6 証拠
殺人のために人を殺す。そんな殺人鬼の存在を忌み嫌った女性刑事、ヒストレード。彼女は、殺人鬼逮捕のため尽力したが、思うような結果は得られなかった。それでも、根気強く殺人鬼を追う彼女に、殺人鬼を見たという女性のことが耳に入る。
マーラ。男爵家の末っ子で、殺人鬼に姉を殺された被害者だった。
初めてマーラから殺人鬼の特徴を聞いたとき、ヒストレードはこれで殺人鬼を逮捕できると思った。しかし、ことはそう簡単に運ばず、殺人鬼は見つからなかった。
我慢の限界だったのだろう、マーラも独自に殺人鬼を追い始めたことを知って、ヒストレードはマーラと情報を共有することを提案した。
民間人が殺人鬼を追うことをよく思っていなかったが、殺人鬼をすぐに捕まえられない自分がマーラを止めることはできないと思い、せめて協力をすることにした。
それから、マーラとは数度の手紙のやり取りがあり、最後の手紙では閉鎖的な村に入ることができたという報告と、しばらく連絡はとれないということが書かれていた。
その村に、直感的に何かを思ったヒストレードは、その村の隣町を拠点に捜査を始めることにした。
そして、3日。特に手掛かりがないまま日が過ぎていたが、マーラが入った村の者と接触することができた。それだけでなく、その村人は殺人鬼の姿絵に反応をしていた。
彼女は何かを知っている。
「どんなことでもいい。知っていることがあるなら、教えてくれるかね?」
「・・・もしも、この絵姿にそっくりな人がいたら、刑事さんはどうしますか?」
その質問に、もちろん逮捕すると、言ってしまいたかった。しかし、顔がそっくりというだけでは証拠として弱く、すぐに逮捕するということはできない。
最低限の証拠。例えば、殺人鬼を見たマーラに顔を確認してもらい、その者が殺人鬼だと証言してもらうことができなければ、身柄を拘束することはできない。
「その人物を調べる。」
「・・・やっぱり、そうですよね。」
殺人鬼を野放しにするのか!と怒鳴られることも予測したが、ヒストレードの予想と違い、村人は刑事の職業に多少理解があるようだった。
「それで、似たような人物を知っているのかね?」
「・・・はい。」
小さい声だったが、はっきりと肯定する村人。ヒストレードの胸には、表現できないほどの喜びにあふれた。それは、殺人鬼の顔がわれた時の比ではない。
やっと、やっと捕まえることができる。
すぐに捕まえることができないのは、少し前に確認したのでわかっているが、それでも逮捕すべき対象を確認することができたのは、とてつもない達成感だった。
「その人物は、君と同じ村人かね?」
「そうです。数か月前に、どこからかやってきて、村の一員になりました。この姿絵のように、整った顔立ちをしていて、金の髪に青い瞳をもっていました。・・・とても気さくな人で、すぐに村に溶け込みました。」
「・・・」
ヒストレードの脳裏に、マーラの証言が浮かぶ。
第一容疑者と考えていた、姉と交流を持つ、いつも一人でいる気さくな男。殺人鬼は、やはりその男だったのだろうか?
「その男を調べたい。村に入ることは可能かね?」
「・・・刑事さんが身分を明かせば、入ることは可能だと思います。」
「入ることは可能・・・何か、懸念することでもあるのかね?」
「・・・彼は、村に必要な人です。なので、彼を調べに来たことが知れれば、村人は彼を逃がすでしょう。」
「なるほど。では、この姿絵は出さないことにしよう。」
「・・・刑事さん。」
「他にも何か?」
「いえ、ただ。・・・刑事さんが探すべき証拠・・・とは、どのようなものでしょうか?」
殺人鬼は、間違いなく殺人鬼であることを隠している。なら、殺人鬼につながる証拠など持ち歩いていないだろう。犯行に使った凶器などがあれば、決定的な証拠ともいえる。しかし、まずない。
「犯行現場を押さえるのが、一番手っ取り早いが・・・いや、なんでもない。証拠を探すことは難しいであろうが、殺人鬼の口から殺人鬼しか知りえない証言を引き出したりなど、方法はいくらでもある。心配は無用だ。」
「そうですか・・・」
その時、少しだけ村人は微笑んだが、ヒストレードはそれを見逃した。