一人の少年と一匹の獣⑥
238話
虫に寄生されている人は理性を失う。それくらいしか僕らは見分け方を知らない。そして、目の前に理性を失っている少年が大暴れしている。これは僕らが止めるべきことだ。
「行くぞ!容赦はするな!」僕は次の瞬間地面を駆け、砂埃を上げる。そして、僕の右拳が少年の胸部に当たり、黒いオーラが弾けた。がしかし、僕の腕は少年に掴まれ、関節があらぬ方向に向き、蹴り飛ばされた。僕の身体はそのまま民家にぶつかり、壊れた。
「いや、強すぎるだろ...」僕は崩落する天井に空をバックに眺めた。
「俺がやる!」ラフノは叫ぶと同時に剣を取り出し、周囲に光剣を出現させ、その光を全てラフノの手持ちの剣に宿す。瞬きすらままならない程の光に逃げおおせている村人含め、僕らは目を極限まで細めながらも少年を見ていた。少年は目を細めるわけもなく、ラフノを灰色の眼光で見続けている。
そして、次の瞬間剣は振り落とされ、少年に向かって光の斬撃が飛んでいく。
しかし、少年はそこから動かず、斬撃を眺めたまま、直撃した。砂煙が大いに上がり、より一層光輝き、光は消えていく。
静けさが終わったかのように思わせるが、少年は砂煙の中から歩いて出てきた。顔は先ほどよりも歪んでいて、体中のあらゆる部分から灰色の毛が生えてきている。
「なにが...どうなってるの?あれじゃまるで、獣...」ヤーズが雷を左手に宿しながら口を開いた。
ヤーズの言葉はもっともだった。獣のような姿に徐々に変わっていく少年は顔つき、骨格も変わっていっている。もしかすると、少年は元の姿に戻ろうとしているかのようで、ただ単純に狂っている。理性を失っていると見ていい気がしていた。
だから、
「ラフノ!遠慮はしてられない!今ここで叩くべきだ!出し惜しみしてる場合じゃない!」僕は体を起こしながらラフノに目を向けて、叫んだ。ラフノは僕の言葉を聞き、にやけた。
その次の瞬間ラフノの身体が光り、周囲に赤黒い靄が溢れ、背中に二つの種類の翼が生える。左は赤黒い羽の無い蝙蝠のような羽。右には純白の翼が生えている。
そして、頭の上には赤黒い靄と純白の光が円を描く様に回っている。
「天と地に召されろ!天使と悪魔のチカラだ!」ラフノがそう言い放った瞬間ラフノの周囲に赤黒い球と純白の球があらわれ、融合しようと合体するが、どちらも反発し合う。反発したまま球は少年に当たる。
次の瞬間、少年の身体は穴凹だらけとなり、血が地面に噴き出す。そして、そのまま後方へと少年は倒れた。ラフノの攻撃は少年を再起不能にすらした。
少年が倒れ、静けさが村中を包む。
「終わったのか?」隠れていた村人が瓦礫をかき分けながら口を動かした。
「おいやめろよ。その言葉は禁句だ。大体それで起き上がって来るから」村人のもう一人が言った。そこに一つ声が響く。
「おい!あんた達!助けてくれないかい?」その声は瓦礫に足を潰された老婆だった。僕は鱗を瓦礫のあちこちに貼り付け、動かないように補強してからハルが老婆を引きずるように助け、すぐに回復魔法をした。
ハルの回復魔法を目撃した別の村人が口を開く。
「おぉ!神様の使いだ!やっ...」村人は歓喜の声を上げたが、それはハルによって遮断される。ハルは剣を村人に向け、口を開く。
「違う」
結局、ハルは押しに押されて神の使いということにされ、回復をしていた。そのハルの頬には汗跡が付いていて、魔力不足になっていることが分かる。
「ハル。もうやめておいたほうがいいんじゃないか?」ラフノがハルの肩を掴んで言った。それを村の人は聞き、反論を述べる。
「待ってくれよ!このままじゃ俺は死んじまうよ!なぁ?神の使いなんだろ!?ならまだ行けるよな??な?」村の男は腕の小さな傷をまるで重症の様に言い放ち、辺り一帯の村人が次々と声を上げる。
「そ、そうよ!早く娘を助けてよ!神様の使いなんでしょ?」
「妹を助けてください!今にも死にそうなんです!」
「兄を助けて!ママを助けて!ねぇ!」
様々な声がハルを責め立てる。ハルはその声に耳を塞ぎ、何も聞こえない様に塞ぎこむ。そこで僕は空から誰にも当てずに黒い雷を落とした。
「だから、神の使いなんかじゃないって言ってるだろ!死にそうなら焦ってないで自分たちでできる最善の行動をしろ!それで明日にでも治療は出来るだろ!考えてもみろよ!人一人に寄ってたかって助けてくださいって、少しは自分で動いてみろ!」僕は暴言を吐いた。誰よりも声を響かせ、村中を再び静けさで包み込んだ。
それから村人は包帯などを傷口に巻き、応急処置を施した。ハルの働きのお陰で、村人の死者はほとんどいなかった。
「ねぇ。ここから出してくれないかな?」背後から聞こえた。それは檻に閉じ込められた一人の少年だった。そして、その檻に入っていたのは灰色の獣のはずだったものだ。
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