一人の少年と一匹の獣①
233話
「いいかい虫の名前は”シジチャタムシ”産まれた瞬間にあらゆる生き物に寄生し、理性を失わせ、最終的に寄生した身体を食べて大きく成長し、次の寄生体を探すか、地面さえも食べて奈落を作ることもある恐ろしい虫だよ」ラナは深刻な顔つきで本を一冊手に取り、書いてあることを言った。
「分かった。なるべく早く対処できるようにしよう」ハルが剣の柄を手すりの様に持った。
「僕たちを本の世界に送ってくれ」
「いいよ!」ラナは僕の言葉に両手を上に掲げ、本を一冊出現する。
「まず一つ目の本はこれだよ。”一人の少年と一匹の獣”だよ。この本は大分昔に書かれたものだよ。この物語に出てくる生き物に虫が寄生しているというわけだよ」ラナは本の中をめくりながら説明をした。
「それはどう見分ければいい?」ラフノは眉を顰める。
「これは僕も不確かだけど、上手く受け答えできていなければ虫に寄生されている可能性もある」ラナは曖昧な言葉をぶつけてきた。
何より、見分け方が曖昧なのは僕らも動こうにも動けない。見分けることが出来れば確かに虫は即座に対処できるが、早くに見分けることが出来なければ、最終的には本から僕らの住む世界に散らばってしまう。そうなれば僕らはもう冒険などできないものとなってしまう。一瞬の判断で運命が決まると考えると、汗が頬を流れる。
僕はそっと息を吐く。
「さぁ行こう。僕らの小さな望みのために...」僕は微笑を浮かべた。僕の言葉に続き、皆が頷く。そして、目の前に扉が現れる。
「頼んだよ!レイド!」ラナの言葉に僕は親指を一本立てて、
「ああ」片頬を歪ませた。そのまま僕らの身体はドアのその先に行き、光に包まれ、空気が無いように思われる。
目を開くとそこは森の中だった。魔界の様に奇妙な色な自然色はなく、緑が世界を彩っている。
「ここに虫がいるのか?」ハルが周囲を見わたすが、緑以外は目ぼしいものはない。
突如として地面が揺れ、人の声が聞こえる。
「これで...満足かぁ!」その声は若々しく、甲高い声で何より叫んでいた。僕らはその声が聞こえた方向へと走っていくと、そこには普通のクマが口を開けて、倒れていて、その奥には半裸状態の少年が立っていた。僕らが少年を見ていると、少年がこちらを素早く向いてきた。
「貴様ら。どこぞの村の者だ。我はこの森の支配者だ。この森に無断で入って来たのならば、死ぬ覚悟が出来ているのであろう?」少年の口調は身体に似合わず、強者の風格を醸し出していた。そこにヤーズが一歩足を出して口を開く。
「私たちはこの森のことは知らなかったの。たった今この森に入って来たから...」
「貴様らそれは真か?ここは森の中で中腹だ。もう一度問う。貴様らは何故この森に入って来た」少年は瞳孔を開き、首をかしげていた。
「真実を教えよう...。私たちはこの世界を救うためにとある虫を排除しにきたんだ。森には虫が多く生息していると思ってこの森に入って来たんだ」ハルが剣から手を離し、言った。
「それはこの森に関係のあることか?」少年はハルを睨んでいる。
警戒しているようだ。確かに急に自分の体の危機があるとなれば警戒するのも無理はない。それに虫に滅ぼされるなど信じがたいだろうしな。
「よし、見た感じお前は強い。そして大抵お前みたいなのは力で支配力を決める。間違いはないはずだ。だから、僕がお前を倒したら、今の話を信じろ」僕は拳を目の前に出した。その瞬間僕の顔の横に風が吹き荒れ、背後の木が倒れる。
「貴様みたいな無礼な奴には負ける気はさらさらない。どこからでもかかってこい」少年は口を動かしながら手を手前に数回仰いだ。僕は足を曲げ、前に跳んだ。地面は抉れ、一秒もかからず少年の鼻先にたどり着き、拳を突き付ける。その瞬間少年は後方に避けようと体を動かす。しかし、その後ろは僕が鱗で壁を作り、避けられなくなっている。少年は鱗に囚われ、そのまま僕の拳を諸に受け、後方へと飛んで行った。
「さぁ、話を聞く気になったか?」僕は握った拳を緩めて言った。しかし、飛ばされたはずの少年は僕の目の前に立っていた。
「確かに強いがこの程度か。弱いな。話を効く気も失せる」少年は言葉を口にした瞬間身体を大きく捻り、僕のあばらを左足で蹴り、骨の割れる音と共に僕の身体は空を飛び、森を上から眺める形となる。
「油断したからって言っても...強すぎだろ、物語の人間...」僕は顔を歪ませつつ、受け身の準備をしていた。その時、下から大きな影が迫って来る。僕はその影を目を凝らして見た。すると、それはヤーズのドラゴン姿だった。
間もなくして僕の身体はヤーズによって地面へと安全に降りることができた。それに続いて僕の身体がハルの回復魔法によって治される。
「弱い割には復帰はすぐできるようだが、貴様らは我に勝てぬ。今すぐ消え失せろ」少年は言葉に続いて、左足であばらが治った僕の身体をまた壊すように蹴って、僕の身体は森から家と畑が並ぶ民家に落ちた。
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