8 思考
燃えた家から見つかったのは、1人の男性と2人の女性の遺体。それは妙な話だった。燃えた家は、新婚の夫婦の家だ。なら、女性の遺体が一つ多い。
家に訪れていた友人か?
「まさか・・・」
ヒストレードは、同じく殺人鬼を追う仲間、マーラの姿を思い浮かべた。彼女は村に入ったはずだ。なら、この村のどこかにいるはず。
会わなければ・・・でないと、嫌な妄想が現実味を帯びる。
燃えた家から見つかったなぞの女性の遺体は、マーラ・・・なんて妄想が。
ヒストレードが村人にマーラについて尋ねると、村人は困ったような顔をした。
「それが・・・あれから誰も見ていないんだ。まさかとは思うが・・・」
「あの家にいた・・・ということか?」
「おそらくは。アリアとも仲が良かったからな、あり得ない話じゃない。俺たちは、そうだと思っているよ。」
「そうか。」
「知り合いなんだろう?マーラの世話をしていた奴の家に案内する。こっちだ。」
「すまない。」
マーラの世話をしていた村人は、マーラの荷物をヒストレードに託して、好きに使っていいと、マーラが借りていた部屋を貸した。
そこで、ヒストレードはマーラの荷物を広げる。
着替え、化粧品、筆記用具に便せん・・・これは、ヒストレードに手紙を書くときに使うものだ。12枚入りの便せんも、何度かやり取りをしていくうちにずいぶんと減った。残り三枚。思えば、もうこんなにもやり取りをしていたのか・・・
「残り三枚・・・ということは、9回やり取りをしたということ。」
便せん・・・封筒の数をヒストレードは見ていた。なので、何度ヒストレードに手紙を出したのかは、それでわかる。
9回・・・その数に引っかかりを覚えたヒストレードは、自身のカバンから、マーラから送られてきた手紙を引っ張り出した。
その数は、8通。
「やはり、足りない。」
他の者に手紙を出すために使ったのか?それはないはずだ。これは、ヒストレードにあてるときだけ使用すると言っていた。マーラの荷物をさらに見てみれば、確かに別の便せんがある。
「私のもとに届いていない手紙がある。」
もしくは、書き損じたのか?その可能性もあるが、マーラが亡くなった今知るすべはない。それに、火事に巻き込まれて死んだというのは、ふにおちなかった。
「殺人鬼を追っていたもの。殺人鬼を追うものの協力者・・・同様に死んだのは偶然か?」
「偶然なわけがない。どちらにせよ、もう少し調べてみることにしよう。・・・この騒動で殺人鬼は逃げてしまっただろうか?」
協力者のアリアの家が燃えていること、アリアが死んだこと。以前からの協力者マーラも同様に死んだこと。あまりの衝撃で、本来の目的を見失ってしまった。
確かに、民間人を巻き込んでしまったことは、深く反省すべきこと。しかし、それに囚われて殺人鬼を逃すことは、あってはならないことだ。
死んだ2人に申し訳が立たない。
「反省は、殺人鬼を捕まえた後でもできる。」
ヒストレードは気持ちを切り替えて、マーラの荷物を再び見返した。
「何か、殺人鬼につながるようなものは・・・」
しかし、切り替えた後でも、殺人鬼につながりそうなものは見つからず、ヒストレードはマーラの荷物をまとめる。
「まだ昼だ。今日はここに泊めさせてもらえるよう交渉して、夜に荷物を改めよう。この姿絵は・・・使えないな。」
アリアから聞いた限り、村人は殺人鬼らしき人物に、好意的のようだ。この姿絵を村人に見せたり、特徴を話すのはやめておいた方がいいだろう。
殺人鬼も追われる身だということは自覚しているはず。探している者がいれば、存在を隠すように頼んでいるだろう。
「・・・刑事である私が村にいることはわかっているはずだ。逃げていないにしても隠れているだろう・・・村人に聞き込みをするのは制限があって、殺人鬼を探していることを悟らせないように聞き込みを行わなければならない。」
ヒストレードは、自身のカバンの奥底へと、姿絵を入れる。
「アリアの家は全焼した。手がかりはない。手元にあるのは、マーラから送られてきた手紙と、マーラの荷物くらいか。」
他に、何か・・・アリアは、殺人鬼についてどう語っていた?マーラは?
金の髪に、青い瞳。気さくな男。・・・村に来たのはほんの少し前・・・なのに、村に必要な人物。そういえば、必要な人物とはどういう意味なのか?
気さくな男だから、村に溶け込んで村の一員になった・・・ので、必要?いや、そういう意味ではないだろう。
「殺人鬼が来る前に、この村に足りなかったものは、何か?」
考えるが、以前の村を知らないヒストレードにわかるわけがないかと、諦める。なら、何から調べればいいのか?
「・・・一つしかないな。家が全焼した・・・そのことについての聞き込みをするしかない。そこを足掛かりにして、殺人鬼につながる証言を拾おう。」