夢と諦めの覚悟
86話
ヴァイルはどうなったんだ?身体が動かない。
「お、おい!あれを見ろ!」誰かの声が聞こえる。その声が聞こえた方向に目を向けるとそこには逃げ帰ってきた町人が多くいた。町人の回復魔法を扱える人は俺達の傍に来てすぐさま回復魔法を唱えていた。そして、その視界の隅には血にまみれたヴァイルが立ち尽くしていた。
「ヴァ...イル...。」俺がそう手を伸ばすと同時に意識が途絶えた。
「どうしますか?」ベッドに寝込む俺の傍で誰かが話していた。
「どうするも何も、ないだろ!」父の怒鳴り声は重く熱いものだった。
「しかし、町長は追い出すべきだと...。」父の声に気圧される人は怯えながらも言葉を放っていた。
「わかった。ラフは強いからいい。それよりもラフの友人。ヴァイルはどうする気だ?」冷静に言い放つ父はヴァイルの事まで聞いていた。町人は少し間を空けて言い放つ。
「ラフノに同行させればいいだろう。」町人がそう言った瞬間俺は根性で起き上がった。
「おい!お前は知らないかもしれないけどな....!」俺が声を放つ度、身体全身が軋むような痛みが伴う。それでもなお俺は話す。
「ヴァイルはこの町から出る事はできないんだぞ!」俺はそう言い放ち、もう一度ベッドに倒れる。父は無言のままだ。町人は俺の言葉を聞いて口を開く。
「なぜだ...?」そう聞いてくる町人の言葉に少し間を空け、俺は答えた。
「ヴァイルは両親に呪いをかけられているからだ。しかも、その呪いはこの町から出たら死ぬ呪いだ。」
「それは確かか?」町人は俺を疑っているのかそう聞いてくる。俺は頷く。すると町人は俺のいる部屋を後にした。
「ラフ...。さっきの話は本当か?」父は俺に聞いてくる。
「本当だよ。ヴァイルが叫んでヴァイルのお母さんとお父さんが町の人みんなに謝っていたの覚えてる?あの時実はヴァイルは呪いをかけられたんだ。なぜ、かけられたかは簡単な事だった。ヴァイルが冒険者になりたいと言った時だったらしい。もしかしたら、親なりの心配だったのかもしれないけど、そこまでするのか、と俺は呆れていた。」俺がいつも通りに話すと父の顔は神妙な顔つきになっていた。
「ラフ。お前は冒険者のラフノか?」父から衝撃の一言が発せられた。そもそもここは俺の心の中らしいから別にある話ではあるか。そうやって自分に言い聞かせていると続けて父が言葉を放った。
「いつまで自分の心の中だと思っているんだ?ここは今過去を変えているんだぞ?」父が少しきつく言ってきた瞬間俺の視界が歪み、俺の意識を奪った。
なぁ、ラフ。オレは間違っていたのか?間違っていたと思うか?オレはそうは思わない。なぁ。応えてくれよ。おい。生きてるか?オレは生きてるぞ。ラフ。お前のお陰だ。
しかし、俺の言葉は虚しく空回りする。
目を覚ますとオレは家にいた。家には両親共におらず、オレは血塗れのままだった。傷は塞がっていた。それだけで回復魔法を使われたことだけは確かだと知った。
外から声が聞こえる。両親の講義の声と町人の怒鳴り声だ。
「ヴァイルをこの町から出す訳にはいかないわ!」母の声は甲高く耳に染み付くような声だった。
「しかしそれでは息子さんを始末しなくてはならなくなりますよ!?」町人は怒鳴り声と共に物騒なことを口走った。その声と共に動いたのは父だ。
「いい加減にしろよ!なぜヴァイルを始末するんだ!」
「息子さんのみがあの場に血だらけの状態で立っていたんですよ!?そりゃ、町の人みんな彼を怖がるでしょう!町に居続けたら彼は“幸せ”にはなれないんですよ!?」町人の怒鳴り声はオレの耳に色濃く染み付いた。
「でも...それじゃあ....。ヴァイルは....“ 死ぬ事”しか出来ないじゃないか....。」父はその場に泣き崩れるように言い放った。それよりもオレは現実を見る。両親がオレを心配するあまり、この町から出られないようにオレにかけた呪い。追放か始末。どちらかを選んだとしてもオレは死ぬ事しか出来ない。どう足掻いたって無理なんだ。この町に居続けて始末されなかったとしてもオレは陽の光を浴びれなくなっているかもしれない。そんな不安要素がオレを囲む。微かに痛む身体をオレは起こし、立った。そして、外へと通じているドア目掛けて、歩き出す。
「どうせ死ぬなら、ここじゃないどこかへ....。」オレはそう呟いてドアを開いた。
ドアの先には膝から崩れ落ちた父と涙を流して立ち竦んでいる母。そして、少し怯えた様子の町人。オレはその3人を見て口を開く。
「オレは冒険者になりたい。気ままに依頼をこなして、仲間と夜を過ごしたい。でもそれが叶わないようになったときオレは辛かった。そして、今オレは殺される所なんだ。でも、ここで死ぬつもりはねぇ。だから、オレはこの町を....。出る!」オレはそう言って軋むように痛む全身に力を入れ、町の門まで走り出した。
どうでした?
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