疲れる
53話
確かに、レイドなら人を殺す算段など幾らでもある。でも、それでも、命懸けで鬼神の時も切り抜けたじゃないか。人を殺す事はいつでも出来ていたはずなのに、しなかった。だからと言ってこいつが言っている事が嘘な気もしない。
「ちょっと退けてくれるか?」俺はそう言って少女の足から開放される。あれ?すぐ抜けれたぞ?俺がそう疑問に思って少女を見ると、地面に倒れて寝ていた。
「今の内に遠くに逃げておくか。」俺はそう呟いて少女が指さしていた方向にもう一度足を進ませた。
空が曇っているせいだろうか。夜になっても分からない。それでも眠気は俺を襲った。恐らく今、夜なのだろう。俺はそう考えて地面に腰を着いた。そして、鞄を枕のように使い、俺はそのまま寝た。
体が浮く感覚。そこに声がする。
「人殺し。」「返せよ!」「どうして。」「呪ってやる。」「殺してやる。」数々の人影が口々に言う。怒りの声。恨みの声。俺はその声に耳を塞いだ。永遠と続く残響に俺は耳を塞ぐことしか出来ない。そこに1つの声が神々しく輝く。
「君は悪くない。」その一言で俺は1度心が救われる。誰だ?誰なんだ?レイドは人殺しなのか?俺は心で問いかける。すると、神々しく輝く声は首を振り。
「誰も悪くないよ。あいつは、レイドは止む終えなかったんだ。」その声はそう言って彼方に去っていった。
「これは本人に聞くしかない。そうだろ?」俺はそう言って天を見上げた。
目を覚ますと代わり映えのない景色が俺を迎えた。無意識に握る剣を俺は抜いた。剣に反射する自分の顔を凝視する。目の下にクマが出来ているのが見えた。
「しっかり眠ったはずなんだがな。」俺はそう呟きながら剣を仕舞った。
歩くのが面倒だと思ってしまう。それは代わり映えのない景色が続いているからだろう。そろそろ景色が変わっても良いのでないか?そんな議論を脳内で開きながら、気だるげに歩き出した。
ふと、ナイフを見ると魔法陣が張り巡らされていた。
「これは?」俺がそう呟いてナイフをマジマジと見る。そして、気づいたのは攻撃強化の魔法陣が何重にも掛けられていたことだ。
「これならあまり力を入れないで攻撃できそうだ。ただ、扱いには気をつけないとな。」俺はそう独り言を淡々と喋る。そんなことをしていると背後から気配を感じ取った。そして、俺の視線の先には見たくもない存在が立っていた。
「“ ヴァイル”か?」俺はその存在にそう聞いた。するとその存在は口を開く。
「久しぶりだな。ラフノ。もう10年ぶりじゃないか?」ヴァイルと思しき〈 モンスター〉はそう言って俺に近寄る。なぜ、モンスターなのか。それは2つ理由がある。まず1つ目に、ヴァイルという存在は8歳という歳で亡くなったこと。2つ目は、そのヴァイルが皮膚がアンデッドの様にただれていたからだ。
「待て。お前、モンスターになってるぞ。」俺がそう言うとヴァイルは微笑み。
「知ってるさ。オレは生き返るためにモンスターに感情を売ったからな。でも、ほら、今は生きてるだろ?」そう言って両手を大きく広げた。
「それは気休めでしかない。」俺は辛辣な言葉を発した。俺の放った言葉にヴァイルは目を大きく開いて。
「そんなはずは無い!現にお前と話せてるじゃないか!」そう訴えかけるように言い放った。
「話せてるからって生きている訳じゃない。お前は既に死に、ここでモンスターになっているだけだ。」俺は再び辛辣な言葉をぶつけた。この言葉は俺なりの優しさでもあるのだが、モンスター化の進んでいるヴァイルはその事にも気づけないだろう。
「オレがどれだけ今まで頑張ってきたと思っているんだ!オレと戦え!俺は生き返ったんだ!強くなってるはずだ!」ヴァイルはそう言って地面に突き刺さっていたボロボロに錆びた剣を抜き、剣先を俺に向けてきた。そして、剣を振り上げ、下に斬り下した。俺は後ろに避け、攻撃を回避した。俺の余裕に避ける様が癇に触ったのか、ヴァイルは歯ぎしりをする。
「変わらないな。子供の頃から、怒りに任せた単調な攻撃。せめて、俺がお前を永久に葬ってやる。」俺はそう言って剣を抜いた。続けて俺は話す。
「一撃で済ましてやるからな。」俺はそう言って剣に光を宿した。
「ふざけるなぁ!」ヴァイルはそう言って構えをとる俺に斬りかかってきた。そして、その直後。光は炎の様に揺れ動きだし、剣を横に振る。それと同時に俺は叫ぶ。
「光炎の剣!」俺がそう言い放つと同時にヴァイルは上半身と下半身が別々に別れる。声もなく地面に落ちたヴァイルの残骸は俺を憎く見ている様な気がした。
流石に魔力を使いすぎて体がだるい。ここで寝たいところだが、そうも言ってられない。目が霞む。足が軋む。腕が荒む。
「これはまずい....。」俺は薄れゆく意識下の中、言葉を発して倒れた。
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