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成程、とことんまで戦い合う気持ちは俺と同じようだ。ならば俺も真に覚悟を決めねばなるまい。誓おう、今宵この身が砕け散ろうとも、この作品を読み終える。たとえ屍になろうとも……!
再び静寂が訪れる室内。
思えば、誘いをかけたのは俺の方からだったが、真に俺の意思がすべてだったかというと疑問である。半分、芥山の意思が介入していると思っているからだ。そうだ、だからこそ俺はああ言ったに違いない。
「芥山、俺とゲームをやろう。なに大したことじゃない。お互いの作品を読み合うんだ、目の前でな。そして研鑽を行う。互いに批評をし意見をぶつけ合う。文学の果てなき研鑽だ」
いいじゃないか、と彼は即答した。
「ゲームだと呼称するならば本気になるのもまた道理。流血、骨折は必至だ」
良いかな? と問いかける目に俺は「望むところ」とこれまた即答した。
かくして俺たちの戦いは幕を開けたのである。
そして再び静寂を破ったのは、他でもない、俺の叫び声だった。
「なんだとぉーっ! ここでヒロインが警察に捕まるだとーっ!?」
俺は椅子ごと吹っ飛び、全身を床に打ち付けた。
くっ、あばらが二、三本逝ったようだぜ。
が、続けざまに芥山の文章力が俺を刺し貫く。まさかの連続攻撃だ。
「ぐぼっ! この倒置法はなんだ! 美しい、美しすぎる!」
俺は思わず言葉に出してしまっていた、と直後に吐血。今度は内蔵へダイレクトに来たようだ。
くっ、昼に食った天ぷらが腐っていたか。
だが、俺も負けっぱなしではいられない。
お返しだ。
「ごぽっ!」
プロボクサーが痛烈なボディブローを喰らったかのように吐血する芥山。
「京川よ、ミステリーのくせに容疑者が全員死んでしまうとは何事だ! 許せん、むむう、許せんぞ! くっ! … …って、なぁぁーにぃぃーっ!!」
絶叫。その後に彼は突然椅子の上に立ち、おもむろに後転。いわゆるバク宙をしつつも、大失敗をして脳天から床へと突き刺さっていた。
犬○家よろしく上半身が突き刺さったままの体を、俺は力一杯引いて助けておいた。見ると服はボロボロ、やはり頭から血を流していた。
が、当然ながら彼はそんなことを気にするような野暮なやつではない。
「あの暗号の意味はこれだったのか! くそう! 京川め! 生意気なやつだ!」
ゲームで言うならまさに「かいしんのいちげき」だ。気分がいい。これだから創作はやめられないのだ。
さあ、もっとだ。もっともっと深いところへ潜って、深いところで磨き合おう。潜って潜って。そう、このゲームこそが「深層ダイヴ」と呼ぶべきものだ。