7 村へ
アリアは、ヒストレードに翌日の昼間、村を訪れるようにと言った。どうにか、村にはいれるように手配をすると言って。
何を手配するのか?村人を説得してくれるということか?
疑問は浮かんだが、聞いてもはぐらかされるばかりで、結局何も聞けなかった。強く聞くことで、せっかくのチャンスを逃しそうだと、弱気になったせいもある。
ヒストレードは、それを了承したので、翌日村に向かった。
町から村へ。この先には、閉鎖的な村しかないことから、人通りは少ない。ここを通るのは村人か、近くにある森へ狩りに行くハンターくらいだろう。
閉鎖的な村の近くには、凶暴な魔物が住む森があった。なぜそのような森が近い場所に住むのかと、疑問に思うかもしれない。しかし、数年前まで魔物は森の外から出ず、森に入らなければさほどの危険はなかったのだ。
今は、村を襲う魔物が出るという、この道は余計に人を遠ざける。
そんな人通りのない道を、一人進む。
腕に覚えのあるヒストレードは、普通の女性なら・・・いや、一般人なら怯えてしまうような道を、散歩でもするかのように進んだ。一応、対魔物用の拳銃をいつでも取り出せるようにして、準備をしているが。
「出てくる気配がないな。」
一匹くらいは魔物と出くわすのではないかと思っていたヒストレードは、拍子抜けした。ここで何度も配達員などが襲われたという話を聞いていたが・・・
「噂は、誇張されるものだしな。」
配達員が何人も襲われた・・・というのは、たった一人の配達員の話を、何度も聞いた人の勘違いかもしれない。
そう納得して、ヒストレードは先に進んだ。
村の入り口が見えるところまでやってくると、何やら村が騒がしいことに気づいた。よく見れば、煙が上がっている。
「火事か?」
ヒストレードは足を速めて、村へと急ぐ。そんなヒストレードを見た村人が、彼に近づいてきたので、ヒストレードは口早に身分を明かした。
「刑事のヒストレードだ。」
「!」
「何があった?」
「火事がっ!アリアの家が燃えて・・・」
「アリア・・・アリアだとっ!?」
ヒストレードが昨日話を聞いた村人と同じ名前だ。
「アリアとは、青い髪の娘か?」
「え、なんでそれを。確かに、アリアは髪が青い・・・」
「偶然のはず、ないな。・・・すぐに行こう、案内してもらえるかね?」
「あぁ、こっちだ!」
先導する村人の後に続くヒストレードの鼻が、焦げ臭いにおい拾う。その匂いが濃くなっていき、目まで潤んできたところで、村人は止まった。
「あそこです。」
「これは・・・消火しきれんな。」
家は、完全に炎に包まれていた。ここまで火の手が回る間、誰も気づかなかったのか?それとも、火の回りが早すぎて消火できなかったのか?
「中に人は?」
「・・・アリアとキラが・・・夫婦なんだ。」
「夫婦・・・」
アリアとは、殺人鬼についての話しかしていない。なので、結婚していることすら知らなかった。そのことが、ヒストレードの胸を少しだけ痛めた。
「まだ、新婚だっていうのに。」
追い打ちをかけるような村人の言葉が、ヒストレードの胸に刺さる。
新婚の女性に危ない橋を渡らせたのか、私は。
いや、一般人に危ない橋を渡らせること自体間違っている。殺人鬼を追うことに集中しすぎて、そんなことにまで考えが及ばなかった。
深く後悔するヒストレード。だが、いくら後悔したところで、目の前に燃える家の火は一向におさまらない。
赤々と燃える炎に、人々は無駄と知りつつも、水をかけ続けた。