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日常から非日常へ。  作者: 稲平 霜
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旅路④

276話




 「本当に読むのですね?」少年は今までの顔つきから想像できないほど真剣な顔つきになっていて、心做しか目が虚ろになっている気がした。


「そうだね、どんなに止めようとも、読むつもりだよ」 アストラストは薄らと笑みを浮かべた。


すると、少年はため息混じりに口を動かし出す。


「...分かりました。では、ここでお待ちください」少年は先程までの笑顔を無の表情にし、お辞儀をした後、本棚へと足を歩ませていく。


しばらく待つと、少年は両手でボロボロになった皮の表紙の本を持ってきた。


その本は今はまだ修繕されているから良い物の、修繕しなければすぐにでも紙がバラバラになりそうな、脆い本だった。


「こちらです」少年は本の表紙をアストラストに向けながら、両手で丁寧に渡してきた。


アストラストは本を手に持つと、アストラストの右辺りにあった円形のテーブルに本を置き、左手でめくり出した。




 ーー昔、ヘルスにはヘルスを護るゴーレムがいた。ゴーレムの背中には空のように澄んだ宝石が埋め込まれてあり、ゴーレムは異形のモノを追い返す時、宝石を真っ赤に染める。宝石はゴーレムの動力のようだった。


 しかし、ある日突然ゴーレムは消え去った。


それは、とある男がゴーレムの宝石を奪った事からである。


宝石を取った男の身体は忽ち肥大化し、身体の大きさと硬さはゴーレムそのものだった。


それから村人達はゴーレムの宝石を“ 罪人”に与え、善を通す善人のゴーレムとした。


 以来、ヘルスは平和に発展していったーー




 ヘルスにある言い伝え、伝承によれば、ヘルスはゴーレムによって繁栄したらしい。


 ”この伝承も”宝石が関連しているみたいだね。

 アストラストは心の中で言葉を放った。


 「ありがとう。読み終わったよ」アストラストは裏表紙を表にして閉じた。


すると、少年が唖然として口を震わせる。


「は、は早くないですか...?」少年は驚きながらもアストラストが渡してくる本を両手で受け取った。


「私の知りたいところは見れたからね。それで?」アストラストは薄ら笑みを見せ、手を腰に付け、少年から言葉を得ようと、言葉に問いを宿した。


「それで...って?なんでしょうか...?」少年の頭の上に疑問が浮き上がる。


少年はアストラストからの問いに、まるで分かっていないようで、アストラストは痺れを切らして口を動かす。


「私にその本を勧めなかった理由はなにかな?」アストラストは少年が持つ、伝承の本を指さした。


すると、少年が暗い顔つきとなり、視線を下に落とす。


「この本を勧めなかった理由は...この本を読んだ人がゴーレムに変わるからです」少年は言葉の途中に息を呑み、真剣な顔で言った。


「ゴーレムに変わる...。でも、伝承には宝石を罪人に与えると書いてあるのだけれど?」アストラストは自分に降りかかるであろう、ゴーレムになる運命に恐れること無く、伝承の文字を言葉にした。


「はい。確かにそうですが、伝承は別の言い方で言い伝え、途中に情報操作されたとしてもおかしくないのです...」少年は依然として俯いたまま顔をあげようとしない。


「わかった。じゃあ、私は今夜、ゴーレムに変わるんだね?」アストラストは淡々と少年に聞く。


その口調は恐れなどは一欠片も感じられず、アストラストは笑みを浮かべていた。



 図書館を出ると、目が光にやられた。太陽は既に真上に移動していて、昼ということが分かる。昼になるまで図書館にいたとも考えにくい。


何より、雪が少し溶けて、地面が太陽の光で輝く。そして、足元が揺らぐ事となる。滑りやすい地面に警戒しながら歩き始める。


「さて、あの少年が言ったことが正しければ、私は今夜、または今、または1週間、もしかすると1年...後にゴーレムになるのだろうね...」アストラストは顎を触りつつ、眉をひそめた。自然と吐かれていた白い息は無くなり、ほんのり暖かい息となっていた。



 何も考えず、ただ歩いていると、ヘルスの入口にまで到達していた。


無意識に帰ろうとしていた訳では無いはず、とアストラストは自分に言い聞かせる。


「あ、あそこ」アストラストは無意識に声を出した。声の指し示した場所は椅子はないが、立って手元の作業をするなら打って付けのテーブルのような所だった。


アストラストはそのテーブルまで歩き、昨日書き始めた日記紛いの紙を取り出し、羽根ペンを取り出し、また文字を書き綴る。



『もしかすると、今日私はゴーレムになるかもしれない。ゴーレムになれば、昨日書き始めたこの手記も意味が無くなりそうだ。さて、今から私は次の伝承を探る旅に出ようと思う。この手記が途切れた時が....』



 まさかだった。アストラストの身体は肥大化し、周辺に血を撒き散らしながら自分の身体に異変が起きた事を悟る。一瞬のことでよくわからなかった。





 「待て。それだとお前、アストラスト死んでないか?」アストラストの手記を読みながら、アストラストの話を聞いていた僕はアストラストの言葉を途切らせた。


すると、アストラストは口を動かす。

「せっかちだね?もう少しめくってご覧よ」

どうでしたでしょうか?

面白く読めたのなら幸いです!

次回も読んでいただけると嬉しく思います!


ついでに感想や評価もしていただけると活力になります!

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