魔王という者
95話
突如として目の前に現れたのは他でもないかつての仲間だった。
「よ、良かった...。」僕は安堵の声を放ち、その場にうずくまった。それを境にみんなが起き上がり出す。
「ここは、一体どこなんだ...。」頭を押さえながら起き上がったのはラフノだった。ラフノの隣にはもう1人見慣れない男が倒れていた。しかし、その男は起きる様子は無かった。僕がそう観察していると次に起きたのはヤーズだった。ヤーズは平気な顔をしていて、辺りを見渡した。
「ん?レイドですか?」ヤーズは首を傾げて聞いてきた。僕は俯いた頭を上げながら涙を拭い言葉を放つ。
「ああ。久しぶりだな。」僕はそう言って微笑んだ。
その時ハルが起き上がった。
「あれ?一体何が起きた?」ハルはそう言って刀を持ち、足を震わせながら立とうとしていた。その瞬間突風が吹き荒れた。風が止むと目の前に見慣れた人影が見えた。その人影は他でもない道化師だった。
「どうも皆様...。“いい夢”は見られましたか?」道化師はそう言って仮面の裏で微笑んだ。
「夢?」そう言い放ったのはラフノだ。道化師はラフノの言葉に頷き、口を開く。
「そう。夢です。あなた方は別々の島に飛ばされる夢を見ていたのです....。そして、その別々のいい事があったのでは?」道化師はそう言って歩く。
「待ってくれ。本当に夢ならヤカナはどうして消えていない?」僕は躊躇なく淡々と聞いた。すると道化師は微笑む。
「いい質問です...。では現実に戻って来てください....。」道化師はそう言って指を鳴らした。
パチンッ!という音が僕らの目を覚まさせた。横にいたはずのヤカナは灰となって散った。それはラフノの隣にいた男も同じように散っていた。身体中についた傷は全て再生された。
「感謝して欲しいですね...。なぜなら魔王の手から救ってあげたのですから...。」道化師はそう言って浮き出した。
「少しいいですか?夢なら私の力もなくなるのでしょうか?」ヤーズが道化師に聞くと道化師は暗い顔をする。
「力は失いません。しかし、それはあなた方が魔王を倒すであろう器だと認識されたからです....。」道化師から急に零れた魔王と言う言葉。僕は困惑する。
「ま、魔王?」ハルは眉を潜めて聞く。
「そもそも魔王なんているのか?」ラフノは虚ろな目をして言い放った。
「そうですよ...。いるわけが....。」
「魔王はいる。」ヤーズが言葉を放っている時に僕は横槍を入れる。
「お話が早いですね...。」道化師はそうゆっくりと言い放った。
「しかし、魔王がいるのも実際眉唾ものだ。夢で見ただけだからな。」僕はそう言い放ち、道化師を睨む。
「そう睨まないでください....。あなた方が見た夢は夢であり、現実です。実際夢で見た場所は存在するものであります...。そして、魔王の幹部。ハエの王。妖精王。ドラゴン。その者は全て実在し、あなた方は無意識にその経験をしただけです。私が今指を鳴らせばここは壊れ、イズモの宿屋のベッドで目覚めるでしょう....。目を覚ましたらあなた方はすぐ魔王に襲われるでしょう....。」道化師はそう言って不敵に笑う。
「ちょっと待っ....!」僕の言葉は途中で掻き消された。道化師の指鳴らしの音を最後に僕は目を覚ました。
起きると地響きが起こる。それと同時に僕の身体は宙を舞う。みんなも既に目を覚ましていて地面に着地できるように体勢を整えようとしていた。
辺りを見渡すと人の大きさの比にならいないほど大きい人影が見える。
「勇者を殺し、我は魔神となろう!」大声で放たれた声は僕の耳を突き刺し、脳を揺らすほどだった。それと同時に町の全体に黒い爆発が多く起こる。その一瞬で辺りは更地になり、僕らを着地させた。
「あれが魔王...。」
「勝てる気がしない...!」
「今俺はムシャクシャしている!本気で行くぞ。」
「私の力を使えば...!」俺からハル、ラフノ、ヤーズの順に言葉を放つ。
魔王は僕達に気付いたのか、こちらを向く。
「こんな子供が勇者?すぐ終わらせる!」魔王はそう言って僕らに拳を落とした。僕はギリギリで避けれず、左足が潰れた。しかし、それと同時に僕は遠くへと跳んだ。片足では上手く着地できず、地面に擦れながら転がる。
すぐに体勢を立て直すと同時に足が元にもどる。
「大丈夫か?」そう言ってきたのはハルだ。
「回復魔法を覚えれたのか?」僕がそう聞くとハルは強くうなづいた。
「どう動く?あの巨体だと、僕らは1度攻撃を受けるだけで一溜りもない。だからと言ってここから何とかする作戦も思い浮かばない。」僕はそう言って今の状況を話した。
「...任せろ。」そう言ったのはラフノだった。ラフノの剣に光が宿り、ラフノの全身さえも覆い隠そうとしている。ラフノの言葉に僕は一言言う。
「任せた!」僕がそう言うとヤーズが口を開く。
「援護は任せてください!」ヤーズはそう言って弓に炎を纏わせた。
「傷付いたら任せろ!私が巻き戻す!」ハルはそう強く言い放った。
その次の瞬間行動を開始した。僕は少しの間その場に立ち尽くし、一蹴りで魔王の顔部分まで移動した。
「僕は勇者じゃない。でも、勇者に憧れたただ1人の少年だ!」僕はそう叫んだ。
どうでした?
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