力を知った
69話
久しぶりに現れた何も無い空間は次の瞬間緑に包まれた。そして、その緑は一瞬にして枯れ、死に逝った。
「これは...。死んだのか...。僕はまた殺してしまう。モンスターなんかでは無いかもしれない。他でもない人間を...。」僕はブツブツそう呟いて両手を震わせ目の動きと呼吸が荒くなる。久しぶりだからこその恐怖。人を切り捨てる恐怖。一時期、感傷的になって人を多く殺していた時期とは全くの別物。この力があったからここまで行きてこられたのもあるが、また人を殺してしまうと考えるだけで胸がはち切れそうになる。外的刺激などでは無い。内側で、罪悪感とまた訪れる怒りと恨みの数々が僕を襲いに来ると、そう思っただけで動向が激しくなる。痛みの感覚も薄れていたのではない。痛みに慣れていただけだ。そして、この1ヶ月の間僕は痛みを感じていない。それは攻撃を受けてなかったからだ。だから、さっきの攻撃で痛みがあった。今まで以上に僕は恵まれていた。目を開けたくない。目を覚ましたくない。そうだろ?またこの黒い影が僕を覗き込んでくる。そう考えただけで苦しい。それでもここまでやってこれたのはアストラスト。死人のお陰でもある。それでも、この枯れた地を前にして、僕はここから立ち上がる勇気がない。誰もいない。孤独感が僕の心臓を押し潰そうとしている。そんな時、脳裏に思い浮かんだのは、以前の仲間。ハル、ラフノ、ヤーズ。そして、この大陸で出会ったヤカナ。その4人が僕に立ち上がる勇気をくれる。仲間を助けるために、もう一度。
僕が蹲っていた体制から膝を地に付けて起き上がる。同時に枯れた大地が炭のように消える。そして、足の裏を地に着けた瞬間。辺りはまた緑に覆われる。
「そうだ。そうだろ。起き上がるんだよ。いつもそうやってきただろ。今更村に戻っても笑われるだけだ。僕は負けない。お願いだ。これで最後にしてくれよ。」僕が決意を胸に言葉を放った瞬間、世界を緑に満たした空間は消え失せた。そうした理由は簡単だ。僕が強くなる事で僕の力は衰える。ようやく、そうなるとわかったからだ。
そして、僕は目を覚ました。
目を覚ますとそこには血を全身から溢れさせたゴツタが倒れていた。
「どこからそんな力が出てくる!?」ゴツタはそう言いながらも僕をもう一度潰そうと試みていた。僕は無表情で黒の刀を生成した。しかし、その瞬間地面は沼のようになり僕の身体を埋め込んだ。
「殺してやる!」ゴツタはそう言って床を操りこちらに近づいてくる。僕はそのゴツタを見て笑う。僕は自分の持つ力をまだ最大限まで発揮出来ていないことに気づいたからだ。そして、僕はこの力を解放する事にした。
「残念だけど、床とか壁とか実は僕も動かせるんだよね。」僕はそう言って埋まった身体を上に上がらせた。そう。僕の持つ力は最大限には、まだ発揮出来ていない。僕はまだ強くなれるからだ。僕の力は僕が死ぬことによって相手に攻撃を与えれることだ。自身が弱ければ弱いほど与える力が上がる。そして、僕が強くなるにつれて敵は1度では倒れなくなった。そう。これは力を解放するチャンスだったんだ。僕の解放した力は死して攻撃を与えた場合。その殺してきた敵の能力を半分の力で使うことができるものだった。つまり、僕はゴツタの持つ魔法や能力を半分まで解放することが出来たのだ。
「ありえない!これは魔王様から授かった力だぞ!ふざけるな!こんなことがあってたまるか!」饒舌になったゴツタを僕は見下ろす。
「これで終わりだ。」僕は目を大きく開いてそう言う。
「アアァァァァア!あ....。」ゴツタは叫びながら僕の放った黒い稲妻の餌食となった。
「ふぅー....。」僕は大きくため息をついた。そのまま床に腰を着き、寝転がる。久しぶりに死んだ事による疲れなのか、戦いに勝てた事の安堵なのかどうかは自分自身でも分からない。ただ、その時は僕に一息つかせるような時間だと思った。
一息ついて落ち着いた頃に僕は動き出した。道は壁で埋められてどこが歩いてきた道か全く分からなかった。僕は適当に壁を選び、ゴツタの力で壁を操って進む事にした。
「ようやく壁が固定された...。なんだったんだろ...。」私は苦しそうにそう呟く。なぜ苦しいか。それは今私は壁に挟まれているからだ。太っている訳では無い。私の決して大きくはない胸は私を息苦しくさせる。私の背後は先程戦った場所があるが、この先の道は私では通れないとわかる。なぜならここで挟まっているから。私は無言で虚空を見つめる。
「どうすればいいの?待ってたらレイド来る?」私は淡い期待を滲ませながらそう呟いた。私はその後、ため息を幾つも吐き出す。
「とりあえず、後ろでもいいから抜けさせて欲しい。」私がそう言った瞬間の事。私が挟まっていた壁を、さっきまで私に向かって手を振っていたミノタウロスみたいな男が壊して、私を救出してくれた。私は呆気に取られて。
「あ、ありがと....。」私がそう言うと男はニッコリと笑った。
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