1 とある男
馬よりも速く人を運び、魔物に襲われる確率が低く安全な、機械仕掛けの乗り物。遠出に適した乗り物として知られる列車に、一人の男が乗車した。
男は、旅をすることが好きで、居場所を転々としていた。
今回も、3か月暮らした村を出て、次の居場所を探すため、なんとなく北へ向かう列車の切符を買った。
まだ見ぬ新天地に、思いをはせるのも楽しみの一つ。これだから旅はやめられないと、男の心は踊っていた。
北は寒いが、独自の食文化があると聞く。食巡りから始めるのも楽しそうだ。
列車の中はいくつもの個室が並んでおり、それぞれに番号が振ってある。男に割り当てられた個室は「103」。ドアにかけられたプレートを見て、男は「103」の個室にたどり着き、ノックをした。
「どうぞ。」
中から、若い女性の声が聞こえ、相席する人物に期待を膨らませた。
個室とは言っても、一人一つというわけでなく、基本2~4人に一つだ。なので、全く知らない人と、長時間過ごすことになる。
男にとっては、それも旅の醍醐味の一つだった。
前回は、腰の曲がった、やせ細った老夫婦と同席した。旦那の方は話好きで、都会に憧れて田舎から上京し、安定した生活を手に入れることができたと話していた。運がよかったとも。
同じように上京して、田舎で過ごすよりひどい生活をした者の話も、旦那は話した。そんな者に職を斡旋したが、裏切られたという話も。
色々な生き方がある。いろいろな人生がある、ということを知ることができるのは面白いものだ。
人の話を聞くたび、男は思い出すのだ。一人一人に、人生という物語があることを。
「103」の薄い扉を開けて、男は会釈をする。
「初めまして、よろしく。」
「よろしくお願いします。」
中にいたのは、美しい女性だった。青い髪を肩で切りそろえ、短いが手入れの行き届いた髪だ。天使の輪のように、光を反射している。服装は、車内が寒いせいかベージュのコートを羽織っている。
女性は微笑んで、男を迎い入れた。
男は、女性が親しみやすいことを知って、色々な話をした。女性の方も、それは楽しそうに話をして、意気投合する。
赤の他人。だからこそ、こんな話を相手に聞かせたのだろう。
人を殺した話なんてものを。
辺境の、どこにでもあるような村。これまた珍しくないような、村にとっては大事件が起きた。
村は、魔物に襲われていた。
村の近くにある森を縄張りにしている、狼型の魔物の群れが、村を襲ったのだ。
森は、その年、何処かの貴族が思いつきで林業を始めて、めちゃくちゃに木を切り倒した。その影響で、森の恵みは減り、小動物が減った。
村の人間も困ったが、一番困ったのは森にすむ生き物だ。その中の狼型の魔物が、腹を満たすことができなくなって、村を襲った。
木を切り倒した時は、貴族も訪れていたので、その護衛がいた。だから、魔物も手が出せない。だが、貴族が去った今、魔物たちが村を襲うのなんて造作もないことだった。
次々と襲われる村人。
嘆き、祈り、狂う。様々な反応をしたが、どれも等しく食い殺された。
男が現れるまでは。
危機に瀕した村を救ったのは、たった一人の男だった。
絵本から出てきた王子様のような、金の髪に青い瞳の整った顔立ちの男。荒事とは無縁そうなその男が、村を襲った魔物たちを返り討ちにした。
「どこのどなたが存じませんが、あなたのおかげで助かりました。村人一同、感謝をいたします。」
「僕の名前は、キラ。感謝なんてとんでもない、当り前のことをしただけだよ。」
「いいえ、あなたは命の恩人です。貧しい村なのでたいしたことはできませんが、何か私たちにできることはありませんか?恩人に恩返しをしたいのです。」
「なら、この村の一員にして欲しいな。もちろん、今回のようなことがあれば、僕が全力でこの村を守るよ。」
「そのようなことでよければ。むしろ、喜んでお迎えいたします。」
こうして、一人の男が村の一員になった。
連載中小説「男だけど、聖女召喚された」
「見世物少女の逆転転移記」
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