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日常から非日常へ。  作者: 稲平 霜
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一人の少年と一匹の獣②

234話




 民家に落ちたといっても、屋根から激突したわけではなく、ちょうど畑に挟まれた道に背中から落ちていた。受け身を取ったお陰で案外ダメージは少ない。そう思われたが、あばらは少年の蹴りで折れてしまっていて、体を動かせば痛むが、それは駆けつけてきたハルに治された。

「助かった...。時間操作は、あまり使わないようにしているのか?」僕は尻と両手を地面に付けたまま目線をハルに向けて、口を開いた。


「あ、それはな、この物語の中では時間操作が使えなくなっているみたいなんだ。使おうとすれば...」ハルは木の枝を拾って時間操作の力を使おうと試みるが、光が弾けるように時間操作の力は打ち消されていた。


「通りでハルが動かなかったわけね」ヤーズが右頬に指を付け、小さく口を動かした。


「なるほど、いつもより少し力が制限されているのか」ラフノが手を握ったり、開く動作を数回した。


 周囲を見渡せば人気がない町の様な気がした。何よりも、人一人として見当たらず、そよ風が吹くだけで、空気が暖かくも少し冷たい風が混ざっている。


 家は薄っぺらい木の家が建てられていて、壁にはわらが敷き詰められていたり、動物から剥いだ革が吊るされている。他には肉や魚を縄に縛り、吊るしている。保存食を作っているのだろう。


 「人っ子一人いないな...」僕は日差しを目を窄ませて遮る。そのまま周囲を見渡すが、やはり何もない。


「もしかして、さっきの子が村を襲撃して村の人が居なくなったとか?」ヤーズが目を細めて、森を見た。森の木々から光があふれている。今では、不気味に思える。


「それとも、虫が関係しているかも知れない。この世界の題名は”一人の少年と一匹の獣”だ。恐らく、獣が村を襲撃し、村は廃村した可能性...」ラフノは顎辺りを手で触りながら民家を一軒、細目で見た。


 その突如のことだった。ラフノが見つめた民家から一つの影が現れた。それは、傷を負った獣だった。


 獣の身体は灰色で四足歩行で毛むくじゃらの動物だった。しかし、目には紅の瞳が日に照って光って見える。ハッキリと獣とわかる。その獣は喉を鳴らし、口元を震わせている。僕らを噛み千切る勢いで睨んできている。


 「早くも物語の獣に会えたみたいだな」ラフノは頬を緩ませ、剣を握る。そのまま臨戦態勢へと移り、ラフノが獣を斬ろうと構えた瞬間にハルがラフノの肩を掴んで、止め、ハルが首をゆっくり振った。


「あれは生きる意志がある生き物だ。恐らく虫には脳はやられていない。それにあれが物語の獣なら倒せば物語が進まず、虫までたどり着けなくなるかもしれない...。今は様子を見よう」ハルはラフノに言い聞かせ、肩から手を離した。同時に目の前の獣は地面に倒れた。




 ―――どうだ?これで治っただろ?後は待ってみよう


ここはどこだろうか。さっきの人はオイラの牙の餌食になってしまったのかな...。もし、そうならオイラは死んでしまいたい。この声はさっきの人?じゃあ僕は誰かを殺すことなく暴走を止めることができたのかな?もし、そうならオイラはとても感謝したい...。




 突如、獣が起き上がり、喉を鳴らしだした。牙をむき出しにし、口からはよだれが滴り落ちている。今にも僕らを狩る勢いだった。


「下がれ!」僕は手を大きく広げ、全員を後方へと避難させた。その時、背後から声がする。

「ボン!お座り!」その声は衰えた声で震えていた声だった。そして、その声の次に杖の突く音が聞こえた。背後を見ると、人影が一つ見えた。


 人影は僕らの腰あたりまで位しかなく、杖は僕らの頭までの無駄に長い杖だった。顔はしわだらけで、眉毛が長く伸びていて顔からはみ出ていた。そして、その人影は僕らの足をよぼよぼな手で叩いて、僕らの前に歩いていき、もう一度口を開く。


「お座り。ボン。今日は干し肉だよ」老婆は服の腰あたりから干し肉を取り出し、喉を鳴らしている獣に与えた。すると、獣は老婆の手を噛み千切るように食らいつくが、老婆は平然と手を引っ込め、ニッコリと微笑んだ。


「あんたたちはどなたかね?」老婆は穏やかな顔で僕らに向いてきた。



 「俺たちは向こうの方から来たんだ」ラフノは先ほど少年がいた森の方向を指さした。

「ほえ?あんたらあの森を越えてきたんけ?」老婆は目を大きく開いた。


「あんたら...闇の渓谷の向こう側から来たってことかね?」老婆は今度は僕らを睨んできた。確かに方向は森の方から来たが、それがまさか、睨まれる方になるとは思わなかった。


「大丈夫だ。僕らは十分怪しいと思うが信じてくれ。僕らは誰かに危害を加える気はない」僕は目線を全く逸らさず、老婆を見つめた。その目線で老婆はため息をついた。


「分かったよ。今は信じておくとするよ...。で?何しにここに来たんだい?」老婆は睨みつけてくる。その目はさっきよりは警戒心が薄くなっていることを知った。


「僕らはこの世界を救うために悪を退治しにきたんだ」僕は強く言った。


どうでしたでしょうか?

面白く読めたのなら幸いです!

次回も読んでいただけると嬉しく思います!


ついでに感想や評価もしていただけると活力になります!

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