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芥山文楽郎を一言でいえば「天才」である。
ありとあらゆる本を読み漁り、あらゆる文章に精通している。こう言うと天才ではなく「秀才」ではないかと言われてしまうかもしれないが、それは違うと断言する。間違いなく天才なのである。
その証拠の一つが発想力。まさに彼は発想の鬼である。奇想天外な展開はお手のものである。またどんでん返しに次ぐどんでん返し、はたまた転げ落ちるように展開した後に至る結末は、正しく破天荒そのものである。
他にも彼を天才足らしめるものはいくつもあるが、とにかく芥山文楽郎という、文学に携わるために生まれてきたような名を冠する男がこう言ったのだ。
「京川よ、文学のぶつかり合いとは真剣の斬り合いと同義であるぞ」
俺、京川春彦は思う。ならば、この男と文学のぶつかり合いを行うならば、それは死合となるのであろうと。
「文学思想の競合をゲームと呼称するならば、本気の本気で取り組むもまた道理。骨折、流血するも当然」
嗚呼、文学とは死ぬことと見つけたり……!
そして、俺は天才と相対する。
望むべくして死地に臨む。端から見れば自殺志願者とさして変わらないのだろう。
俺の作品タイトルは「空想の断罪」。犯人探しのミステリーだ。対して彼の天才のタイトルは「迷走するオマエ」。なんというふざけた作品名だ。
だが違う。
目の前のボサボサ頭の男が、何よりも愛する自分の作品にわざわざおかしな名前をつけるはずがない。それがゆえの天才。それがゆえの好敵手。
思わず笑みが漏れた。いいぞ、芥山文楽郎。もっともっと深い場所で楽しんでいこう。