変革した世界
254話
ラナが声を荒げた後、僕らはシン...と静まり返った。
「声を荒げて悪かったね。君たちの言う通り、もういいよ。じゃあね」ラナは最後にそう言い残し、気付けばそこは、僕らの住む世界だった。今回ばかりはハルが生き返る訳もなく。緑が美しい世界に帰ってきてしまった。
「なぁ、このまま冒険を続けるか?僕はもう、冒険したくなくなってきた...」僕はあからさまに落ち込み、頭が下に落ちて行く。
「それって、解散ってこと?」ヤーズが横目で僕に目配せして来た。僕は静かに頷き、どこかもわからない方向へと進みだした。
「それでいいのか?」ラフノの背後からの声で僕は一瞬引き留められる。
「このまま虫に蝕まれてこの世が終わるかも知れないのに...それでいいのか?」ラフノが朝日に照らされ、目が輝く。
「実際、この地面は虫に壊されてない。もしかすると、ラナは嘘をついていたかもしれない...」僕は俯いたまま目から光が抜けていく。
「じゃあ何のためにラナは私たちを呼んだの?」僕のラナへの疑問にヤーズが口をはさんだ。僕は一度沈黙し、息を吐く。
「僕はもう...失うのは嫌なんだ」僕は静かに言った突如のことだった。空に激風が吹き荒れた。
空をゆっくり見るとそこには目を疑う光景が広がっていた。
空には山の様に巨大なカメが泳いでいた。他にも魚の大群や大型の魚が泳いでいて、さらにドラゴンが鮮やかな色を輝かせて飛んでいた。
「どうなってるんだ...」僕は再度静かに言った。
そして、次は地面に衝撃が来た。地面が僕を巻き込みながら、割れ、足もとが斜めに傾いていく。
そこには巨大なクジラが泳いでいて、その象徴に尻尾が打ち上げられた。僕は即座にその場から跳んで避ける。
「これが虫の影響か?」ラフノはそう言いながら剣に手を添える。その光景を見て僕の脳内にハルの姿がフラッシュバックする。
初めて会った時、ただ押しに弱い女戦士だと思っていた。闘技場で会って初めて、たった二か月続いた初めての仲間だ。それまでに僕は人を殺し、蔑まれた。
僕のことなんてどうでもいい。ハルは僕にとって掛け替えのない仲間だった。
村を出てクネゴボという町で盗賊に襲われた時、僕はアスファルまで応援を呼んだらしい。僕にはその記憶がない。
なんだ。僕はもしかして、僕が自覚してない能力がある。そう思う。なら、自覚してない能力でハルを生き返らせられるのでは!?
希望が芽生えた。だから...
グサ...ッ!
僕は久しく腰に装備していたナイフを取り出し、心臓に突き刺した。
「何してるんだ!レイド!」ラフノが怒りを露わにした。僕の視界と聴覚がプツン...と切れた。
「レイド!平気か?」ラフノが僕にそう呼びかけていた。空が見慣れない景色になっていた。色は真っ赤で太陽が視界の中央にあった。
僕はラフノの言葉を無視し、体を起こして、それに合わせて直立まで持ってくる。
「何があった?」僕は自分の頭を抱えて言った。
その瞬間背後から平手打ちが飛んできた。後ろを振り向くとヤーズが泣いていた。
「失うのが嫌なのは私たちも一緒なのに、勝手に死なないでよ!」ヤーズの声には悲しみの感情が含まれていて、声が震えていた。僕はヤーズの言葉で心を揺さぶられる。
刺したはずの心臓は傷一つなかった。僕の能力が無意識に作動したのかもしれない。
「分かった。死のうとするのは止めておくよ」僕は一言言って変わり果てた景色を見ていた。
「レイドが放棄した。レイドにはXXがないのかな?でも冒険者になるXXはあった。でも、これでは何か違ったのかな?」ラナが顎辺りに触れながら目を自然と下に向ける。その時、図書館中に声が響いた。
「あなたがここの司書ですか...?」
「その声はレイドによく口を挟んでた道化師だね?」ラナは謎に聞こえた声に動揺せず言った。すると、道化師が姿を現す。
「バレていましたか...でも、私がどうしてここに入れたか疑問ではありませんか?」道化師が仮面の中で微笑みながら言った。
「レイドにある”司書の権利”。”恩恵”とも言うけど、それを奪ったんだね?」ラナは見透かした目で道化師を見る。すると道化師は拍手を始めた。
「お見事ですね...しかし、それではまるで私が悪役ですね...。せめてこう言って欲しいものです...。頂いたと、ね...」道化師は仮面の下で不敵に微笑んだ。
「でもそれは言葉巧みにレイドを操って、受け取った恩恵だよね。奪ったことと同じじゃないかな?」ラナは道化師の見えない目に訴えかける。
「どうとしても、私を悪に仕立て上げたいようですが...あなたは間違ってますね...」道化師は微笑む顔を元には戻さない。そのまま道化師は続けて言葉を放つ。
「私は昔から道化師ですよ...いつも誰かに笑われる存在...。私はとある方をここに招いただけ...私はそれをすることで、私の利益が手に入る...」道化師はラナを睨み、微笑んでいた顔が一瞬にして暗くなる。
その瞬間図書館の上から女性の声が聞こえる。
「ラナ...忘れたとは言わせないわよ?」女性はラナに向けて言い、ラナの顎を掴んで少し引いた。
「そうですか。それは僕の不都合でした...。僕のたった一人の師、マリアスド様」ラナは女性に向かって睨みながら言った。
どうでしたでしょうか?
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