謎の時
251話
この風景が旧世界。生きにくそうで僕はつい、服の胸元を摘まみ、口を歪ませた。
「我にとってはこの世界は好かん。走るたびに爪が鳴るは、気温で冷たくなるし、熱くもなる。我の足にとっては不快感しかないのでな」犬の仮面は喉を鳴らしながら身体を起こし、僕の身体から離れてから言った。
「好くか好かないかの問題ではない。これが嘘か本当かの問題だ」人型の仮面は犬の仮面に向かって、自分の意見を言った。
「...で?僕に何が言いたいんだ?」僕は一人と一匹...改め二人に向かって聞いた。すると、即座に人型の仮面が口を開く。
「貴様はまだここに来るべきではないってことだ」その一言を聞いた瞬間僕は意識が遠のいた。
「レイドはどうして契約した?」ハルはレイドが空に打ち上げられてから、呟いていた。
「ラフノ...これまで何があったの?」ヤーズは能天気に言った。
すると、ハルはヤーズを睨んだ。
「ヤーズ、お前は今まで二重人格になってたんだ。って言ってもほんの少しの間だが...。それをレイドがこの物語の中の契約を交わし、お前を治した。これが大まかな出来事だ」ラフノは淡々と言った。
「...ハル?」ヤーズは口を動かしながら手をハルの方へと持っていく。すると、ハルは立ち上がって、口を開く。
「物語の摂理か何か知らない。レイドを返せ!」ハルは空に向かって怒号をぶつけると同時に黒の斬撃を飛ばした。その威力は絶大で、自然と突風が吹き荒れた。
しかし、何かが起きる筈もなく、ハルはもう一度膝を着いた。その突如のことだった。背後から声がする。
「帰還したぞ?」ハルはその声に顔を向ける。その瞬間ハルは走り出し、抱き着く。それはレイドだった。
「僕も記憶はあやふやだ。でも、なんか帰って来れた」僕にも理解が出来ていなかった。空と契約して空に打ち上げられたが、すぐに戻されたって感じだ。
何か忘れている気がするが、あまり重要な気がしないから言うほどのものでもないだろう。
「それは良かった!またレイドがいなくなるのかと思ったぞ!」ハルは僕を抱きしめたまま叫ぶ。そこで僕は無理にハルを引きはがしながら口を動かす。
「まだ気が抜けない。この物語の虫が排除できたのならラナが引き戻してくれるはずだ。
なら、まだここに虫がいるってことだろ?」僕はボロボロになった階段と鳥居を見つめて言った。
その瞬間、唯一無傷で残っている神社の社の戸から誰かが出てきた。
「ワワワワワワ...ッギィ!」言語を話さぬ人間の格好は着物の様なものだった。
僕が観察していると、着物の人間は僕に飛びついてきた。
それはまるで突風のようで、速さは見切れないものだった。今までもそのような移動をする人、敵は見てきた。
そして、この突風さえも凌ぐのはラフノだ。僕がその考えに行きつくと同時に風が吹き荒れ、目の前に血しぶきが舞った。
その中にはラフノが剣を構えていた。
「やぁ、終わったみたいだね」目の前にラナが浮いていた。そこは見慣れた場所。図書館だった。
「ヤーズは治ったし虫がいたし、十分な成果だろ?しかも、経った時間はそこまでかかってないだろ?」僕はラナに言った。するとラナは頷き、言葉を紡ぐ。
「確かに掛かった時間は1時間弱だね。本来はヤーズの解約だけだけど、虫がいたのならなおさらよかったね」ラナは微笑みながら言った。
「お前がそう言うってことは、思った以上に虫の浸食が早いんじゃないか?」ラフノがラナに向かって確信を突く質問をした。ラフノの言葉を聞いたラナは微笑む。
「そうだね。確かにそうとも言えるね。でも実際は違うよ。浸食っていうより、増殖力が高くなっているかも知れないね。恐らく虫は寄生する時間が短くしても操れるようになってきている。
だから見つけやすくなっているんだと思うよ」ラナは根拠らしい根拠を言い、微笑む。
「急がないといけないってことだよな」ハルが真剣な顔で言った。それにラナが頷く。
「じゃあ、次の物語を見せてよ」ヤーズはハッキリした口調で言った。
「そうだね。折角やる気があるみたいだしね」
「次の物語は”腐食のオーク”だよ」ラナの言った物語の名前には僕は見当がついていた。それは僕らはバラバラに散った期間の話で、かつて仲間としていた”ヤカナ”から聞いた物語で、僕はその物語の敵を倒していた。それはヤカナと協力しての話なわけだが。
「その物語を僕は知っている?」僕は堪らず、ラナに聞いた。
「そうだね。そうみたいだね」ラナは一言言って更に言葉を続ける。
「この物語は貧しいオークが腐った食べ物を食べ続けるおとぎ話だよ」ラナの目には何かが宿っている気がした。
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