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日常から非日常へ。  作者: 稲平 霜
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置き土産

228話




 木の皿にスープの様なドロッとしたものを入れ、机に並べられて、最後にバケットの山が机の中央に置かれる。

「さぁ食べな食べな」奥さんは手を叩いた。僕はそれに快く頂戴した。


 ご飯を食べ終えると夕日が僕の目を射していた。未だにハルは生きているのではないか、と希望的な言葉が脳裏に渦巻く。でもそれは残りの仲間であるラフノとヤーズの顔を見て、そんなことはない、と断言できる。


「明日はどこへ行く?」僕は夕日を背にした。しかし、ヤーズは口を開かず、頭を横に振った。


「そうか...分かった。僕は明日朝早くに王都に行って、ギルドカードを返しに行くことにする」僕は服の中にしまわれた、少し汚れたギルドカードを手にした。ギルドカードを返すことは則ち、

「僕は冒険者にならない...成れない。仲間一人いなくなれば足を引っ張るだろう...僕が生まれてこなけりゃ、ハルと会うことはなく、ハルは死ななかっただろうな...」僕の声は震えていた。その言葉にラフノが反応する。


「お前が生まれなきゃ、こんな楽しくも激しい壮絶な思いで出来なかったよ。」ラフノは両手を頭の後ろに持っていく。ラフノの言葉に僕は身体を反応させた。

「確かにハルは死んだ。でも、ハルは最後まで楽しかったはずだ。俺たちがなんでお前と一緒にいたと思ってるんだ?それはもちろん。楽しいからに決まってるからだろ!」ラフノは最後の言葉を強調し、笑みを見せた。そのラフノの熱意の入った言葉で僕は微笑んだ。そして、ラフノの目を見て口を開く。

「ありがとう」


 それから急激に空は暗くなった。残念ながら寝床はそのまま床しかなかった。仕方ない復興の途中なのだから。僕らは固い床に背中を乗せ、瞼を瞑った。


 目を開くとそこは僕しかいなくて白い空間が広がっていた。

「やぁ、君はレイド君だね」背後から聞こえる声はアストラストだとすぐに分かった。アストラストは自我を持っているように微笑んでいる。


「僕の想像したことしか言えない人形は消えてくれ」僕はアストラストに冷たく遇う。しかし、アストラストは微笑みながら、口を開く。


「本当にそう思っているのなら、君は明日王都に行かないほうがいい。今王都に行けば、君の望まぬ結果が見られるよ」アストラストは不敵に微笑み、左手の人差し指を立てた。


 僕はそこでアストラストであることを疑い、片眉を上げた。そして僕はアストラストに触れようとした瞬間、身体は宝石が割れるように弾けた。そして、その中から出てきたのは司書のラナであった。


「やぁ。昼ぶりだね」ラナは微笑みながら宙に舞いながら挨拶した。僕は「ああ」と短く応答した。


 「何の用だ?」僕は白い空間でラナに問い詰める。

「そう怖い顔をしないでよ。その様子では僕が渡したはずの置き土産が届いていないみたいだね」ラナは人差し指を一本立てて、クルクルと回しながら、笑みをこぼした。


「僕の故郷に転移させたことじゃないのか?」僕は右手をヒラヒラさせた。そこで僕の言葉を聞いたラナが手を左右にひらひらさせて、否定の形にする。


「確かに転移もそうだけど、僕が本当に置いた土産は...いや...それは君の目で確かめてよ。明日朝にね」ラナは言葉を迷い、はぐらかした後に、光に紛れて消えていった。


 夜が更けていく。世界が朝を迎える最中...僕は目を覚ました。何か肝心な夢を見ていた気がするが、思い出せない。


「気晴らしに身体でも動かすか...」僕がドアを開くと雨が降っていた。今の僕らの状況にはふさわしいと勝手に思い込む。


 それでも尚僕は外に足を踏み出したが、しかし身体は水に濡れることはない。それは鱗で雨粒を弾いているからだ。


「さて、とりあえずここら一帯を干上がらせれるかどうか、試してみるか...」僕は海水を操る力で水を操ろうとしたが、それは出来ず、少しがっかりする。それは雨の中、鱗をずっと使っていなければならないことが確定したからだ。


「試したいことは試したし、入るか」僕はゆっくり瞬きをして、ドアに手をかけた。その瞬間後ろから声が聞こえる。


「レイド!」僕はハルの声が聞こえて後ろを振り返った。しかし、そこには誰もおらず、空耳だということを知る。そこで僕はため息を吐き、家に入った。


 「起きろよ。そろそろ出よ...」僕がラフノ達の肩に手を置き、揺さぶっていると、本が一冊見えた。それは昨日祖父からもらったボロボロの本だった。


 僕は本の中身の冒険者のページを見て微笑んだ。その本を僕は革と紐で簡易的な保護袋を作り、腰辺りに着けた。


 僕は再びラフノの肩を揺らして起こした。

「もう朝か...」ラフノは寝ぐせだらけの髪を掻きながら目を覚ました。それに連鎖し、ヤーズが目を覚ます。


「んん...体の疲れが取れない...」ヤーズはそう背伸びをし、欠伸をしながら起き上がった。


 ドアを開くと同時に僕は仲間全員を覆う位まで鱗を広げ、水に濡れないようにする。

「さぁ行こうか」僕が足を踏み出すと同時に鱗に雨水が打ち付けられなくなった。そして、鱗を少し退け、空を見ると、そこは時間が止まっていて、雨水が落ちなくなっていた。そこで真横から声が聞こえた。


「レイド!また会ったな!」その声はハルの声で、振り返るとそこには満面の笑みのハルが立っていた。その瞬間一滴の水が地面に落ちた。

どうでしたでしょうか?

面白く読めたのなら幸いです!

次回も読んでいただけると嬉しく思います!


ついでに感想や評価もしていただけると活力になります!

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