勇者というには
285話
「神は人間から転生したものなどでは無い。神は産まれ持ったものだ。生まれ落ちた瞬間から神は神。人は人。決まる」
「例え、貴様が神に等しいとしても、それは慢心だ。貴様の慢心が周囲にそう思わせている。それだけだ」人型の仮面は少年に目を向け、歩き、少年の仮面に触れる。
「こんな道化の顔など...!神は望んでなどいない...!」初めて人型の仮面は声を荒らげた。
「私は...道化...?」少年は丁寧な言葉にはせず、言葉が途切れる。
突如、少年の目から光がなくなり、全方位から歓声が上がる。しかし、歓声と言うにはあまりには遠いものであった。
「おい!玉乗りしろ!」「失敗しろ!」「ライオンに殺されてみなさいよ!」「なんで動かない!楽しませろ!お前は...」「「「道化師!!」」」
無理やりやらせようとする声に少年は耳を塞ぐ。
「この場、全てが私を嘲笑い、貶め、優越感と面白味を見出します...」
「私は記憶が無いというのに...どうしてですか...?」
「どうして蔑む目で見れるのですか...?どうして...」
「ここで考えるのも...無意味に思えます...。ですから...ここで、死んでください...。全員...」少年が口を動かし、左手で仮面に触れた瞬間。
先程までの罵声等が消え去り、コロッセオのような場所の中心に少年が1人、棒立ちとなる。
「教えてくれ...。私がここにいるのは何故か...誰でもいい。答えてくれ...はは...」少年は今までの丁寧な言葉遣いを捨て去り、笑いだした。
笑う顔は仮面に隠れて見えないが、憎しみのようなものが増幅しているような気がした。
「道化が...どうして...ここに...!」
「さぁ...なんでだろうな...」人型の仮面が手に力を入れて、少年の仮面ごと頭を押して、倒れさせようとしたが、少年が人型の仮面の腕を打ち、少年が人型の仮面に五指を触れさせた。
「道化だと、何が悪い?記憶が無いのに道化と言われる感情は...怒りか?困惑か?謎だ。ただ!今お前に向けるのは...怒りだ...」少年が言い終わると同時に手で少し押して、人型の仮面を遠くへと飛ばした。
「...グッ!」人型の仮面は飛ばされた身体を捩らせて、空中で体勢を直し、両足で地面を踏んだ。
「道化はそんなにダメか?否定されるだけなのは...気に入らないよな...」少年は己にへばりついている仮面を無理やり剥がそうと、手をかけた。
「栄養を全て吸い取ったと思ったか?」ソロの骨と皮膚が横たわる場所に無傷の状態でソロが現れた。
「さっきも言った通り、召喚獣を召喚し、戦っている。今お前が吸い取ったのは守護兵だ」ソロは淡々と自分の手の内を明かす。
「守護兵は何体だって召喚できる。聖剣の力は勇者の力を上げる他に、魔力の増幅もあるからさ」ソロは聖剣を左手に持ち、真横に縦に振り下ろした。
その瞬間、辺り一面の風景が揺れ動き、ソロの背後に立ち並ぶは、全て守護兵の鎧を纏った集団だった。
「この量を相手にするのは分が悪いはずだ...。だから、大人しく死んでくれ」ソロは剣を地面に突き刺し、両手を挙げた。その姿は勇者とは歪だった。
それは勇者なのにも関わらず、誇りというものが感じられなかったからだ。言葉と裏腹に行動は降参の形を身体で象っている。
しかし、森、自然は人が思っている以上に生きる力が強い。
「そんな言葉でこの森が消えることに耐えられるとでも思っているのか!」大木の周りの木々が同じ言葉を響かせた。
「そうだよな...そう言うと思ったから...既に手は打っている」ソロが言葉を放つと同時に全ての木が宙に浮くだけではなく、高さが桁違いだった。
上空に舞った大木は根を地面まで伸ばすことさえも出来ず、地面に激突するのを待つだけとなる。
「生きるなら生きたらいい。ただ、耐えられたらの話だ」ソロは広がる影を見てもう一度大木を更に上空へと突き上げた。
「空は永遠に続くと言われているらしい。だからさ、確かめに行ってよ!」ソロは不敵な笑みを浮かべて、笑い出した。口角を無駄に上げたのは大木を嘲笑うためだ。
「聖剣が...俺をまだ走らせようとしてる...。お前は悪だ...」ソロは言葉を放つと同時に剣を振りかざした。その瞬間、辺り一面に青い光が瞬いた。
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