必要ない
271話
「虫がいなくなったわ!爽快かしら!虫の音が全く聞こえないわ!はは!あははははは!」女が少年を粉微塵にして笑う。
女は足に飛び散っている少年の血を手でなぞり、手のひらに血をべっとりと付け、舌で血の付いた手のひらを舐めた。
「あれ?あれれ?スッキリしたのに...なんで、涙があふれてくるの?」女は初めて冷静となり、疑問がざわめきだした。
「返して...返してよ!」背後から聞こえた声に女は耳を塞ぎながら振り向いた。その瞬間世界が曖昧にぼやけ、一つの炎が揺らめいていた。炎は話すと同時に揺れ動く。
「あんたは誰?私の邪魔をするなら...」女は口を動かしながら頬を痙攣させ、無理に笑いつつプラズマを手に発生させた。
「私はヤーズ。その体の持ち主よ。そして、そのプラズマのチカラも私の物...。人に危害を加えるあなたには私の力はもう使わせない!」ヤーズと名乗る炎が揺れ動く。
女はその炎の光を目に映し歯ぎしりをして、手のひらに出していたプラズマをヤーズという炎にぶつけた。
しかし、炎にプラズマが触れた瞬間突風が吹き荒れ、女の肌に複数の切り傷が入る。
「あぁ!また痒いわぁ!」女は唐突に叫びだし、切り傷を掻きむしりだした。案の定、切り傷の深さが広がり、血があふれ出す。女の目には狂気が満ちていた。
その間、炎が徐々に弱まっていく。
「消えるのよ!」女は叫びながら腕に纏わりつくようについている血を腕を激しく動かして、炎に飛ばして、炎を消そうとする。
しかし、炎は弱まることを知らず、一定の火力を保っている。炎の大きさは決して大きいものではないが、しぶといものであった。
「そうよ!私には合わなきゃならない人がいるのよ!ここでじっとしているわけにはいかないの!」女は傷だらけの腕を地面に触れる程下げ、頬を赤らめながら笑い、走り出した。
走り出したところは灰の像が立ち並んでいて、変わり映えのない色が広がっていた。
走り出してから時間が経ち、島の端まで来ると、女は海に飛び降りるように跳び、海面に触れる寸前で女は身体を水平にし、飛び上がる。
「きっといるはずよ!あの木の下で待ってくれているに違いないわ!」女は嬉しそうな声と表情で叫び、北へと向かって行く。北へと向かう度、女は頬を赤らめていく。
その時、女は窓に張り付いたように止められ、滞空する。
「何よ!これ!邪魔するなら!」女が叫ぶ。それにかき消されるように指が鳴った。その瞬間女の口は開かなくなり、口を押える。
「私は...あなたとお話ししたいだけですよ...」女の目の前に現れたのは道化師だった。
「落ち着いて話すにはあなたは乗らないでしょう...?ですから...まず私が一方的に話させてもらいます...」道化師は仮面をクイッ...と少し上にあげて言った。
「私は...世間体では闘技場の管理人です...。でも、一部の人からは...道化師...そう言われることが多いのです...」道化師が仮面の下で不敵な笑みを作ると、女は、それがどうした、と言わんばかりの顔になる。
「自己紹介はここらあたりにしましょう...私は今日、あなたを閉じ込めに来ました...」道化師が言った瞬間女が道化師を更に睨む。
「あなたはこの時代には必要ありません...。その身体の持ち主もかわいそうですね...あなたという災いに襲われたのですから...」道化師が口を動かすにつれ、女は目の前のガラスのようなものに傷だらけの腕で壊そうと試みる。
「そろそろ話させてあげましょう...」道化師が言葉を放った瞬間に女の言葉が飛び交う。
「退けなさいよ!邪魔ものは私が!死んでしまえばいい!退けなさい!」女は唾を目の前に飛ばしながら、みじめに叫ぶ。
「五月蠅いですよ...」道化師が口を動かした瞬間女は黙った。
「あなたは...この世界には必要ありませんね...」道化師は指を鳴らし、目の前にいたはずの女は一瞬消え、すぐにその場に戻り、海に頭から落ちた。
海水が周囲に飛ばし、空気が上に上がっていく。
白い髪が水で揺れ動き、小さな口からは空気があふれ出している。瞳は開く様子もなく、冷たく閉じている。血が周辺に散らばり、立派なヒレを持った魚に白い髪の女は飲み込まれた。
僕は目の前の巨大虫をどう対処するか、最後の手段は道化師の力を使うことだった。虫が丸まっている今が考える時間だ。しかし、今までの力ではどうもできない。それは分かっている。
今、ここで道化師の力を使った後、激痛に耐えてここに戻れるか、それとも耐えられずにそのまま死ぬか、後はもう道化師の力を最大まで使って一気に終わらせるか。
今僕は選ばなくてはならない。
この後に僕は仲間の安否も確認しなくちゃならないんだ...ここで世界を終わらせるわけにはいかない...
どうでしたでしょうか?
面白く読めたのなら幸いです!
次回も読んでいただけると嬉しく思います!
ついでに感想や評価もしていただけると活力になります!