ドラゴンの記憶
60話
目の前に広がる景色に唖然とさせられる。白黒に塗りつぶされた光景に私は息が荒くなる。私は長年連れ添った弓に支配されてしまったことがわかる。そして、女王アクアルを...。
「私は女王様を殺しちゃったの...?」私はそう言って吐き気を催す。そこに少女が私の背中に手を添える。
「大丈夫...?見れそう...?」少女はそう言って水をコップに入れて渡してきた。私はその水を押しのけて口を開く。
「大丈夫。私のした事を自覚しなければならないのです。」私はそう言って再び宝石に触れた。
体が熱い。目が熱い。血の巡る速さがあからさまに速くなる。その瞬間脳内に誰かの記憶が巡る。
「お前を倒してやる!」元気のある少年が泣きながらそう言った。
「貴様など捻り潰してくれる。」ドスの効いた太い声がそう発言すると同時に一度大きな衝撃が少年を襲う。
「ぅ...。」少年は涙をこらえながら走り去っていった。
「あいついつまで来る気なんだ?勝てる筈もないのに。あいつがこの洞窟に来だして一か月。何がしたいんだ。」俺はそう呟くと体を丸めて眠りにつく。
翌朝。
「今日こそ倒してやるぞ!邪悪なドラゴンめ!」元気な少年はそう言って木でできた剣を俺に向けて言う。
「いいだろう。一度だけ受けて立ってやる。その代わり教えろ。なぜ貴様がここに来るのかを。」俺はそう言って立ち上がる。そして、雄たけびをあげる。
ガァァァァァァァ!
俺の雄たけびで少年は地面に尻餅を着く。それでもしばらくすると少年は立ち上がって勝ち目の戦いに挑む。
「うわあぁぁぁ!」少年は叫びながら俺の爪を攻撃する。もちろん痛みはない。俺は少し攻撃を受けた後、少年を転がすように攻撃して地面を思いっきり蹴りつける。すると、少年は怯む。俺はつならなそうにそれを続けた。少年が負けを認めるまで。
「約束通り貴様が毎日ここに来る理由を教えろ。」俺は顔をズイッと少年に近づけて聞いた。
「僕はお前に勝ってお母さんを救わなきゃいけないんだ!」威勢だけは強い少年はそう言って地面を叩く。
「なぜ俺を倒すとお前の母親が助かる?」俺は疑問に思った点を聞き返した。
「だって他の人がお母さんはドラゴンに囚われたって言ってたから。」少年は俯いてそう言った。
「貴様は村に必要とされていないのか。」俺は咄嗟に声を出した。憐れむように。
「そんな事ないよ!僕はお前を倒す事をずっと考えてる!」少年は意思が固いことを告げる。
「でもここには貴様の望んでいるものはない。俺を倒したところでお前の母親は帰ってこん。」俺はそう言って体を丸め出す。
「え....。」少年は俺の言葉を聞いて希望が失ったように目からも光を失う。俺はそれを見ているだけ。少年はしばらくしてから無言で村に帰っていった。
翌日。少年は来なくなった。
「まぁ当たり前か。ここにあいつの母方がいないとなれば、来る必要も無いからな。」俺はそう言って体を起こす。起こすと同時にあるものを見つけた。あの少年の木剣だ。俺は今日もキンキン声を溌剌に出してくるだろうから、その時木剣を返そうと思った。しかし、少年は来なかった。
気になって久々に外へ出てみる事にした。そして、初め見かけたのは人の手だ。
森の中からカラスの大群が同時に飛び立った。俺は気になってその方向に飛ぶ。カラスの大群が出た場所の上空から見下ろすと、そこには人間が何人か屯っていた。俺はそこの会話だけを聞くように耳を澄ます。すると、こんな話し声が聞こえた。
「どこに埋める。」
「ここら辺は別の村なんてないから放置でもいいかもしれないが。」
「それはダメだろう。動物やモンスターが人間の味を好きになれば村は襲われるぞ。」
俺は話す村人に目を凝らす。すると、まるでその場にいるかのような視点に変わり、衝撃なものを見た。そこには昨日まで洞窟に来ていた少年の亡骸だった。腕は一本なくし、足はあらぬ方へ向いている。首は逆転し、とても人が生きているとは思わなかった。俺はその光景を見て息を荒らげる。何十年ぶりかに来た人間に感情移入してしまっていたのだろうか。らしくない感情が全身を駆け巡る。
俺は羽を止め地上に降り立つ。地面は割れ、周りにいた村人はその衝撃で吹き飛ぶ。少年を庇うように降り立つと、後ろから少年の声が微かに聞こえる。
「...あ....りが...と...。....僕...は....も....う...生きら......れない...けど...楽しかったよ...。」少年は息が細くなり、後、最後の言葉だけハッキリと言った。俺は逃げた村人を森ごと燃やし、その村人の出身である村を全て壊滅させた。
俺は少年を洞窟の奥に埋め、俺はその少年を守るかのように眠った。それから3日後の事。俺は1人の冒険者によって、殺された。咄嗟に魂を骨に移し、生きる。そして、骨は削られ、1人の冒険者の手元に渡る。名は“ ヤーズ”。貴様が俺の移し身か。俺はそう心の中で呟いた。
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