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第7話 恨みの眼光

宿まで青年に聖を運んでもらって、寝床に寝かせる。

息は荒かったが先程よりは容態は安定しているようだ。


「本当に良かった……。ありがとうございました!!」


私は青年に向かって頭を下げた、彼はなんだかむず痒いような表情をして、頬をポリポリと指で掻いていた。


「差し支えなければお名前を教えていただきませんか?」

「俺は、() 子龍(しりゅう)だ。」

「子龍さんですか、何かお礼をさせてください!!」

「別にいらねぇよそんなん。」


そう言うと子龍は部屋にある、食卓の椅子に座った。


「ちょっと休ませて貰ってもいいか?」

「はい、構いません!!」


椅子に座ると、彼は「はぁ……」とため息をついて顔を伏せた。


「やっぱりお疲れですよね、ゆっくり休んで言ってください、私は構いませんので、」

「お前ら……、」


そう言うと、彼は部屋を見回して、私の顔を訝しげに凝視してきた。


「やっぱり裕福な奴らだろ、こんないい部屋、庶民は普通泊まれないぜ。」

「そうなんですか??」


お金の事はよくわからないが、やはり皇帝直々に命令されたから、援助はしっかりして貰えているのだろうか??

よく考えると持たされた備品などはしっかりしている気がする。


「さしずめどっかの貴族の姫さんってところか??その男と駆け落ちしてきたとか??」

「ち、違います!!」


失礼な人だ!!と顔が少し熱くなったが、彼は面白いと言わんがばかりに目を細めた。


「そうか。でも貴族の姫さんでも誰の後ろ盾もないんじゃ、こんな所居ないほうがいいぜ。この国はもう、あんたみたいな奴らが生きていけるような国じゃねぇんだ。」


悲しそうな表情を浮かべて彼はそう言った。

私は皇帝や紅琳からこの国の現状を聞いただけだ。だから本当にこの国の民たちがどんな思いをしているか見たことがない。でも彼はそんな人々を目の当たりにして生きているのだろう。


「私は貴族の娘ではありません、ましてやあの人と駆け落ちした訳でもないんです。」

「じゃあなんでこんなことしてんだ??」

「私達目的があって旅を始めたんです。まだ旅を始めたばかりでこんななんですが、でもやらなきゃいけない事があるんです。」

「そうか……。」


そう言って彼はそれ以上詮索して来なかった。正直内心ほっとした、旅の目的を彼に言わなくていいならそれに越したことはない、やはり今日の経験上いい反応はされないだろうから。


「あんた、名前は??」

「私は春好花南です。」

「カナン……、変わった名前だな。」

「よ、よく言われますっ!!」


一瞬ヒヤッとしたが、子龍はさほど気にしては居ない様子だった。


「人はそれぞれ事情があるからな、今のご時世だと尚更だろ??あんたにも人に言えない事情があるんだろうな。」


そう言うと彼は椅子から立ち上がって、軽く身なりを整えた。


「一度出会った縁だ、ここにしばらく滞在するなら力になるぜ、俺はここの近くの万味楼(ばんみろう)って飯屋で住み込みで働いてんだ、なんかあったら頼ってくれ。」

「ありがとうございます、子龍さん!!」


いい人に出会えて本当に良かったと思う、さっきまでずっと汚いものを見るような目で見られてきたから、余計に子龍の優しさが染み渡った。


「とりあえずそいつを何とかしねぇとな。」


そう言って、子龍は聖の寝台に歩み寄ると、彼の額に手を置いた。


「やっぱり高いな。花南、お前病人の面倒見た事あるか??」

「実はあんまりよくわかってなくて……。」


現実の世界でなら勿論看病のやり方くらいならわかっている、しかしここは異世界の国である、ほとんど古代中国のこの世界で今の知識が通用するとは到底思えなかった。


「そりゃ貴族の姫さんは知らねぇか。仕方ない、今から教えてやるから覚えろよ。」

「ありがとうございます!!」


子龍は色々な看病の手順を教えてくれた。何故か妙に慣れている節があって不思議に思ったが、これで聖の看病もしっかり出来るだろう。

何から何まで助けて貰って、本当に彼には感謝してもしきれないくらいである。

最後に私は聖の額に冷えた手拭いを載せた。


「これでとりあえずは大丈夫だ。しばらくしたらまた冷えた手ぬぐいに交換してやってくれ。目覚めたら汗を掻いてるだろうから、汗を拭ってやって着替えを用意して……、」

「慣れていらっしゃるんですね……。」

「え??」


しまった!!と私は口を塞いだ、思わず声が漏れ出てしまっていたようだ。


「すいません、あまりにもサクサクとこなしていらっしゃったんで。」

「別に、病気がちの家族が居たから慣れてるだけだ。」

「そうなんですね。」


所々口は悪いが、家族思いで優しい青年のようだ。

彼ならこの世界でも信頼しても大丈夫だと思った。


「しかし、こいつちゃんと着物着込んでんな。こんなん熱いだろ、少し寛げてやるか……。」


そう言って子龍は聖の着物の襟元に手をかけると、少し着物の併せを緩めた。

私がしまったと思った時にはもう遅く、聖の鎖骨の辺りにある紋章が露になってしまったのだ、

彼は酷く同様した様子で固まっていた。


「あ、あのこれはっ……!!」

「あんたら、まさか……。」


そう言うと彼は強く私の事を睨みつけた。


「俺はとんでもないやつの事を助けちまったみたいだ、こんななら無視しとけば良かった。」

「え……??」


あまりにもの態度の変化に私は理解が追いつかなかった、

神子と言うだけで私達はこんなに虐げられなければならないのか。


「やっぱりさっき言ったのはナシだもう二度と俺に関わらないでくれ。」


そう言って子龍は部屋を出ていった。


あんな風に睨みつけられたのは初めてだった。

しかし街で虐げられてた時とは違う、明らかな熱量が子龍の眼差しにはあったような気がする。

異形の物を見る目とは違う、明らかにあの瞳は私に対する憎しみを宿してるような気がした。

彼は昼間出会った人達とは違う気がする、理由はないが私はそう思った。


もう一度彼に会いにいこう。

どんな風に思われてもいいから、私はあの眼光の意味が知りたい。


「うう……。」


その瞬間聖が少し苦しそうに唸った。


そうだ今は聖に元気になって貰わなければ……。


すっかり温くなってしまった、手ぬぐいを絞り直して聖の額に載せた。少し彼の表情が柔らかくなったような気がして、少し心が軽くなったような気がした。


私はその夜、熱に魘される聖を一晩中看病し続けた。


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