本当に辛い事
96話
「ハルも戦えるか!?」ラフノの声は風に煽られながらもハルへ届く。
「戦える!」ハルの強く通る声かラフノに届いた瞬間地面に無数の剣が突き刺さる。
「取れ!」ラフノはその単語を放ち、左手にも剣を持つ。それに釣られてハルは剣を一本抜き、ラフノの横を走る。
「まずは足を切り落とすぞ!左足は頼んだ!」ラフノはそう言って魔王の右足へと向かう。ハルは頷き魔王の左足へと走っていく。
「勇者じゃない?知った事か!」魔王はそう言って僕を大きな右拳で殴ってきた。僕は地面へと飛ばされる。地面に当たると瓦礫と砂埃が打ち上がり、僕の全身にヒビが入るような痛みが襲われる。
しかし、その瞬間僕の身体は元の姿を取り戻す。恐らくハルが治してくれたのだろう。僕はそう考えて立ち上がる。
すると背後からヤーズの声が聞こえた。
「大丈夫!?」ヤーズの声は迫真で僕を本気で心配している事がわかった。
「ハルのお陰で何とか...。」僕はそう言って地面に突き刺さった剣を抜いた。
「今私は力を溜めてます!その間守ってくれませんか!?」ヤーズはそう叫んで魔王を見据える。
「わかった!」僕はそう言ってヤーズに目配せしながら魔王へと走っていく。
「はぁ!」ラフノは叫びながら魔王の右足に剣を突き立てた。しかし、剣は通る様子はなく、剣がカタカタ震えるだけだった。
「クッ!俺はお前を倒す!」ラフノがそう言った瞬間、力が上がる。
「光炎の双剣!」 ラフノはそう言って両手に持った剣に光を宿した。その甲斐あって魔王の皮膚に切り込みが入った瞬間。ラフノは魔王に捕まった。
「痛いだろ!」魔王はそう言ってラフノを握り潰そうとした。その瞬間僕は魔王の腕へ跳び、剣を構えて叫ぶ。
「離せ!」僕はそう言ってラフノを掴んでいる魔王の腕に、剣を振った。しかし、斬れるはずもなく、勢いが死んだ。
「力を!」僕はそう言って剣を高々と上げる。その瞬間、内に眠る全ての力を解放した。力が混合して身体中に痛みが伴う。しかし、今はその痛みが僕の身体を突き動かした。
「斬れろ!」僕はそう言って剣を振った。すると魔王の腕はズレた。
「よし!」ラフノはそう言って魔王の手から脱出し、魔王の身体を伝って顔に走り出した。
「これは...。まずい。」僕はそう言ってそのまま落下し出す。力の解放により、身体に負担がかかったのだ。
あと少しで地面にぶつかる時、僕は誰かに捕まえられる。それはハルだった。
「早く起き上がって!」ハルはそう言って僕の身体を修復させた。
「ありがと....。」僕はそう言って立つ。
その時背後からヤーズの声がした。
「避けて!」ヤーズの声がした瞬間魔王の目をラフノが斬りつけ、光の速さで避けた。
ヤーズから放たれたのは一矢だけだった。小さくか細いような矢は真っ直ぐ魔王の胸部分に突き進む。そこで目を再生した魔王が目を開く。
「なんだこの遅く弱々しい矢は?」魔王はそう言って既に再生した腕で矢を掴んだ。その瞬間稲妻と獄炎が世界を覆う。
「この力は!憎きドラゴンの....!」魔王はそう苦しむ声を上げる。しかし、その時は一瞬で終わった。
「なんてな?いい魔力だ!」魔王は平気な顔をした。
「これで無理か...。じゃあ、これでどうだ!」僕はそう言って鬼神の力のみを特化して解放しようとすると、上空に声が聞こえた。
「ここは俺の場所だぞ。」
「これは、鬼神の....声?」そう言い放ったのはハルだ。ハルは身体を震えさせている。1度乗っ取られた思い出があるから当然ではある。
「魔王だかなんだか知らないが、ここで暴れるなよ。」鬼神は空を飛びそう言った。
「お前が勇者か?」魔王はそう聞く。
「勇者ではない。ただ、勇者よりも強い!」鬼神はそう言って魔王へと飛びかかる。魔王は構えたが、鬼神の思いは虚しく攻撃は出来なかった。
「そうか、死んでるんだったな。じゃあ、あとは頼むぞ。人間。」鬼神はそう言って霧となる。次の瞬間その霧は僕の中に侵入した。
「大丈夫か?」ラフノはそう聞いてくる。しかし、その声を無下にするように僕は歩き出す。
「僕がお前を殺す!」僕は無意識に浮かぶ声を放った。
「レイド....。お前...。角が...。」そう言い放ったのはハルだった。僕は確認するようにおでこ辺りに触れると、頭から長細い角が一本突き出ていた。僕は足を地に付け、再度飛び上がった。
「喰らえ!」僕はそう言って手から黒稲妻を一直線に放つ。放たれた黒稲妻は撃った自分にさえ痛みの伴うほどで、今にも気絶しそうだった。しかし、魔王は平気な顔をして、僕の攻撃を受けようとしていた。
その通りに魔王は攻撃を受けた。
「弱いな。これ以上相手にしても意味が無さそうだ。」魔王はそう言って手の平を仲間に向けた。僕はその時空中にいて、地面に落下している最中だった。
「ここは俺が。」ラフノはそう言って剣を構えた。そして、僕はちょうど地面に足がつく。
「死ね。人間。」魔王はそう言い放ち、同時に手の平から黒炎が放たれる。僕は力を振り絞り、仲間の元へ走るが、思いは虚しく、僕の手は黒炎の熱で溶かされ、消えた。仲間と共に。
「まだ生きてるはずだ...。いつも何とか生きてきてたじゃないか。今更負けるなんてことあるはずが...ない...。そうだろ?」僕は地面を這いながら口を動かす。
「後はお前か。折角だ。リーダー格のお前を無惨に殺してやろう。」魔王はそう言って僕を地面に押し付ける。しばらく経つと、魔王の手が光る。
「同じように死ぬがいい。」魔王はそう言い放ち、手の平から黒炎を放った。僕の視界は真っ暗に染まり、身体が燃えていくのが分かる。痛みはない。ただ、炎のせいで涙さえも蒸発して消えていく事が、僕にとって1番辛い事のような気がしていた。
どうでした?
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