになった。
★
カイル・グリーンは学年で五指に入る魔法騎士だ。
アイヴァン・ロッフェローはダンジョンの階層ボスと単独で殺し合える豪傑だ。そんなアイヴァンはカイル・グリーンを“泣かす”つもり満々だった。
ネームドの強さはデカパイ女騎士エルズベスと剣を交えた時に理解している。だが、この一年、命を賭したチャンバラに勤しんできた経験が、アイヴァンに自信を持たせていた。
主人公様をぶっ殺す前の準備運動だ。その女受けするツラをぼこぼこにしてやんぜ優男ォ。
訓練用甲冑を着込み、盾と刃を潰した訓練用剣を手に、アイヴァンは競技場内に足を踏み入れる。その豪壮な姿に新入生達は息を呑む。
一方、カイル・グリーンの装備は軽装だった。盾を持たず皮革鎧のみ。訓練用剣でも下手をすれば大怪我は避けられない。
「俺は魔法騎士だ。魔法を使っても?」
「構わねーぜ。俺も“そのつもり”でやっても構わねーよな?」
アイヴァンはカイル・グリーンに応じながら、剣の柄をミシミシと握り込む。
「無論だとも」
カイル・グリーンは腰に佩いた訓練用剣を抜き、片手で構えた。
「グレイウッズ。合図を」
「わかりました」
セレンは無機質に応じる。
訓練場の空気が張り詰めていく中、セレンは機械的に告げた。
「はじめ」
セレンの発した言葉の音が消えきらぬうちに、アイヴァンはその筋力を発揮。重たい甲冑を着ているとは思えぬ素早い一投足で間合いを詰め、まさかりを叩きつけるが如く訓練剣を振り下ろす。
カイル・グリーンは剣で防がず、いなさず大きくサイドステップをして一刀を避けた。
続くアイヴァンの斬撃。切り返しから突き、横薙ぎ、盾撃込みの体当たり。その全てが一撃必殺の威力がこもっており、その全てをカイル・グリーンは蝶のようにかわし続ける。
新入生達は息を呑む。アイヴァンの振るう暴力の凄まじさに。それらを玲瓏に避け続けるカイル・グリーンに。
「こンの、ひらっひらっ避けやがってェっ!!」
苛立ったアイヴァンが怒号を上げる。
「訓練だというのに殺意が高すぎないか、ロッフェロー」
くすりと笑うカイル・グリーン。
その笑みから余裕が感じられるが、額を伝う汗は運動量だけが理由ではない。アイヴァンの巨躯から発せられる圧力と、その剣戟の殺人的破壊力が、カイル・グリーンの体力と精神力を大きく削っている証拠だった。
体力お化けのアイヴァンは大汗を流しながらも、息は上がっておらず、動きも全く鈍っていない。真に余裕があるのは、アイヴァンの方だ。
「抜かすなっ!!」
アイヴァンは咆哮を上げ、カイル・グリーンへ吶喊。
ここでカイル・グリーンは初めて魔導を放つ。
「ティンダー」
初歩中の初歩、詠唱すら一語で済む小さな炎をアイヴァンの鼻先に飛ばした。火傷すら負わせられない小さな炎。
だが、その狙いはダメージではない。
放たれた小さな炎はアイヴァンの目元へ飛んでくる。これを無視することは生物としてできない。目は絶対の弱点であり、瞼は極めて柔らかな薄皮に過ぎないのだから。
「ちぃいいっ!!」
突撃に入っているアイヴァンは慣性と体勢と体幹の都合からかわすことはできない。身をよじっては突撃の衝撃力が失われるし、後の先を取られる。ならば――
アイヴァンは剣を振るい、ティンダーを殴り消す。一刀による姿勢変化をつなげ、カイル・グリーンに迫りながら左の盾撃を打つ。
「戦い“慣れて”いる人間はそうするだろうな」
カイル・グリーンは読んでいた、と言いたげに前へ深く踏み込んで盾撃を“潜る”。
背後へ潜り抜けたカイル・グリーンはアイヴァンの切り返しの一刀へ合わせ、剣を握る指へ刺突を放つ。
訓練剣の切っ先がアイヴァンの右手を直撃し、大槌で鉄板を殴ったような轟音が響く。アイヴァンの4指がへし折れた。籠手と共にひん曲がり、飛散する鮮血と共に宙を舞う訓練用剣。
勝負あった、と思う新入生達。しかし、
「いってーな、このガキャアっ!!」
アイヴァンは折れた右手を無視し、無理やり身を捻って左手の盾でカイル・グリーンを“撥ね”る。
!? 手ごたえが薄いっ! “意図的に”食らいやがったっ!
アイヴァンが察した通り距離を取るため、カイル・グリーンはわざと盾撃を受けた。事実、ダメージを受けぬよう訓練剣で受け、衝撃の瞬間に後方へ飛んでいた。
そして、跳ね飛ばされながらも新体操選手のように身を捩って姿勢を整え、着地と同時に魔導を打った。
「ファイヤストーム」
先ほどのティンダーとは比較にならない炎の奔流がアイヴァンへ向かって襲い掛かる。
無理やり盾撃を放ったアイヴァンは回避も防御もままならない。
炎に呑まれるアイヴァン。荒れ狂う炎の飛沫と熱風が届き、新入生達が感嘆と悲鳴を上げた。
「今の魔導には見た目ほど威力は無いよ。命に危険はない」
慄く新入生達へカイル・グリーンが言葉を掛けた矢先、セレンが淡々と告げる。
「まだ終わってない」
「味な真似しゃーがって、コノヤロ――――ッ!!」
「!?」声もなく驚嘆するカイル・グリーン。
炎熱の中から筋肉ゴリラが飛び出し、折れた指で右拳を固く握り締めたアイヴァンがカイル・グリーンへ肉薄する。
その殺意たっぷりの拳がカイル・グリーンの端正な顔面を捉える刹那、セレンが無詠唱で放った電撃魔導術がアイヴァンを捉えた。
「あばっ!? あばばばっばばっばっ!?」
感電したアイヴァンが白目を剥いて崩れ落ちる。というか、慣性の法則に乗っ取り、ずざざあああっとヘッドスライディングしていった。
唖然としているカイル・グリーンと新入生達を余所に、セレンは爬虫類のような眼で、ビクンビクンと痙攣するアイヴァンを見つめ、口の中で呟く。
「ふむ。“弱い”が、このしぶとさは使えるかもしれんな」
こうしてアイヴァンは追加キャラに目をつけられることになった。
なお、この日は体の痺れが抜けず、主人公様殺害計画は先送りせざるを得なくなった。
そして、この日以降、アイヴァンは諸事情から討ち入りを実行する機会を失う。
短気を起こしてカイル・グリーンに喧嘩を売らなければ……これが世界の選択なのか。それともシナリオの強制力なのか。
否。
短気は損という話である。
ヴィルミーナの方を優先させているので、更新が滞りがちです。申し訳ない。




