旅路②
274話
「今はおじいちゃんと話してるの!ただの旅人はそこの椅子に掛けてある毛布でも被って温まっててよ!」老人の孫はアストラストに向けて親切心のある言葉を言った。
アストラストはその言葉通りに毛布を手に取り、膝に掛けながら椅子に座った。
すると、老人の孫はもう一度声を荒げる。
「おじいちゃんがそうやってすぐ女の人を連れ込むからおばあちゃんがいなくなったんだよ!?分かってるの!?」老人の孫は正座する老人に指を刺しながら言い、一瞬アストラストを見た。
「わ、わかってます...」老人は弱々しい声と同時に少し怯えている声を出し、よく見ると手が震えていた。
それ程怖いのか、それとも、年老いているからか、どちらか見分けるのは難しい。
「だったら、反省してよ!反省してくれないとおばあちゃんも帰ってきてくれないよ!?」老人の孫は老人を叱りつつも何か思いやりがあるように感じた。
「反省はしとるつもりです...」
「でも反省してないでしょ!」老人の言葉に老人の孫は強く言い返した。そこで老人は口を噤み、それから会話はなかった。
「すみません旅人さん。言葉が悪くなってしまいました。おじいちゃんがすみません...」老人の孫は荒げていた声を嘘のかの様に控えめにして、アストラストに向けてお辞儀をした。
アストラストは手をひらひらと動かした。
「別に平気ですよ。それと私は男ですよ」アストラストは付け加えるように性別を言い、微笑んだ。
「折角だし良ければ食べて行きませんか?旅人さん。おじいちゃんもいじけてないで行くよ!」老人の孫はアストラストの性別を明かしたことをなかった事にし、旅人のアストラストには優しく、老人には怒声を上げた。
「そのご厚意、受けさせていただきましょうか」アストラストはまるで王に仕えていた時の様に謙譲語で答えた。
老人の孫に案内された場所は暖炉の横のドアを開いたところで、そこはテーブルが一つあり、椅子がテーブルを囲うように4つ並んでいた。
老人の孫はおぼんを手に取るなり、テーブルにおぼんを置いた。
その瞬間、おぼんに丸っこいパンに肉が挟まれた食べ物が現れた。その食べ物からは湯気が出ていて、不思議でしょうがなかった。
「これは...なんという料理ですか?」アストラストは椅子に座りつつ、料理を前にする。
「これは...んー、そうですね、肉ばさみって言う料理ですかね...」絶妙にネーミングセンスのない料理名に苦笑いしながらアストラストはおぼんに手を掛ける。
「では頂きますね?」アストラストが言うと、老人の孫が手を動かした。それを合図にアストラストが料理を素手で持ち、上品に小さく齧る。口の中で肉が溶け、パンに絡まり、舌に刺激を感じた。
一言で表すにはこれで十分だ。
「美味しい...」アストラストは片手に料理を持ち、手を口に添える。それを見た老人の孫は笑顔を浮かべた。
食べ終えると、アストラストは外への扉の前に立っていた。
「そろそろ行かせてもらいますね。長居も悪いしね」アストラストに敬語はなく老人の孫と砕けている関係となっていた。しかし、老人の孫からは敬語は抜けていない。
「行ってしまうんですね?泊まっていけばいいのに」老人の孫は俯いたまま言った。アストラストは小さく頭を下げ、ドアを開いた。
そこでアストラストは気づいた。泊まる場所探していたんだ、と...
歩きながら考えた時、ちょうど宿屋を見つけた。食事はしたから宿屋に泊まるだけのお金でいい。
宿屋の扉を開くと暖かい空気が体中にほとばしった。アストラストは宿屋に入るなり、扉をすぐに閉め、目線の先にカウンターがあった。
カウンターの少し奥にはお酒が並んでいて、バーと兼用の様な気がした。それに周囲も見れば、テーブルに座り、お酒を飲みながら話している人もいた。
アストラストはカウンターまで行き、宿主らしい人に声をかける。
「一日泊まりたいのだけれどさ、空いているかな?」アストラストが聞くと宿主らしい人が左に指指した。アストラストは指さされた方へと移動し、指された部屋のドアを開いた。
ドアを手前に上から部屋を見るとすれば、左上にベッド、右上に机と椅子があり、その間の壁に窓が付いているが、今は木の板で塞がれている。
開けることもできるようだが、外は雪が降っていて寒い風景をわざわざ見ようとも思わないため開けることはない。
「今日はここで休んでしまおうかな。明日はこの町で伝承があるかどうかを聞いてみようか」アストラストは自分自身に言い聞かせるように呟き、そのまま眠りに落ちた。
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