悪足掻き
どうぞお楽しみください!
29話
今の僕は全て救える気がする。今なら。僕は氷針をハルに飛ばす。
「近づいてはいないからいいだろ?」僕は屁理屈を言った。そんな僕の言葉に鬼神は感情を露わにする。
「黙れ!」きつく言った鬼神は黒い稲妻を刀の形に具像化した。無数の黒い刀は僕の胸を突き刺した。しかし、
「僕は死なないよ?」僕は当然のように言った。鬼神は僕を睨みながら歯ぎしりをしていた。
その頃地面にいるラフノ達は、戦う姿を見ていた。
「俺たちが入れる瞬間なんかないな....」俺が言った。
「まるで私たちじゃ力にならそうにないです...」ヤーズはそう言って俯いた。そんなことを言っていると、後ろから声を掛けられた。
「お、お前らのせいで家が壊れちまっただろ!」黒い稲妻での予備被害の被害者だろうか?俺たちはその言葉を聞いて刀を構えた。
「あれは俺たちの仲間なんだ。許してくれないか?」俺は軽めに言った。しかし、その人は聞く耳を持たない。俺がそのまま聞き流しているとその人の後ろから異様な雰囲気を感じ取った。この雰囲気は何度も感じた事がある。そう、この雰囲気は殺気だ。刀を構えたまま雰囲気を観察しようと試みた最中、先程から騒いでいた人の腹から刀が飛び出た。
「あなた、様は....!“ イズモ”様....」その人はその名を言って倒れた。イズモという名前はこの町の名前でもある。それを意味するのはこのイズモという人が、この大陸の王...統治する人だということ。
「つまり、あんたが1番強いって事か....」俺は息を吐きながら言った。
「そう。だな。あの者がレイドか?まるで勇者だ....」イズモは宙を見上げて言った。そして、続けて話す。
「私はお前を止めようとはせん。ただ、これ以上に被害が出るのであれば処分する....。そう、決めたのでな」イズモはそう言って鞘に刀を納めた。
「やっぱり圧倒的に強い人の前では何もできません...」ヤーズは卑屈になって言った。
「今はハルが助かることを考えよう。被害になり得そうなものは全て壊すぞ...」俺はヤーズに言った。
「分かりました!」ヤーズの気合いが感じられる一言だった。
「どうして死なない!?」鬼神は慌てて言う。僕は微笑を浮かべて口を開く。
「それは僕が強いからだよ」僕は自分の胸に手を当てて言った。もちろん僕のその言葉に鬼神は頭に血を昇らせる。
「殺してやる!」鬼神がそう放った瞬間何も無い世界に鬼神が迷い込んだ。もちろん僕も何も無い世界に来る。
「ここは....」鬼神は戸惑っている。
「ここは僕が今までいた場所だよ。そして、まずは今までの攻撃をお返しするよ」僕はそう言って何も無い空間で倒れた。そして、無数の黒い刀が宙に舞い、鬼神の胸に突き刺さる。
「な、にがっ!?」鬼神は僕の攻撃に困惑しているようだ。
「君が今まで僕にしてきた事を僕は返しただけだよ」僕は当然のように言う。僕は強くなった。この一瞬の出来事で、僕が僕でないようだ。僕はハルを助ける。
「何をしても無駄だよ。いい加減ハルから出て行ってくれ」僕は声を低くして言った。僕の言葉に鬼神はニヤリと笑った。
「そうか、そうだよな?仲間が大切だよな?じゃあこの体を壊してやる!」鬼神はそう言うと体内に力を溜めだす。この世界では鬼神の体が見えるが、元の空間に戻ればハルの四肢は離散しているのだろう。でも今動くのは得策では無い。そう思って僕は鬼神をじっと見つめるだけ。
「仲間を助けたいんじゃないのか?」鬼神は僕にそう聞いた。僕はニコリと微笑み、口を開く。
「どうすることも出来そうになさそうだし....」僕の返答に鬼神は目を大きく見開いた。そして、鬼神の力はさらに凝縮され、その場で爆発するかと思いきや、僕にその力を放ってきた。
「僕はこれを待っていた!」僕の発言に鬼神は困惑を露わにする。そして、僕の勝ちだ。次の瞬間何も無い世界は彩りを覚え、辺りに草原が広がる。そして、僕は鬼神の攻撃を倍にして返した。
「な...に....?」鬼神は砕けた自分の体を見て首を傾げる。僕は鬼神の崩れていく姿を見るだけだった。草原に広がる空間は突如終わりを迎えた。
「何が起きた?」ラフノの言葉は困惑に満ちていた。
「何もしていないのに、鬼神が倒れた?」ヤーズがそう言った瞬間鬼神は下に落ちる。鬼神に乗っ取られたハルの体が心配になって、ラフノとヤーズは砂煙が上がった方へ走り出した。
僕は鬼神を倒した。しかし、倒したと同時に僕が使っていたみんなの能力が切れ、落下する。
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「ハル!大丈夫か?」刀を持った人が傷だらけの鬼神の体に呼びかける。
「こんなところで死んじゃだめですよ!」弓を持っている人が涙を流して言った。僕は起き上がる。体のあちこちが痛い。僕は足を引きずりながらも鬼神の体に近づく。すると、刀を持った人と弓を持った人が僕に敵意を向けてきた。
「近づかないでください!それ以上近づけば、あなたの首を飛ばします!」弓を持っている人の悲鳴のような怒りの声。
「少しでも動いてみろ。明日から光が見えないと思えよ....」刀を持った人は刀を僕の目の前に突きつけて言った。僕はそんな威嚇をものともせず進む。刀を持った人は僕が近づくと刀を引いた。僕は一歩また一歩進む。弓を持っている人の腕は震えていて僕の頭を吹きとばせそうな状況ではなかった。そして、僕は鬼神の体に近づいた。
「目を覚ましてくれ。そして聞いて欲しい。僕は君の事を知らない。いや、覚えていない。でも、それでも僕は言うよ。僕と会ってくれてありがとう。僕と旅をしてくれてありがとう。少しの間でも楽しかったよ。僕は君の事を覚えていない。でも感謝の気持ちはあるんだ。不思議だけどね。もしも、また会うことがあったらよろしくね...。最後に君の心臓を動かしておさらばするよ....」僕は不思議と思い浮かぶ感謝の気持ちを告げ、鬼神の胸に手を添える。そして、全身に電流を流した。それと同時に刀を持っている人と弓を持っている人は僕を狙う。しかし、その数秒後、鬼神の体は息を吹き返した。僕は目標もなく歩き出した。すると後ろから声をかけられた。
「待って!どうして一方的に言ってどこかに行こうとするんだ!こっちからも何か言わせろ!」鬼神の体は僕に言った。僕はその声に何かを感じた。懐かしい声だ。鬼神の体は僕に近づいて最終的に触れた。僕は硬直する。
「ありがとう....レイド....」鬼神の体ってだけの認識じゃない。そう。君は、いや、お前はハル...。僕は不思議と涙が溢れる。ハルは僕の両肩を掴んで自分と向き合うように方向を変えた。
「今回は特別だ...」ハルはそう言って僕の頭を自分の胸辺りに持っていき抱く。僕はそれと同時に地面に膝をつく。より涙が溢れた。何故かは分からない。でももう少しこのままがいい。そんな気がした。ハルは僕をハグしたまま頭を撫でてきた。僕の目に彩りが戻る。
あ、思い出した。お前たちはラフノとヤーズだったな。僕がそう思った瞬間ラフノとヤーズも泣き出した。恐らく鬼神の最後の足掻きで僕らを分裂させようとしていたのだろう。
「残念でした....」僕は鬼神にボソリと言った。
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