図書館の抱えた問題
232話
会場を出ると視線が多くなっていた。それは賭けに勝った者はお金を多く持っているという事実が明らかだからだろう。
「こんなところで立ち往生はしてられないんだ。だから、僕らに手を出させないでくれよ」僕は足を次々と前に出し、歩き出した。
周囲の視線は僕らに向けるだけで、何もしてくる様子はない。そんな時あるものが見えた。それは剣を持った男と貧相な体の男だった。剣を持った男は貧相な体の男に剣を突き立てる。
「そろそろ返してくれないか?ほら、貸しただろ?50万コーカ!」剣を持った男は貧相な体の男の顔の真横を突き、貧相な体の男は怯える声を出す。
「ま、待ってください...あと一か...」
「殺されたいのか?」貧相な体の男の言葉に剣を持った男が歯を食いしばり、口を動かさない。
「わ、わかりました...何とか4週間...」
「だから殺されたいのか?...次は猶予は与えないからな!」貧相な体の男の言葉に被せて剣を持つ男が怒号を上げ、影の方へと歩いて去っていく。
「あれが借金を抱えた男の末路だ」ラフノは僕らにだけ聞こえるように言葉を放ち、指さした。
「おいラフノ何を言っている」ハルが手を口の横辺りに持っていった。そんな他人を汚す言葉で交わしているところに一人声をかけてきた。
「やあ、君たち今暇かい?暇なら僕の話を聞いて行かないかい?」その言葉の方向に目を向けると、そこには金と白が目立つ鎧を着ている青少年が立っていた。
特にこの後の予定などない。だから話を聞いてみることにした。
「僕は実は時間を操れるって言ったら君たちは驚くかい?」青少年は微笑んだ。そこで僕はあることに気づく。この男は自慢、または見栄を張ってみたいのだと。
「あれ?あまり驚かないね?変わってるね」青少年は苦笑いになっていた。
「まあそうだな。これでも色々と見てきたからな」僕は口を動かしながら、ハルに目を向けた。
「そ、そうなんだ。ま、僕は時間を操れないけどね。それよりももっとすごいことができるんだ。僕は勇者なんだよ。この世界で魔王を倒せる唯一の...ってもういいか...」青少年は話の途中で髪の毛をかき上げた。
「僕はラナだよ。今のこの身体は勇者の身体なんだ。小芝居をはさんで緊張をほぐしてから話したかったけど...まあいいや。今から図書館に来てもらうよ」ラナと名乗った青少年はそう言って指を鳴らした。
目を開くとそこは今では見慣れたようにも感じる図書館だった。僕が周囲を見ようと頭を動かした瞬間声が聞こえた。
「ここに呼んだのは僕事なんだけど大丈夫かな?魔王を倒してもらって、君の目標であった平凡な冒険者の生活しているときに、申し訳ないと思ったけど...呼ばせてもらったよ」ラナは手を合わせて、身体をを折り曲げる。僕はため息を吐いて手を横辺りにあげる。
「ここに呼んだのは世界の存亡に関わることだから呼んだんだ」ラナの言葉に僕らは眉を八の字にし、口をへの字に変える。
「そうだ。確かに魔王は完全に死に、世界は平和になった。でも違うんだ...。そんな規模ではない。世界は、いや、この図書館内に不正入館し、本を壊す。世界を壊す虫がこの図書館に広まったんだ...」ラナの顔が青ざめていた。それだけで事の深刻さがわかる。
「虫は本を食べるごとに増殖していく。そして、最悪の事態は世界は虫によって食い尽くされることなんだ...。そうなれば君の望んだ冒険も出来なくなってしまう...。だから協力してほしい。虫を殺すことに」ラナは息を荒げていた。髪もボサボサになっている。そこまで追い詰められているのだとわかる。
そこでラフノが口を開く。
「それは俺たちでどうにかできる問題か?人ならばまだ倒せるかもしれない。でも虫となるとどうしても見つけにくいだろ?」ラフノが手をひらひらさせた。
「その点に関しては大丈夫だよ...。僕は司書だ。君たちには本の世界に入ってその虫を殺してほしんだ。虫は本の中のモンスターや人などの生命体に寄生することが多い。しかも、虫は寄生した生き物の正気を失わせる。だから分かりやすいはずだよ...。どう?やってくれるかい?」ラナは不安そうな目つきで手を合わせている。僕はため息交じりに言葉を放つ。
「ダンジョンで助けられたり、魔界に行かせてもらったり、仲間を助けて貰ったり、僕にもお前に恩がある。それに僕の冒険者人生を邪魔するものがあるのなら僕はそれを叩き斬らせてもらう」僕は拳を胸のあたりまで持っていく。
「つまり答えは...決まってる!」ハルが僕の肩を掴む。
「やるしかないだろ。それにまだ二か月しか経ってない。俺たちはまだ戦い足りないだろ?」ラフノは微笑んだ。
「そうよ!私たちはレイドについて行くよ!」ヤーズは元気よく笑顔を浮かべた。
ラナは下唇を軽く噛み、八の字の眉をそのままにし、微笑みながら口を開く。
「...ありがとう...感謝するよ...」
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