良かった
270話
俺は剣を豹変したヤーズの胸に突き刺した。その瞬間ヤーズの身体は命のないただの肉塊の様に垂れるように倒れてくる。
自然と涙が溢れてきていた。剣にもたれ掛かって来る人肌が気味が悪い。ラフノは目の前の光景で剣を離し、口を塞ぐ。
目の前でヤーズが死んでいる。俺は手のひらに広がる赤い血を見て、吐き気を催す。
「今まで何回も見てきたじゃないか...この程度で...ッ」顔の下あたり、腹部が熱くなった。俺はゆっくりと、腹部を見た。そこはヤーズの細い腕が入っていて、腕をぐるぐると回していた。
俺は不思議だった。剣でヤーズを殺したのにも関わらず、動いているのだから。
「どう...して...?」掠れつつも、潰れて、裏返りそうな声で俺はヤーズに問いかけた。すると、腹部に突っ込んできているヤーズの手が微かに震えた。
「...ふふ...。あ。あはははは!」ヤーズの高い笑い声が延々と続く。
しかし、その笑いは唐突に終わりを迎え、言葉が放たれる。
「私には合わなきゃならない人がいるのよ!あんたみたいな虫をざわめかせる人間は死んでしまえばいい!」ヤーズは満面の笑みで俺の腹を抉り取った。
俺は赤黒い靄で腹部に空いた風穴に集結させ、空いた風穴を元に修繕した。
「俺だって...もう一度会わなきゃならない人がいるんだ...」俺はヤーズを睨みつつ、剣を向けるが、すぐに剣を下げ、剣を持つもう一方の手でヤーズの腕を掴み、続けて声を続かせる。
「それは...お前だ!ヤーズ!」俺がヤーズの目の前で叫んだ瞬間ヤーズが俺の腕を振り解き、頭を掻きだした。そして、顔を歪ませ、ヤーズの左手が俺の胸部に触れた。
その瞬間、俺は風を切って飛んでいく。俺は空中で多数の光剣に闇を纏った剣を出現させ、ヤーズに飛ばす。ヤーズは造作もなく生身の手で跳ね飛ばして、空中を蹴った。
そして、俺の目の前にヤーズが移動してきた。
「誰の名前か知らないわ!私はただ目の前にいる者を壊すだけよ!」ヤーズはそう言って俺の腹部を下に蹴り、俺の身体は真下へと直行する。
俺は受け身を取りつつ、次の行動を考えるが、真上からヤーズが落ちてきていた。俺は身体を転がし、服がかすれつつも、避けた。
避けたはいいが、地面が円状に割れ突風が吹き荒れ、俺は吹き飛ばされた。俺は身体を捩って何とか体勢を立て直した。
しかし、ヤーズの膝が俺の顔に当たり、衝撃が走り、視界が揺らいだ。
「消えるのよ!」ヤーズが俺に馬乗りになり、プラズマを蓄積していた。俺は辺り一帯に剣を出現させ、右に集め、右から左にかけて無数の剣をヤーズの身体に突き刺し、その勢いのままヤーズの身体を飛ばして、俺は身体の自由を得る。
「消えるのはお前だ!」俺は歪な左手で剣を握った。その瞬間身体が赤黒色に包まれ、角が二本となる。そして、辺り一帯がまるで時が止まったかのように白黒となった。
白黒の世界でヤーズの身体の動きが止まり、俺だけが動ける世界となっていた。
「ハルに続き、ヤーズまで...失うには惜しい仲間だった。
でも、多分ヤーズなら殺してほしいって言う、だろ?」俺は言葉を放った瞬間左手を振った。
その瞬間ヤーズの上半身と下半身が分裂して、イカ墨のようなものが広がった。
「これで、終わり...か」
「私は...壊す!痒いわ!あぁ!あぁぁあっぁぁぁ!」悲鳴に近い声が白黒の世界で瞬き、分裂したはずのヤーズの身体は元に戻っていて、ヤーズが首元を掻きむしりだす。
そして、血が首元からあふれ出した瞬間白黒の世界が晴れ、自分の足が目の前に落ち、燃えるように消えた。
視界が傾き、目の前に見えたのはヤーズの笑顔だった。
「もうどうしようもないわね!」その言葉に俺は微笑み、叫んだ。
「うおおぉぉぉあぁぁぁ!」俺が叫ぶと同時に腹部辺りに光と闇があつまり、光の下半身が出来、闇がもう一度俺の全身を包み隠した。
口から垂れる血と、手のひらに付いた血。既に実体のない下半身。限りなく死に近いものだ。
「俺はお前を殺す...」俺は闇と光を交差させた身体でヤーズの周辺を俊敏に動き、ヤーズの背後に来た瞬間、ヤーズの腹を剣で貫いた。
その瞬間俺は下半身を失い、ヤーズに剣を刺したまま、剣を持つ腕で上半身だけぶら下がっている状態となる。上半身から流れ出る血が体温を持ち去っていく。
未練が多い。今の俺ではヤーズを殺すことさえままならない。息が出来なくなってくる。視界が狭まって来る。まだ死にたくない。まだ未練が、ある。何も考えられない。まだ生きていたいのに身体が生きることをあきらめていく。
―――でも、最後戦ったのがヤーズで”良かったよ”。
女はゆっくり自分を貫いている剣を抜き、剣を握り続けているラフノを地面に叩きつけた。
「今までありが...ッ」ラフノの言葉は女の足で頭を潰されることにより、中断された。
「あぁ...すっきりしたわ...」女は空を見上げながら言った。その女はなぜか涙を流していた。
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