3 殺人鬼を追うもの
殺人鬼。そう呼ばれる人間は、今のところ一人しかいない。なので、殺人鬼といえば、ある一人の男を指すのだ。
殺人鬼が現れたのは、1年前。金目の物を何一つ取らず、被害者に接点がないことから、殺人を目的とした犯行なのは明らかだった。
そんな殺人鬼の手口は、鈍器を使った頭部への殴打。被害者たちは、頭の形が変わるほどの攻撃を受け、絶命していた。
凶器不明、目撃者も現れず、犯人の目星は全くつかない。ただ、力が強いことはわかったので、性別は男であると予想はされていた。
そんな殺人鬼の顔がわれたのは、数か月前のこと。とある女性が殺されたところを、その女性の妹が目撃した。
「金髪に、青い目をした・・・顔立ちの整った男だった。」
しかし、妹の証言に一致する人物で、犯行に及びそうな人間は見つからず、捜査は難航した。それに納得できなかった妹は、住んでいた町を出て犯人を捜し始める。
「きっと、町を出たんだ。私に見られたから、逃げたんだ・・・絶対逃がすものかっ!」
そして、妹がたどり着いたのは、閉鎖的なとある村。
ただ、閉鎖的と言われる通り、よそ者をめったに入れない村に入るのは、少しだけ苦労した。
村の隣町で、村から買い出しに来る村人を捕まえて、その村人に村に入れてもらえるよう取り計らってもらった。その村人は、金に困っていて、妹はその金を工面した。
金の使い道は、母の病気を治す薬を買うことだったので、嫌な気もせずに金を渡し、その村人の恩人ということで村に入れてもらうことができた。
「家のための婚約が嫌で、逃げてきたんだ。長居するつもりはないから、家の追手が諦めるまでしばらく置いて欲しい。」
そんなウソをついて、妹は村に居座ることにした。追い出されては叶わないので、殺人鬼探しはひっそりと、自分の目で確かめて行うことにする。
村に入れてもらえるよう取り計らってくれた村人の家で、家事を手伝う代わりに泊めさせてもらう。
洗濯をするため、共用の洗濯場で洗い物をしながら、妹は周囲を探った。
洗濯場には数名人がいたが、女性ばかりだ。犯人である男がいるはずはなく、それでも妹が周囲を探ったのは理由があった。
「あの子がいいか。」
青い長い髪と同じ色の瞳を持つ女性。妹はその女性に目を付ける。
他の村人と話している女性の様子をうかがいながら手を動かすが、その村人が去ると同時に妹は立ち上がった。
「ここ、いいかい?」
「・・・はい。」
目をきょろきょろと動かして、自信なさげにぼそぼそと返事を返す女性。おとなしそうなこの女性なら、と妹は狙ったのだ。
「私は、マーラ。しばらくこの村にいるから、よろしく。」
「・・・アリア。・・・よろしく。」
「きれいな名前だね。アリアって呼んでいいかい?」
「・・・はい。」
「アリアは、この村で生まれたの?」
「・・・はい。」
「私は、町で生まれ育ったんだ。この村は、空気が澄んでいるし、農作物は安いし、いいところだね。私もこんな場所に生まれたかった。」
「・・・そうですか。」
「ははっ。村で生まれ育ったなら、ここがどんなにいいところか、わからないだろうね。町は、危ないところでね、今なんて殺人鬼なんてものが出歩いているんだ。」
「・・・怖いですね。」
「あぁ、怖いさ。私の姉も、殺されたからね。」
「え・・・?」
妹は、アリアに自分の姉が殺されたことを打ち明ける。それは、アリアが噂を広めるような人間ではないと思ったからだ。ただ、すべてを馬鹿正直になど話はしなかった。
「姉が殺されて、家のための結婚を私がすることになってね・・・嫌で逃げてきたのさ。ここなら、そう簡単によそ者は入れないだろう?追っ手を撒くには最適な場所だね。」
「・・・」
「ごめん、初対面の人に話す話ではなかったね。」
「いいえ。・・・あの、お姉さんとは、仲が良かったのですか?」
「・・・忙しい両親に代わって、私の世話をしてくれたのが姉だった。姉のことは好きだったよ。」
「それは・・・お気の毒ですね。」
洗濯を終えたのだろう、アリアは立ち上がった。それに妹も続く。
「アリア、もしよかったらこの後お茶でもどう?」
「・・・わかりました。・・・後ほど伺います。」
「やっぱり知っていたんだね、私のこと。」
「村でのことはすぐに耳に届きます。小さな村ですから。」
妹が世話になっている家でお茶をする約束をして、2人は別れた。