第2話 可愛い姫君
夢を見た。幼い頃のまだ自分が両親の本当の子供だと思っていた頃の私を。遊園地で手を繋いでとても楽しくて嬉しくて、妹と一緒に走り回って遊んだり
(楽しかったなあの頃は、もう戻れないのかな、)
ふと目を開けると可愛らしい女の子が覗き込んでいた。
花南が目を開けた瞬間に彼女は安心したように微笑んだ。
「大丈夫ですか?」
「ここは?」
「昨日気を失われてからここに運んできたんです。」
「ということは、まさか昨日助けてくれた方ですか?」
「そうです。」
昨日姿はマントで隠れていたが可愛らしい顔は覚えていた。
マントを脱いだ彼女はふわふわとした赤い美しい服を身に纏っており、部屋もとても広く絢爛な装飾がされていた。身分の高い家のお姫様なのかもしれない。
「本当にありがとうございました!」
「いいえ、間に合って良かったです。」
「あの、お名前をお伺いしても?」
「私は花 紅琳と申します。」
「紅琳さんですか。私は春好花南と申します。」
「花南様ですか、こちらこそよろしくお願い致します。」
紅琳という名は彼女によく似合う可愛らしい名前だと思った。優しく微笑む紅琳を見ていい人に出会えて良かったと花南は泣きそうになった。
この人なら信頼してもいいかもしれないと花南は意を決してこの世界のことを聞いてみることにした。
「あの、変な事を聞いてもいいですか?」
「大丈夫ですよ。」
「ここって一体どこなんですか?私この腕輪をはめた瞬間この世界に来てしまったみたいで。私多分異世界の人間なんです。」
紅琳は一瞬とても驚いた表情した。
やはり変な人間だと思われてしまつまったのではないかと花南は焦ったが、紅琳はすぐ微笑みを浮かべて説明をはじめた。
「ここは五行土に属する国家の1つ、花炎国です。」
「五行土、花炎国ですか…?聞いたことないです。」
「不躾ですが花南様はその腕輪をどこで手に入れたんですか?」
花南の手を取り紅琳が問いかける。
「これは、家の屋根裏部屋にあったんです。」
そう答えた瞬間に紅琳の手を握る力が少し強くなったような気がした。
「では花南様はこの国の神に選ばれたのかもしれないですね。」
「選ばれた…?」
「花炎国に加護を与えて下さっているのは、五行道の中で火を司る神、祝融です。この腕輪は祝融の神力が宿ってる神器です。」
「なんでそんなものが私の家の屋根裏部屋にあったんですか?」
「それはわかりません……」
紅琳は物憂げな表情で目を伏せた。
「しかし、花南様がもし異世界から来たとするならば、それは祝融の神力が働いたからだと思います。」
「どうして私なんかが選ばれてしまったんでしょうか。」
「何かの手違いかもわかりませんがきっと大丈夫です。戻れる方法を考えましょう。」
「ありがとうございます。」
「ではとりあえず湯浴みの準備をしてきますね、花南様も身を清めたいと思っていると思いますし。」
紅琳がベッドの横の椅子から立ち上がり部屋を出ようと背を向けた。
花南は堪らず声をかける。
「あの!」
「どうされましたか?」
「どうして私を信じてくれるんですか?普通だったら異世界から来たなんて信じて貰えないですよね。」
「花南様の身なりは変わって居られましたし、本当にお困りの様でしたから。寝てる間もずっと魘されて居りましたし。」
「紅琳さん……」
「私は花南様のお力になりたいのです。」
また優しく紅琳が微笑む。涙が込み上げてきた。
「本当に、本当にありがとうございます。」
「泣かないで花南様、どうか異世界に戻られるまではここに居てください。何も心配することはございません。」
自分は本当に幸運だと思った。こんなに優しい人が自分の前に現れるだなんて思いもしなかった。
「では私は参りますが、花南様くれぐれもこの部屋からは出ないようにしてください。」
そう言って紅琳は部屋を出ていった。
そこからの毎日は腕輪を使って紅琳とどうしたら戻れるかと試行錯誤する日々、しかし私の存在は紅琳の家の人には知らされてないみたいで私は部屋から外に出ることは許されなかった。
紅琳と暮らすようになって1週間程たったが芳しい効果は得られず、八方塞がりとなっていた。
(私やっぱりこのまま帰れないのかな。)
こちらの生活にはだいぶ慣れてきた。紅琳も良くしてくれるし、でも外に出られず、ずっと部屋の中に居なければならないというのは大分辛いものだ。
トントン……。
ノックが聞こえる。いつも特定のお世話してくれる人が花南に食事や色々な面倒を見てくれていた。しかし食事の時間はまだである。
(なんだろ急用かな?)
キィ……
とドアが相手知らない顔の男が入ってきた。
(これはまずいのでは……!)
花南は内心とても焦ったのだが時すでに遅し。
「貴様何者だ!」
「あ、あの私は……!」
「ここは、紅琳様の別室であらせられるぞ!」
「だ、だから私は!」
「曲者だ!ひっ捕らえよ!」
(だからなんで話を聞いてくれないのー!)
そこから花南はぞろぞろとやって来た衛兵に捕らえられて牢にぶち込まれた。
「お願いします!話を聞いてください!」
「うるさい黙れ。明日嫌疑にかける。」
そのまま衛兵は牢から出ていった。
牢屋はジメジメしてて、真っ暗で、生臭い匂いがした。
せっかく紅琳が助けてくれたのにこれだとまた逆戻りだ。
(このまま私死刑になるのかな)
花南はそのまま眠れぬ夜をすごした。