レース
231話
「では、あちらからお入りください。公平な良い賭けを!」受付嬢は手を二つある入り口の左側を指し示した。僕はその指示された方に歩き出すと、ラフノが受付嬢に剣を向けた。
「俺たちは冒険者だぞ。それくらいの窃盗に気づかないとでも?」ラフノは受付嬢の首元に剣を近づける。それに受付嬢が顔身体をのけぞらせた。そして、受付嬢は足元に手を伸ばし、布をカウンターに出した。それは僕の持っていたお金だった。ラフノは左手でお金を手に取り、僕に渡してきた。
ラフノは安全が確認されるまで剣を納めず、受付嬢を見る。完全に受付嬢が怯んだとわかった瞬間ラフノは剣を鞘にしまった。
「会場に入ろう。後ろは任せろ」ラフノは剣に手を置き、常に警戒しつつも入り口へと歩き出した。僕はそのラフノの姿を見て、即座に移動し始める。
入り口から入るとより一層歓声が耳を突き刺す。階段を上がり、見えたのは円形が少し縦に伸びた会場で、中に柵がある。そして、そこに、狸に似た生き物が一列に並び、一つの爆発音で狸に似た生き物が走り出す。
狸に似た生き物は毛皮が少しとがっていて、尻尾が鉄球の様になっていた。その狸に似た生き物の背にはそれぞれ数字が書いていて、人は数字を叫ぶ。
「3番!3番!」「5ばぁぁん!」「2!2!」観客はそれぞれの番号を叫んでいた。戸惑っている僕らに背から声がかけられた。
「あんちゃん。そこ退いてくれるか?今いいところなんじゃ」老いぼれた声に目線を向け、即座に壁沿いに張り付くように避ける。
「ん?あんちゃん、ここは初めてか?あんまり初めからこんなところに棒立ちしてちゃ、盗まれるぞ」老人は不敵に微笑み、僕のお金の袋を持っていた。僕が気付くと老人は僕の手にお金を返してきた。
「ここで会ったのも何かの縁じゃ。1000コーカでこの賭博のルールを話してやろうじゃないか」老人は親指と人差し指で円を作り、残りの指は広げた。
「簡単に言うと会場内の受付...ここからすると全くの反対側にあるところに行き、10まである数にお金を懸ける。懸けると番号別で、一枚券をもらえるからそれは当たった場合に受付に持っていく。それだけじゃ。ただ、気を付けろ。やり過ぎると身体が壊れていくからの。ではな。わしは賭けに行く」老人はよぼよぼの腕を見せつけるように去っていった。
「じゃあ賭けに行ってみるか?」ハルが何食わぬ顔で首をかしげる。僕は「やってみるか」と足を歩ませだした。
会場には余り隙間がなく詰め詰めの中移動する。その間にもお金は僕が握りしめている。それは盗難防止なわけだが、案の定人の手が僕のお金の袋に触れた。その瞬間に僕は軽く爆発させ、振り払う。
無事に受付まで着いた。今度は嘘ではないはずだ。
「幾らを何番にお賭けなさいますか?」受付の声は男で顔は見えなかった。僕は指を二本立てる。
「2000コーカで」すると受付は再度口を開く。
「何番でしょうか?」
「一番」僕はたまたま目に入った数字を投げた。
現在しているレースが終わり、次のレースとなる。これが僕が賭けたレースだ。当てれば二倍には跳ね上がるらしいが、正直よくわかってはいない。恐らく当てても外れてもこれが人生で初めてで、最後のレースとなるだろう。
爆発音が一つ鳴った。その瞬間狸に似た生き物が一斉に走り出す。短い脚は長距離を走るための物ではない。なぜ狸の様な生き物を使っているのか気にはなるが、ここの観客は何も考えていなさそうだ。その時背後から気配がした、僕は咄嗟に背後を向き、人を目にする。
「君は不用心だね。盗みの才に恵まれたオイラからすれば滑稽だよ」妙に高い声が聞こえた。僕の目線の先には僕が掴んでいたはずのお金の袋と、口が耳辺りまである口が裂けたような少年だった。服は小汚く、深々とツバの無い帽子をかぶり、鼻には汚れが付いている。
「オイラは盗賊だよ。天に魅入られた才の持ち主。ま、さ、し、く...天!才!」少年は顔を上にあげ、手をその顔に被せ、絶妙にダサくも、キモイ動きをする。こんなのにお金を取られたと思うと、とても屈辱的だ。
「返せよ」ラフノがいつの間にか盗賊の背後に回り、剣を盗賊の首元に持って行っていた。
「んん。確かに死んでは元も子もないですね」盗賊は諦めるようにお金を握る手を緩め、肩を緩めた。そこでラフノが油断してしまった。その瞬間ラフノの剣は盗賊の足によって弾かれ、剣が宙に浮き、盗賊はラフノの剣を手に取った。
「ダメですね。こんな実力ではこの町では生きられません...よ?」盗賊は一瞬で怯えた表情となった。それは僕が飛ばした鱗で皮膚が切れたからだ。目にも止まらぬ鱗は恐怖でしかないだろう。
「返せ」僕の声が響くと、盗賊は引きつった笑顔で僕の手に返してきた。ラフノには剣を返してもらっていた。
「僕らは冒険者だ。あまりおいたが過ぎると痛い目見るぞ?お前こそ気を付けろよ」僕の高圧的な言葉で盗賊は会場から出て行った。そんなときに会場内に放送がかかる。
「今回のレースは一番の優勝です!当たった方は受付までお越しになってください」僕は微笑みながら受付に歩き出した。
「おめでとうございます」受付の人は僕に4000コーカを布に入れて渡してきた。僕はそれを受け取る。
「やったな!」ハルが満面の笑みになっていた。
喜びを当然の様に受け入れながら、僕らは会場を後にした。
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