第4話 天女
神子になります宣言をしてから花南は、別室に通され、2人きりで皇帝直々に神子とはどのようなものかの説明を受けた。
まず神子は五行土全ての国に存在していること、その国がピンチになった時に選ばれし少女が神子となって国を救っているらしい。
過去にも何人か神子になった少女はいたようだ。
そして神に祈りを捧げるには2つ条件があるという。
1つ目は神輿と呼ばれる、神子を護るために生まれながらにして神の加護を得て、様々な能力をもつ5人の従者を集めること。
例に習って神輿も他の国に5人ずつ存在するが、国が不安定にならないとそもそも産まれて来ないようだ。
そして神輿には体の1部のどこかに花の紋章があること。
それは各国の神輿事に違うらしく、火の神輿は椿の紋章が体のどこかにあるという。
2つ目は神器という五体それぞれの神から与えられた。アイテムを身につけた状態で祈りを捧げること。花南の場合はそれは腕輪だった。
説明を終えた花珀はこう続けた。
「これからそなたにはこの花炎国の方々に居る神輿を探してきて貰いたい。」
「はい、ですが全く情報がなく人を探すことはできますかね?」
「大丈夫だ、神子と神輿は運命で繋がっている。自ずと出会う事が出来るはずだ。」
「そうですか……。」
半信半疑だが今はその言葉を信じるしかないだろう。
「だが花南よ、お前が自力で集める神輿は4人で良い。」
「え?」
「実はこの宮廷に神輿が1人いるのだ、」
「本当ですか!?」
「向こうに待機させている、通せ。」
キィ…と扉が開いて入ってきた来たのは、長い濡れたような美しい黒髪を縛り上げ、ヒラヒラとした真っ白な美しい服を来た方だった。
声も出せない程に花南は釘付けになってしまった。
天女かな……
ぼーっとしている花南の前にその美しい人は跪いた。
「お初にお目にかかります神子様。私はこれより神子様の旅のお供をさせていただきます、白 聖と申します。」
「は、はじめまして春好花南です!よろしくお願い致します。」
挙動不審になってないか花南はとても不安になった。
しかしそんな花南を見て聖は美しく微笑んだ。
こんなに綺麗な人がこの世にいるんだ……。
と完全に花南の思考は停止した。
花珀が聖に声をかける。
「正式にそなたを神子の護衛として任命する。命に変えても護れ、よいな!」
「は!」
「では2人とも旅の支度が整い次第旅に出ること。もう下がって良いぞ、」
「は!失礼致します、では神子様参りましょう。」
「は、はい!」
聖に連れられるまま部屋を出る。神子様と呼ばれるのはなんだかむず痒かった。
「神子様も急な事で驚いていると思いますが、大丈夫です私が絶対にお守りいたします。」
「はい、ありがとうございます。でもちょっと不安ですよね、女子2人旅だなんて……。」
「え……?」
ピタッと前を歩いていた聖の歩みが止まった。そしてクスクスと笑いだしたのだ。
なんかまずいこと言っちゃったかな……!
焦っているのに言葉が出なくてオロオロしていると、聖がお腹を抱えながら声を出した。
「神子様何か勘違いしていると思われますが、私は男でございます。」
「え……!男!?」
「そうですよ。」
「ごめんなさい!余りにも綺麗な人だったからてっきり女の人かと。」
「大丈夫です、慣れてますから。しかし神子様は面白いお方ですね。」
「そ、そうでしょうか?」
怒られることすら覚悟したのに聖は怒るどころかニコニコと笑っていた。こんなに綺麗なのに優しいだなんて本当に天女みたいな人だと花南は思った。
「聖さんって本当に素敵な人ですね、」
「いいえそんなことないです、」
「そんな、」
「本当にそんなことないんです。」
その瞬間、聖の顔に影が落ちたことに花南は気づかなかった。
1週間後に旅に経つことが決定し、旅支度に向けて花南は紅琳と準備を始めた。謁見の時の一件以降塞ぎ込んでいた紅琳も元気になったようで良かったと思う。
「花南様、外の世界に旅に出るのにこの服装は目立ちますね。」
「え、そうだね……」
紅琳が取り出したのは花南の制服だった。
「こんなにボロボロだと、もう着られないですよ。」
「でもこれは花南様が異世界から持ってきた唯一のものでございます。」
「そうですね……。」
だからボロボロでも捨てられなかったのだ。色々な思い出がこの制服には詰まっている。学校や友達、家族、そして初恋の人。
もうあの日々は戻ってこない。
思い出すのは辛いので考えないようにしなければ、
「でもあれですよね、神子の役目を果たしたら帰れるんじゃないかなって思ってるんですよ。」
「花南様……。」
紅琳はどうしてこんなに悲しい顔をするのだろうか?
笑ってる顔がいつも可愛いのに
「花南様お願いがございます。」
「どうしました?」
紅琳が花南の前で跪き手を握った。
「どうか私のことを抱きしめてくださいませ。」
「き、急にどうしたんですか!??」
「敬語も要りませぬ、どうか私のことを妹のように思ってくださいませ。」
そうか、紅琳は私のことをそんなに大切に思ってくれてたのか。
いつも優しく可愛い彼女は花南にとっても感謝してもし切れない存在になっていたのだ。
花南はそっと紅琳を抱きしめると優しく彼女の頭をなでた。
「紅琳、いつもありがとう……。」
「かなん、様……。」
声で紅琳が涙を流していることが分かった。
この子のことを助けるためならば神子になって本当に良かったと思う。
「私絶対に神子として役目を果たすわ。絶対に紅琳の所まで帰ってくる。」
「はい……。」
しかし紅琳は悲しそうな声をあげると、花南の腕から離れ、さっとどこかに行ってしまった。
しばらくして紅琳は美しい風呂敷包みを持って帰ってきた。
「花南様、どうかこれを、」
紅琳は花南にそれを手渡した。天女の羽衣のようなふわふわとした生地に何かが包まれている。
「何これすごく綺麗……、紅琳開けてもいい?」
「はい、これは私から花南様への選別でございます。」
「選別??」
そう言って結び目を解くと、中から服が出てきた。
紅琳達が着るような服のデザインだったが、所々制服のような造りになっており動きやすそうで旅に着ていっても大丈夫そうな衣装だった。
「可愛い!!これどうしたの?」
「花南様にお渡ししたくて、急いで設えたのです。」
「え!?紅琳が作ったの??」
「左様でございます。元々着ていらっしゃったセイフクというお着物に似た造りの方が花南様も動き安いのでは無いかと思いまして、」
「凄い!本当にありがとう!」
「いえ、私はこれくらいしか力になれませんので、」
そう言って紅琳はまた俯いてしまった。
いつでも紅琳は私の力になってくれているのに、
こんなに助けられているのに、そんなに悲しい顔しないでほしい。
「これでを着てればいつでも紅琳が傍にいるって思えるね。」
「花南様……。」
「私本当に嬉しいの、だから笑って紅琳。」
「はい!」
嬉しそうに紅琳が微笑んだ。自然と花南も笑顔になる。
そうだ私は何度もこの笑顔に助けられたのだ、絶対に神輿を5人集めて儀式を成功させよう。
そう花南は心に誓った。