2 夫婦
村の守護者となった男、キラ。彼の気さくな性格と整った容姿は、閉鎖的と噂される村の一員になることに一躍買う。彼はほどなくして、一人の女性を妻として迎えた。
こうして、ますます村の一員として溶け込んだキラとその妻を、村人たちは祝福した。
キラの妻となった女性の名は、アリア。長く青い髪と瞳をした、人見知りの気がある大人しい女性だ。最初は、キラにもよそよそしかった彼女だが、キラの気さくさで仲良くなって、遂には結婚まですることになった。
決め手は、不幸なことだが彼女の両親が亡くなったことだ。
アリアの両親は、村の5本指に入る金持ちの家系で、何不自由ない暮らしをアリアに与えてくれると同時に、惜しみない愛情も注いだ。
そんな彼らの死に嘆き悲しむアリアを支えたのは、キラだ。
喪に服すという考えがない村だったので、葬儀が行われて数週間後に2人は結婚した。
不幸は幸せで消してしまえばいい・・・村人たちはそう言って、2人を祝福した。
夜。キラの帰りを一人待っていたアリアの耳に、扉を叩く音届いた。
「帰ったよ、アリア。」
扉の外から聞こえる声に、アリアは微笑んで扉を開ける。
「・・・お帰りなさい。・・・おつかれさま。」
「ただいま。待ってくれていたの?」
「・・・うん。怪我はない?」
「平気だよ。」
「良かった・・・ご飯、すぐに温めるわ。」
「ありがとう。」
キラが外套を脱ぐと、アリアはそれを受け取ってハンガーにかけた。それから台所に立つアリアを見て、キラも食卓の前の椅子に腰を掛ける。
「ごめんね、一人にして。怖かっただろう?」
「・・・大丈夫。あなたが守ってくれるって、信じていたから。」
「嬉しいことを、言ってくれるな。」
「でも、心配したよ。・・・怪我してないかなって。」
「大丈夫だよ。本当に君は、優しいな。」
「普通のことだよ?・・・好きな人のことだもの。」
「ありがとう。」
アリアは、うっすら頬を染めて、温まったシチューを器によそった。それを2つ、食卓に並べて、キラの向かいの席に座る。
食卓には、あらかじめ並べてあった、サラダとパンも置いてあり、今日の食事はこれがすべてだ。あとは、飲み物にワインが瓶ごとおいてあって、キラはその瓶からグラスへとワインを注いだ。
「今日もおいしそうだ、早く食べよう。」
「・・・うん。」
「「いただきます。」」
声がそろって、お互いに微笑み合ってから、夕食に手を付け始める。
キラの仕事は、この村を守ることだ。
今日は、村に近づく魔物がいると、見張りからの報告を受けて、それを倒すために出ていた。こんな時間になってしまい、アリアは不安だったが、疲れた様子もないキラを見て、心底安心する。
食事を終えて、一人片づけをするアリア。
キラには、先に寝室に行くよう促したが、彼が寝室には行っていないことを、彼女は知っている。
皿を洗って、水気をきる。乾いたタオルで皿を拭いて、戸棚にしまったアリアは、キラが入っていった部屋の扉を見つめる。
そこは、キラの私室だ。
結婚をするにあたって、私室を作ることが条件の一つだった。
アリアは、キラの私室の前に立って、扉をノックした。
「皿洗い・・・終わったわ。先に寝ているわね。」
「すぐ行くよ。」
言葉通りに、キラはアリアが立ち去る前に、扉を開けて出てきた。
明かりのない部屋は真っ暗で、何が置いてあるかもわからない状態だ。そんな闇のような部屋は、あっけなくアリアの視界から消える。
ぱたんと扉が閉められて、アリアはキラの腕の中におさまった。
「今日は寒そうだね。体を冷やさないようにね。」
「・・・あなたもね。」
「なら、2人で温め合おうか。」
「うん。」
寝室に向かう前に、2人は少しだけ見つめ合った。
可哀そうな人だ。
そう心の中で呟いた。