白のリザードマン
261話
宿屋を貸し切り状態にした。条件は俺を傷つけないことと、この宿屋の貸し切り兼物置だ。リザードマンは人間が怖いのだろうか?いや、少なくとも襲ってきていた所を見ると、怖がってはいなかった。
「一度体を休めるか...」俺はそのままベッドに身体を投げ、眠りについた。
曖昧な世界が視界に広がる。
「これは...なんだ?」俺が呟くとそこはあらゆる文字や、囁き、呪文が聞こえた。呪文は古い魔法によくある特徴だ。
つまり、今俺が見ているのは古くから伝わっている伝承のようなものだ。
「こ...に...んじゃ...ない...!」途切れて、聞き取れない言葉が耳元で叫ばれた。叫ばれたことにより、耳が痛くなり、俺は反射で頭をその場からどかした。
「今のは...」俺の放った言葉がやまびこの様に繰り返される。それが耳元にまで伝わり、五月蠅い音が鳴り響く。俺は両耳を塞ぎ、目を細め、歯ぎしりをする。煩わしい音が消えてくれなかった。
その時、世界が静まり返った。俺は周囲を見渡すが、全てがぼやけていて何も見えない。そこに声が聞こえる。
「私たちは悪魔が祖先の人間だ。そのせいで差別を受けることが多くて困っていたよ。でもね...一番悪魔なのはお前らだ...!」初めは緩やかに穏やかに、最後には本性を現したように叫んだ。
「それは...知ってるよ」俺は動揺せず言葉を返した。
その瞬間、世界は瞬きをするように消えた。
不思議な夢だった。俺は天井の暗がりを見ながら思っていた。窓から差し込む月明かりが俺の顔を反射して、輝く。
その時だった。ベッドの影から人影が勢いよく現れ、俺に槍を右手で逆手に持ち、突き刺そうとしていた。俺は剣を取り出す前に辺り一面に剣を出現させ、人影の肩を突き刺し、壁まで突き刺し、動けなくする。
「ぁあぁぁぁ...」呻き声が聞こえる。謎の声に俺は剣を光らせ、部屋を明るくする。火を使うより効率がいいからだ。
「お前はリザードマンだな。来るとは思っていたが、起きたときを狙ったのは無謀だと思わなかったのか?」俺の問いにリザードマンは応える気はないようだった。というより、それどころではないと言っても同じ気がした。
そっぽ向いてリザードマンは口を歪ませる。痛みを我慢しているのだろう。この状況であれば助けを呼ぶ方が最善だと思うが、なぜしないのかわからない。
「何も答える気はないみたいだな。じゃあ、死ぬか?」俺が剣をベッドの横から取り出し、壁に吊るされているリザードマンの目に極限まで近づけて言い放った。
すると、リザードマンは喉を鳴らし、汗を地割れの様になった皮膚に沿って流す。
「答えは五秒待つ。それまでに言ってみろ」俺は気だるげに言った。
5...4...3...2...
「た、頼まれたんだ...」リザードマンは躊躇いながらも口を開いた。後一秒遅ければ殺そうと思っていたのだが、その必要もないみたいだ。
「誰に?」俺が少し食い気味に聞くと、リザードマンは足もと辺りを見た後、首を動かした。俺は耳をリザードマンに近づけた。
「...スノードン...だ。別のリザードマンと違って白い皮膚に身を纏ったリザードマンだ...」
「そうか。お前が言ったことは内緒にしておこう。解放もしてやる」俺はリザードマンの肩に突き刺さった剣を消して、リザードマンは肩を抑えながら、部屋をゆっくり出て行った。
「明日の朝から少し面倒なことになりそうだな」俺は改めて月明かりを見た。
朝一に俺はソドンの所に行った。
「昨晩俺は白いリザードマンに襲われたんだ。そのリザードマンはいるか?」俺は穏やかに言った。すると、ソドンは頭を抱える。
「それは...牢にいるリザードマンでしょう...」俺はソドンの言葉で目を大きく開く。牢では俺を殺せないから刺客でも送ったのか?
「だが、確かに見たんだ」俺はあくまで白いリザードマンに襲われたことにする。そのたび、ソドンは頭を抱える。
「そうは言いましても、リザードマンはそんな特別な力を得れる前例は...」ソドンもまた引き下がらない。種族の存続を優先するならここで折れたほうがいいと思う。しかし、ソドンは折れやしない。
「そうか。でも、俺は襲われた。だから、ここを壊そうと思う」俺はそう言いながら剣を鞘から取り出そうとした。その瞬間、背後から槍が突きつけられた。少しでも動くそぶりを見せれば殺されそうだ。
「それが答えなら、俺は脅しの言葉じゃなく本当に壊すぞ?止めるなら今の内じゃないか?」俺が後ろを振り返らず言うと、槍が元の定位置に戻る。
「俺も心がないわけじゃない。直ぐに直ぐに壊さない。...一度、その白いリザードマンに会わせてくれないか?」俺は草臥れような声で言った。
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