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日常から非日常へ。  作者: 稲平 霜
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司書ラナの一つの思い出①

249話




僕は今も時々思い出す。図書館に来て、レイドという人が冒険者になってから特に思い出す。シストとの思い出だ。




―――シストは少し暗めの洞窟によく入り浸っていた。


僕が見つけるといつも木を円状に滑らかにしたパレットを左手に持っていて、右手には動物の毛を整え、木の棒にその動物の毛が縄で括り付けられた筆は粗末なものだ。


何より、暗がりによくいる為、村人の一部からは“ 影”とも言われている。



少なくとも、僕は影とは思ってなかった...訳では無い。


そもそも僕は将来何をするか、常にその事について悩んでいた。


この村を出て、店でも経営するかとか、王に仕えるかとかそういうもんだ。


 今でも親に連れられて勉強ばかりしている。言語能力と計算能力を重点的に教えられている。この二つを学んでおけば、確かに就職する場合には問題は起きないだろう。


でも、僕は何か心にもやもやする何かを抱えていた。



 ある日、僕は久しぶりに遊んでいいと言われた。久しぶり過ぎて僕は何をして遊ぶのかそればかり考えながら、歩いていた。


すると、僕の足は自然と洞窟へと誘われていた。


「ここは...洞窟か...というより洞穴に近い気がするね...何か鉱石でもあれば金稼ぎでもできるか...も...」僕は洞窟に入り、あらゆる字方向を見ると、その足元に近いところに人間の黒髪が足元まで伸びてきていた。僕は慌てて足を退ける。


そして、髪を目で追う。すると、そこには左手に木で作られたパレットを持ち、右手には筆を持った少年がいた。



 少年は村人から”影”と呼ばれている存在だと、洞窟から見た村の景色から読み取れた。


 僕は少年を見つけた後、洞窟内のさらに奥を見た。


すると、そこにはあらゆる色で描かれた絵があった。牛、豚、羊、鳥、狼、虎、鷲、馬がそれぞれ誇張した姿で描かれている。


そのさらに奥には何か物語を表しているみたいに絵が描かれている。


それに気づかれたのがよほど恥ずかしかったようで、少年は小さい体で僕の足辺りを掴んで進行を阻んでくる。


「これさ、僕がこの絵に文字でも加えたら更にいいように仕上がる気がしない?」僕は一言言って、勝手にそこらへんに落ちたインクの溜め場に指を突っ込み、言葉を加える。


「君らしさがあっていいと思うよ。この絵からはそんな感じがするね」僕は言いながら初めの言葉を絵の傍に書いた。すると、少年は目を輝かせ、長い髪をカーテンの様に揺らして微笑んだ。



 それから僕は両親から教え込まれる勉強の時間が終わると、毎晩のように家族にバレぬように洞窟まで抜け出しては、絵や文字を書いて、正にそれは娯楽の様だった。楽しかったんだ。そのような日々が一週間続き、僕にとっての事件が起きた。


 父が僕の髪を掴んできた。そして、父が自分の口内の唾液を僕に飛び散らしながら話す。


「お前...この計算力はなんだ!計算の正確率が90%まで落ちてるぞ!今までの時間を無駄にする気か?無駄にする気ならその無駄にした分を今から勉強せ!」父は言葉の発言を終えると同時に僕の頭を乱暴に使い、腹を膝で蹴ってきた。


僕は口から放たれる嗚咽と薄黄色っぽい液体に疑問を覚えた。


「どうして、望まれた様にしなくちゃならない?僕は好きに生きたい...」

「好きに生きたいならもっと勉強しろ!今のままじゃどこに行っても職に就けないぞ!」父は僕の言葉を聞いて、僕に背を向けて怒号を上げた。


僕はその言葉で初めて父に向けて怒りを露わにした目つきをぶつけた。


「僕は............ないよ...」僕のボソボソした細かく小さい声で父が僕を睨みつけてくる。だから僕はもう一度はっきりとした口調で口を開く。


「僕は...お前の操り人形なんかじゃないよ!」僕は喉が潰れんばかりの声で言い放った。それが僕の初めての反抗だった。僕はそれから家から逃げるようにドアから外に出て、近くの森の中を走り出した。



 腕や頬を木の枝が擦っていく。段々と僕の体中から赤い液体が垂れ、森に赤いしずくを落としていく。


「クソッ!クソッ!クソッ!...なんなんだよ!僕は...ッ!自由に生きてみたかったんだ!」僕は最後の言葉を最後に足取りが遅くなっていく。


そして、僕は地べたに座って小さく口を開く。

「あいつと会って僕は初めてしたいことが見つかったんだ...お願いだから...好きなことをやらせてくれよ...」僕は身震いをした。


感情がぐちゃぐちゃだった。まるで吐しゃ物をもう一度飲み込むような気持ち悪さ。涙が自然と溢れていた。


 僕は涙を乾かすためと、頭を整理するために歩き始めた。



 歩いているといつの間にか見覚えのある場所に来ていた。


「ここはあいつの...」僕はそのまま足を進めた。そこは少年の洞窟だった。僕は少年の絵が描かれている洞窟の壁をなぞる。するとそこに、声が聞こえた。


「今日は来ないんじゃなかった?別に来てほしくなかったわけじゃないけど...」少年が明後日の方向を見ながら言った。その言葉を表情に僕は下唇を少し力強く噛んだ。

どうでしたでしょうか?

面白く読めたのなら幸いです!

次回も読んでいただけると嬉しく思います!


ついでに感想や評価もしていただけると活力になります!

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