勇者と名乗る男と魔王と名乗るなにか
74話
しばらく王子を抱いていると王子は段々と震えが止まってきていた。それと同時に王子に眠気が襲われている様子だった。瞼が降りて来ていたからだ。私は無意識に王子の頭を撫でていた。するとそこに、使用人が現れる。
「何が....あったの.....です....か....?」使用人はジリジリと私の方へ近づいてきていた。
「ちょうど王子様の震えが止まってきたところです。」私は静かに答えた。それから使用人のベッドへ王子を起こさないようにゆっくり移動した。
「さて何があったのですか?」使用人は使用人の部屋から出たすぐドアのところで聞いてきた。
「突然王子が怯えたように震えていたのでとりあえずなだめていました。」私は見たままのことを言った。
「なぜ急に怯えるものが?」使用人は顎に手を添えて考えていた。
「そうだ。魔王が襲ってくるみたいな事を言っていた。」私は確信めいたように言った。
「魔王、ですか。あの存在は本だけのものでは無いんですか?」使用人は私を横目で見ながらそう言った。でも確かに私は嘘偽りなく言っているはずだ。そこに、王子の叫び声が響いた。
「こっちに来ないでくれ!お願いだ!お願い!やめてくれ!」王子の叫び声にすぐドアを開いて入った。さっきとは違い、黒いなにかが王子に近づこうとしていた。私は王子を背にして、仁王立ちをする。
「だれ?」私は黒いなにかに向かってそう言った。すると、黒いなにかは蠢きながら言葉を放ち出す。
「我はお前を殺す。勇者の血の入った貴様を殺す。そうすれば、我は最強無敵。歯向かうものなどいなくなる。」黒いなにかは王子の事を勇者だと言う。しかし、私の目にはとてもそうは見えなかった。
「待て、この子は勇者などでは無い。他人の空似だ。」私はそう言って一歩前に足を出した。
「その理由は根拠は...。」黒いなにかが、そう言った時、背後からとてつもないほど輝かしい光が部屋を包む。それと同時に黒いなにかは怯む。
「これは....!一体...!」私は目を腕で隠して、光を防ぐ。そして、背後から王子の声と他の人の声が混じった声が発せられた。発声源は王子だ。
「やぁ、君が魔王?弱そうだね。遠隔でも倒せそうだよ。この身体の子には悪いことしちゃったね。君が魔王と言うのであれば、まぁ、魔王を名乗る偽物を倒すんだからいい代償だよね。こっちは世界守ってるんだからね。ま、勇者だから仕方ないけど。」勇者と名乗る青少年の声。光の強さで勇者だということを思い知らされそうになる。光と言えばラフノも光を使う技が多かったな。じゃなくて、今は勇者と、偽物?魔王の方に集中しないと。私は自分の両頬を叩いた。
「勇者だと?そんなの信じれると思うか?」
「いやいや、信じなさいって。自分が死ぬのが怖いのかもしれないけどね。」
「怖くなんかないぞ。お前こそ偽なんじゃないか?我を殺せないのだから。」
「何言ってるの?君は死ぬよ。偽物。」そう勇者の声が響き、次の瞬間光は最高潮になる。
「消えなよ。偽物。」勇者はそう言って光は光と認識できないほど輝く。それと同時に黒いなにかは炭のように消えた。
「うん。負担をかけすぎたね。じゃあ。お暇しますね。」勇者はそう言って声はしなくなった。それから王子は膝から崩れ落ちる。疲れが溜まっているようだった。
「一体なにが...。」起き上がる使用人に、私は口を開く。
「わからないよ。」その一言で夕食の時間となった。
王子の夕食は使用人の部屋で食べることとなった。私はいつも通り食事場所にて夕食を済ませた。
あと1日王子のお世話をすれば解放だと安心しながらもどこか不安な気持ちが私を襲う。それは今日のような事がまたあると思うと不安で仕方なくなる。明日は朝早く起きて王子の様子を見に行こう。私はそう決めて、ベッドに寝込んだ。
誰かの声。誰かの泣き声が聞こえる。手を添える。私は夢の中の海に溺れる。口から大きな空気泡が溢れる。
「やあ、ここは記憶の海だ。君はどうしてここに来たの?って理由は一個しかないよね。君の正体でしょ?」水面を浮かぶ少年がそう言ってきた。私の考えていない事まで突如言われ、何事か分からない。私は応えようとしても答えられない。そして、私が話そうとしていることに気づいた少年は慌てて口を開く。
「やめなよ!ここで声が出たら君の身体は四散して、死んじゃうよ?」少年は手を前に突き出してそう言った。
「じゃなくて。君の正体。本名はエリスタ。未来を知ることの出来る能力を引き換えに衰弱してしまう能力。そして、君は一度“ 死にかけた”ね。死ぬ間際に時間を操る力を得るのは凄かったね。でも、この記憶は忘れているんだよね。それじゃあ今すぐ全てを思い出させてあげる。」少年はそう言って両手を広げた。それと同時に水面の下に少年と私は落ち、空気泡が口から溢れ出る。
どうでしたか?
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