第5話 虚弱な剣士
隠れて行っている鍛錬を終えて、私はまた熱を出した。
素知らぬ顔をして部屋に戻りそのまま寝床に倒れ込んだ。
体が思うように動かない、いつだってそうだった。
兄上達のように健康な体だったら、きっと私はアイツらよりも強いはずなのに。
生まれ持った力さえも上手く使いこなせない、この力さえ使いこなすことが出来たら、私はもっと強くなれるのに。
皇帝陛下からお呼びがかかって、神輿としての役目を与えられてから数日経った。
初めて会った神子はなかなか変わった少女だったが、面白い娘だと思った。
だが同時にこの非力な自分に、神子のことが護れるのか不安でならならない、神子を護る運命を背負って生まれてきた自分が、どうしてこんなにも虚弱なのか。
私は生まれ持った自分の身体を恨まなかった日はなかった。
私は代々高名な武官を選出している、白家に産まれた。
父は高名な武官で、上に兄も2人おり双方花炎国に仕える屈強な兵士だ。
幼少期から体が弱かった私は、剣の才能は誰よりもあると言われたのに、それを使いこなす体力がなかった。
天女のような美しさだと称された美貌があっても何の役にも立たない、寧ろ憎む程である。
剣を振るったら熱が出て寝込んでしまうこんな体などもう要らないと何度思ったことか。
父からは見放され、兄達からは馬鹿にされて今まで育ってきた。
私は白家の恥なのだ。
そんな私に国の命運を背負った神子を守ることができるのだろうか。
こんな神輿としての能力も自由に使えないような私に。
体は重いが、旅の仕度を整えなければ……。
そんなに持って行く物もないが、重い体を引きずって少ない荷物を纏める。
これを持って行くべきなのだろうか……。
ずっとしまい込んでいた一振の剣、すっかり埃を被っていたが、昔父が自分にくれたものだった。
でも、こんなものを持っていても私には使いこなすことが出来ないのに。
ドンドンと荒々しいノックが聞こえた、またあの人達だろう。
案の定、無遠慮に屈強な兄達が部屋に入ってきた。
周りの人々は口を揃えて私と兄達を似てないと評すが、当たり前の事だ。私とこの兄達の母親は違うのだ。
「よお、聖。準備できたか?」
「兄上、どうされたのですか?」
「やっと厄介物が消えるなと思ってな、最後に拝みに来てやったんだ。」
相変わらず嫌味な人達だと思う。でも私はこの人達に言い返すことは出来ない。
「父さんも厄介払いが出来て良かったと言っていたぞ、でもお前なんかに神子様が護れるとは思わないがな。」
「っ……。」
図星をつかれて声が出なかった。
神子を殺してしまったとなったら一族の恥にはなりかねない。
それだけは何としても阻止しなければ、父にもう失望されたくない。
「私が死んだとしても神子様は絶対に守りきります。」
「せいぜい頑張れよ、一族の汚名になるようなことはないように。これ以上父上を失望させるな。」
「お前みたいな男は体を売る方がお似合いなのにな!!」
意地の悪い高笑いを上げながら、兄達は部屋から出ていった。
怒りで体が熱い。
本当に悔しいのにどうにもできない。しかし本当の事だから何も言い返せないのだ。
私は手に持っていた剣を抱きしめた。
(お前には才能がある、これは私が若い頃に使っていたものだ)
これは父がまだ私の幼い時にくれたものだ、あの頃はまだ人と同じくらいに私は動けていた。
あの時の父の向ける眼差しは私に対する期待に溢れていたのに、私はその父の期待に答えたかった、でもその夢が叶うことはなかったが。
全く私も諦めが悪いな、いつまで経っても父に自慢の息子だと言われたいなんて、
結局、私は誰かに必要とされたいだけなのかもしれない。
誰かに本当の私を見てほしいだけなのかもしれない。