妖精の森
79話
俺はラフノ。この名前には特に何かが込められている訳では無い。それでも愛おしく感じるのは何故だろうか。どうでもいい。今俺はどこに向かっているんだ?町でもないどこかに向かって歩いているだけ。町の安全も確認しないまま歩くだけ。
あれからどれだけ歩いた。まだ、1時間だろうか。そんな事を考えながら足元を見て歩く。
ヴァイルの亡骸が頭をチラつく。強くなりたいと叫んだろう。涙を流していたのを思い出す。それと同時に思い出される俺の殺し。ナアラは亡き者を生き返らせるアンデッド使いだった。希望を与えていたというのなら、アンデッドとして生き返らせていたのが全て悪い訳では無い。俺のような生者を殺そうとしたから悪い行いとして殺したのだ。そう自分に言い聞かせるだけだ。
足が動く先にあるのは森だ。真っ暗で足場の悪い森は俺の進む足を止めようとする。俺は森の命令に背いて歩むのを止めない。やがて光に照って光っていた剣は光を失い出す。段々と見にくくなる視界に嫌気が差していく。
「何なんだ。森さえも俺を突き落とすのか...!」俺は、さも自分が悲劇の主人公のように暗黒の森の中俺は駆け出す。突き出ている枝に皮膚が傷つけられる。痛みはあるが、それさえも気にしないほどに自分が嫌になって走らずにはいられなかった。そしてある時俺は地面を擦っていた。
「なんだよ。なんなんだよ!どうせならナアラと同じように俺も殺してくれよ!」仰向けになって叫ぶ俺に声がかかる。
「うるさい。うるさい。ガキかよ。」「そんなきつい言葉使っちゃだめだよ。例え人間だとしても...。」その声は複数いて、俺を嘲笑うかのように言葉を放っているようにしか聞こえなかった。
「黙れ!誰だか知らないが俺を嘲笑いにきたなら消えて...くれ....?」俺が地面に座ったまま言い放って目を開けるとそこには人の形は成しているものの、背中から虫のような羽が生え、 耳の先は尖り、身体は小さい。そう。この種族は妖精。長く生きた森に生息していると言われている種族だ。
「ガキ。何おどろいてやがる。」「だからそんなきつい言葉使わないでよ。人間さん。ここは妖精の森。そして、あなたの死ぬ場所にもなり得る場所。」
「なんだよ。こんなあっさり願いが叶うのかよ。死ぬ前に妖精王にでも会わせてくれないか?」俺は冷静になって聞いた。すると妖精たちの答えを聞く前にそれは現れた。
「ここに人の子が迷い込むとは....。コホン...。どうも初めまして。私は妖精たちを統べる者。妖精王オロイベン。」オロベインはそう言ってオロベインの顔辺りに集まる妖精達の頬を指で撫でる。
「さて、なぜあなたは既に死のうとしているのですか?」オロベインはそう言って俺の傍に寄ってくる。
「嫌気が差したからだ。俺自身がしてしまった事に追い詰められて、悲しくなったからだ。かつての友人さえも助けられないからだ。もう、嫌なんだよ。だからもうこの森の養分にでもしてくれ。」俺は自暴自棄に涙を堪えて言い放った。次の瞬間、自暴自棄に走った俺を包み込んだのはオロベインだった。
「人の子よ。私は悪の心を持たぬ人間には害意を加えない。今は安心して眠りなさい。」オロベインは塞ぎ込む俺を優しく包み込んだ。まるで赤子に戻ったようで、俺は安心していつの間にか寝てしまった。
宙に浮いている俺の隣には白く大きな雲がゆったりと流れている。
「ここは...。」俺がそう呟くと雲に呑み込まれる。冷たい空気の流れる空の風景に黒い悪雲が流れてくる。
「あれは、俺の罪悪感と自己嫌悪の塊だろう。俺はあの雲が怖い。とてつもなく。今はまだ、俺には耐えきれない。」俺はそう呟いて悪雲を避ける。こうやってまた俺は逃げるのかよ。そう考えながらも避ける自分の姿が滑稽に見えて仕方なかった。
俺が目を覚ますと、大きな葉のハンモックで俺は眠っていたようだった。そして、俺が起きると同時に声がした。
「あなたの剣は預かっています。念には念ですよ。」オロベインはそう言って近寄ってくる。
「俺では養分になれないのか?」俺はオロベインにそう聞いた。
「悪人でない限りそんな事は....。」
「じゃあ、俺がこの森を傷つければいいんだな?」俺はオロベインの言葉を遮りそう言った。それと同時にオロベインは俺に凶悪な視線を向ける。
「俺はもう生きてても辛いだけなんだ。お願いだ。俺をこの森の養分にでもしてくれよ。」俺は懇願した。しかし、オロベインは首を振って。
「あなたのような善人にそんな事は出来ません。」オロベインはそう言って俺の肩を掴む。俺は肩を掴むオロベインを押しのける。
「じゃあ、俺はこの森を崩壊させてやる。」俺はそう言って魔力を解放しだす。光が瞬き俺の周囲に光が飛び散る。光の飛び散った場所から火が立ち上り出す。しかし、俺のその破壊行動はオロベインの結界によって止められた。
「あなたは今から内なる自分と戦う事になるでしょう。必ず、帰ってきてください。」オロベインのその言葉を最後に俺の意識は空気中に舞った。
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