崩壊する
主人公の思考は一体...。
9話
―――――皆死んでしまえばいい。
僕の脳裏に過ぎった言葉。違うこれは僕の感情じゃない。
今は抑えてくれ。僕の気持ちは、感情はなんなんだ。
「さっきから殺気が溢れ出てるけど止めなくていいの?アンナ」マイヤは冷静に口を動かした。
「大丈夫ね」
その時ドイルが目を覚ました。
「なんなんだ。ここは!どこだ!」ドイルは見当違いの言葉を放つ。
マイヤは腕組をした。
「本当にかわいそうな人。記憶の混濁でついに頭が壊れた」
マイヤの感情のこもっていない言葉はドイルに困惑を抱かせる。
「な、なぁここはどこなんだ!教えてくれ!お願いだ!」ドイルはマイヤに縋りつく。
しかしマイヤは慈悲なくドイルを蹴り飛ばした。
ドイルはそのまま壁にぶつかりもたれ掛かる。
僕はその間も”感情に支配”され続けていた。
「駄目ね?完全に殺気に囚われだしてるね。どうするの?マイヤ」
「折角だからほっておきましょう」マイヤは目を閉じた。
駄目だ。怒りに飲み込まれる。
死にそうだ。
解放したい。
この胸に眠る怒りを解放して楽になりたい。
待て、何に対して怒っているんだ。
僕は困惑する。周囲に纏わりついていた殺気が霧散した。
「僕は何を?」僕は妙な汗を掻いていた。
すると横からマイヤの声がした。
「帰って来れたの?」マイヤは呆れた声で言った。
更にその隣からアンナの声がした。
「以外ね?」アンナがそう言ったとき宿屋に衝撃が走る。
僕らが泊まる部屋の天井から壁に縦長の穴が開き、雪の侵入を許した。
天井の穴から強烈な冷気が漂ってきた。
何かの気配を感じ、僕は穴の開いた天井を凝視した。
その時僕の眼に映ったのは
「ヒョウリ...。」そこにはウトムにいた少女の姉だと言ったヒョウリがいた。
ヒョウリは周りにある雪を結晶にし、僕に飛ばしてきた。
雪の結晶は僕の真横を過ぎ去り、触れた部分は氷が解けるように跡形もなく消えていた。
ウトムの時の様にまた当たれば即死の戦いだ。
無理だ。
なんて、思うわけがないだろう。
僕は何の躊躇もなくヒョウリに近づいた。
ヒョウリが僕を目の前にして魔法を放つ。
ヒョウリが放つ魔法は複数の特大氷芯。
氷芯は僕の目をめがけて飛んできた。
氷芯が僕の心臓に触れると、冷気が周りに舞った。
―――僕の勝ちだ....
僕は口角を上げた。
僕が受けた攻撃をそっくりそのままヒョウリが受けた。
ヒョウリの心臓に氷芯が刺さり、ヒョウリの身体が芯から氷結され、氷が溶けるようにヒョウリの身体が跡形もなく消えた。
その光景をみたマイヤとアンナは口を揃えて言った。
「「ありえない....」」
その言葉を聞いて僕は頬を緩めた。
「僕にかなう奴なんていないのさ」僕は微笑えんだ。
もうわかった。
僕の能力は死ぬことによって発動する反撃の能力。
僕の能力はこの世界からの警戒心を高めることによって、ほぼ百発百中発動するだろう。
僕はこの世界を滅ぼす。
それが僕の生きた意味となりえるだろう。
「止まってもらえるね?」アンナが手の平を僕に向けた。
「あんたに僕は止められない」
「それはやってみないとわからないね」アンナは言葉に合わせて魔法を放つ。
僕の全方位に魔法陣が現れ、海水でできた槍が僕に突き刺さる。
しかし、僕は無傷でアンナに無数の海水槍が突き刺さる。
アンナの口から鮮血が流れる。
僕はその光景を見て微笑を浮かべた。
その次に攻撃を仕掛けようとしたのはマイヤだ。
「流石にあなたは倒さないとだめみたい」マイヤは紫苑の目を光らせ魔法を放つ。
紫色の光に包まれた槍は僕を貫いた。
しかし、僕は無傷でマイヤが心臓を貫かれる。
「僕にかなう奴なんていない!」僕がそう笑いながら発言していると、近くで物音がした。
物音の正体は目を覚ましたドイルだった。
「これはどういう状況なんですか」ドイルは精神崩壊したせいで既に別人だった。
「お前には関係のないことだ」僕は威圧した。
その時、ドイルは急に人格が変わった。いや、戻ったというべきだろう。
「お前は俺に勝てない!」ドイルの大声。
人格が完全に戻ったわけではないようだ。
しかし、明らかに違う人格だ。
刹那、ドイルは僕に切りかかってきた。
明らかに速さが違う。
そこでドイルは口を開いた。
「お前は俺に勝てない」同じ言葉をドイルが二度言った。
まさか、ドイルも僕と同じような能力があるというのか?
今は考える暇がない!
「なんて速さだ!」僕はそう言って胸を曝け出した。
そして、次の瞬間。僕の心臓にナイフが突き刺さる。
僕からあふれ出る鮮血が天井から舞い降り、積もった雪を赤に染めた。
痛い。
痛い痛い。
反撃できない。
これがドイルの能力?
能力を無効化する能力か?
痛みを味わったのは久しぶりだ。
僕は死ぬ。
このまま。
おしまいだ。
――――――~―――――~――――.....。
心臓の鼓動が収まる。
消える。
ㇳクン...。ㇳクン....。
「お前には恨みはあるが生きてくれ」ある冒険者の声。
「あなたには生きて貰わなきゃ困る」時には少女の声。
「妹の死を無駄にしたくない」ある時には怒る人の声。
「「「お願い生きて」」」色々な人の願いが僕を駆け巡る。その声に僕は応える。
「僕はもう生きなければいけないみたいだ」僕は壁にもたれ掛かったまま下を向いた。
次の瞬間ドイルが驚きの顔で僕を更に斬りにきた。
僕はそのまま刃を受ける。
同時にドイルの腹から鮮血が流れた。
薄れゆく意識の中であろうドイルは声を出した。
「俺の能力は1対1なら確実に勝てる能力だった。お前の能力は強すぎる....」
暫くして、ドイルの身体はピクリとも動かなくなった。
「僕はこのままどこに向かおうとしてるんだろうか....」僕は夜の明けた空を眺めた。
周りにはすでに誰もいなかった。
宿屋も民家も全て消えた。
「僕は今まで地図にない場所で何をしていたんだろう。何もない。ここには何もない」
僕は獣道を歩き出した。
楽しんでくれたなら幸いです!
話数ですが予定では365話で完結する予定です!
それまでどうぞ!お付き合いください!