特訓と夢
81話
夕暮れと共に俺はヴァイルが寝転んでいた草原に再び歩む。両手に木の剣を持ち、決意の眼差しを草原に向ける。今の俺には少なくとも剣術の心得がある。ヴァイルを強くさせて生きれるようにすればいい。そして、俺と一緒に旅に出ればいい。そうすれば俺が守れんだろうしな。
しかし、そんな簡単な話ではなかった。
「オレは外に出れないよ。出たら死んじゃうから。」ヴァイルは柄にもなく寂しげな顔をして言った。俺はなぜ?とは聞かなかった。それは思い出したからだ。
ヴァイルの両親は厳しい事で評判だった。ある日ヴァイルが母にこう言った。
「オレ!冒険者になりたい!冒険者になって人助けして!モンスターを狩っ...。」ヴァイルが未来を楽しく話していると、母は虚ろな目でヴァイルに近寄り言った。
「ヴァイルはここから出ては行けません。」母のその言葉はヴァイルの心を抉った。
とある日、ヴァイルが寝ているところに魔法陣が展開される。
「これ!なに!?母ちゃん!父ちゃん!やめてくれよー!」ヴァイルの苦痛の声は村中に響かせた。
ヴァイルの両親は町人みんなに「ヴァイルが言うことを聞かなかった。」という言葉で全て片付けた。しかし、実際はヴァイルの身体の中央に両親が呪いをかけたのだ。その呪いは町から出ると死んでしまう呪い。つまりヴァイルは冒険者になることなくこの町で死んでしまうのだ。
俺は落ち込むヴァイルに木剣を投げて渡した。
「なんだよ!」ヴァイルは起き上がって俺に向いて言ってきた。
「強くなろうぜ。」俺は木剣を構えて言った。ヴァイルは地面に落ちている木剣を拾い、俺に向けた。
「そうだったな。今日は戦ってなかったよな!」ヴァイルはいつもの調子をすぐ取り戻し、攻撃してきた。俺は華麗に避け、木剣に見えない程度に魔力を込め、ヴァイルを地面に叩きつけた。
「....カハ....ッ!」ヴァイルは口から空気が溢れて声が出た。
「どうよ...!」俺は木剣を肩に担ぎ、うつ伏せになっているヴァイルを見下して言った。
「次こそ....!」ヴァイルは起き上がってまた攻撃して来た。しかし、俺は避けるか捌くかどちらかをしてヴァイルの攻撃を何度も交わした。
やがて太陽が落ちた頃俺達、主にヴァイルは疲れて寝転んでいた。
「お前強くなってないか?」ヴァイルは息を整えて言ってきた。
「そりゃ、自主練してるからだろうな。」俺は適当にはぐらかした。
「オレさ。こんなだけどやっぱり村から出て冒険者になりたいんだよ....。」今にも泣きそうな声でヴァイルはそう言った。俺は木剣の柄でヴァイルを軽く叩く。
「きっと冒険者になれるよ。」俺はそう言って起き上がった。
「ありがとな。」ヴァイルはそう言って家に帰って行った。
さて、帰らないとな。俺はそう考えて家に帰る。
家に帰ると父と母が椅子に座って話していた。そこで俺が帰ってきた事がわかった母は笑顔になって話す。
「じゃあご飯にしようかね!」母がそう言って立ち上がって木の器にシチューを注ぐ。俺は注がれたシチューを机に持っていき、父はスプーンを持っていっていた。
「いただきます!」母がそう言うと俺と父も誘われて発言し、シチューを口に運ぶ。シチューはクリーミーで、味が濃すぎない美味しさがあった。
「俺はもう冒険者になれてもおかしくないと思う!」俺の唐突な発言はお茶の間を賑わせた。
「まだ子供のラフには無理だろ!」父は元気にそう言った。ムッとする俺を差し置いて父は笑っている。
「でも、凄いわね。もうそこまで強くなったの?」母はまず褒めてから、疑問をぶつけた。
「見てて。」俺はそう言って木剣を取り出し、魔力を込める。すると木剣は神々しいほどの光を宿した。
「こりゃ、驚いたな...。」父はそう言って驚愕の表情となっていた。同時に母はあまり驚いていないように見えたが、気絶しているようだった。
「へへ...!」俺はそう言って鼻の下を人差し指で擦る。
「とりあえず、それ、引っ込めてくれないか?」父は顔を真っ青にしてそう言ってきた。俺は素直に魔力を元に戻した。すると、先程まで光っていた木剣は光を失っていた。
「ウン。もう。この町から出ても大丈夫そうだな。」父はカタコトになりながらも俺が冒険者になる事を改めて許してくれていたみたいだった。
母は気絶したままで起きず、父がベッドに運んだ。
「よし、じゃあラフに魔法を覚えさせようと思う。魔力が操れている時点で魔法使えているようだがな....。」父はそう言ってジト目で俺を見る。
「まずは回復だ。」父はそう言って魔法書を見せてくれた。しかし、俺は回復魔法は使えなかった。
「まぁ、合わない魔法もあるからな。」父はそう言って火の魔法が書いてあるページを開いて見せてくれた。しかし、案の定、俺は使えなかった。
「じゃあ、光魔法。」父は少し遠慮しているように光魔法のページを差し出してきた。光魔法は俺は全般的に使えた。
「俺。光魔法だけで生きていくよ。」俺はそう言ってベッドに飛び込んだ。
ふかふかなベッドに吸い込まれる身体はまるで空中に、浮いているのか錯覚させられる。
どうでしたか?
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