禁忌
221話
「お前は僕の仲間を殺した。傷つけた。その分の代償は受けてもらうぞ」
「あなたのお仲間が勝手に突っ込んできただけですよ?」僕の言葉にニラキが微笑み笑う。その刹那、世界は灰色に包まれる。そして次の瞬間空が渦を巻く。その中から声が聞こえる。
「おい、随分と荒れてるな...」その声は、
「なぜ君がここにいるのです?トライト...?」ニラキは微笑んだまま言い放った。
「おれの名前はトライトだ...。お前にその言葉を口にする権利などない...」トライトと呼ばれたことを否定し、トライネはニラキを睨む。
「そこの人間に殺されたと思っていましたが、死んでいなかったのですね。とにかく今は魔界からこの人間を...」
「おれは何もしない...」トライネはニラキの言葉を遮り言い放った。その言葉を聞いてニラキが驚愕の反応をする。そしてニラキは口を開く。
「魔王様を裏切る気ですか?」ニラキの顔からは焦りの顔が見える。
「少なくともそうみたいだな。この構造を見てお前は生きて帰れると思っているのか?」僕がニラキを追い詰めるように言い放った。僕の言葉でニラキが顔を歪ませる。
「そうですか。では、生け捕りするのは諦めます。これが見えますか?」ニラキはため息交じりに言葉を放ち、最後に手のひらに白い靄を持ち、掲げて何かと問いただしてきた。その靄は揺れ動いていて何か必死に抵抗しているものの様な気がした。
「これはあなたのお仲間の一人です」ニラキがそう言い放った瞬間僕はハルの物だとわかる。そこで僕は取り返そうと、動こうと足を動かそうとした瞬間ニラキが口を開いた。
「そこから動こうとすれば私はこの靄を潰しますよ?構わないというのなら動いてどうぞ。...ではそのまま止まったまま死ぬことをお待ちください」ニラキは不敵な笑みを浮かべる。
「何もできないの...?」ヤーズが滞空したまま呟いた。
徐々にニラキが近寄って来る。鼓動が激しく鳴る。ただこれは死ぬことへの恐怖の物ではなく、怒りだけだった。
「どうですか?死ぬ準備は出来ていますか?人間は一人、人質を取れば直ぐに本当に動けなくなるのですね。迷信かと思っていましたよ」ニラキがそう言い放って笑う。笑うな。
「ではまず厄介なあなたから殺してあげましょう」ニラキはそう言いながら鎌を後方まで振りかざし、次の瞬間僕の頭は地面に落ち、なかった。
空っぽだった。まるで何も入っていない馬車、水の入っていないバケツ、家具が一切ない家の様な空気だけが漂っているようなものだった。視界には何も見えない何も聞こえない。読めていなかった。魂を取られた。これは死にはならない。だから裁判さえも起こせない。僕はこのまま誰も助けられず消えるのか。
「そう言うわけにはいきませんよねぇ...」暗い暗い視界の中、聞きなれた声が聞こえた。それは
「道化師...」僕はない口で言い放った。恐らく僕の心の声として処理されるはずだが、道化師には聞こえているようだった。
「こんなところで何をしているのです...。ここは今...パレードのまあっ只中ですよ...」道化師は語尾に向かって声が小さくなっていきながらも言い放つ。そして次の瞬間歓声が聞こえる。
「あなたはこのままでは消滅するでしょう...。でもまだ助かる方法を知っています...。一つはあなたに仮面を被っていただくこと。もう一つはあなたの持つ司書の恩恵を少し分けて頂くこと...この二つです...」道化師は指を順に一本ずつ出しながら言い放った。その言葉に僕が言葉を放つ。
「僕は仲間を助けられるなら何でもいい」僕がそう言葉を放つと道化師が仮面の下で微笑んだ。
「では、あなたに仮面を被ってもらいましょう...。ただし、四分の一だけですが...」道化師がそう言い放った瞬間歓声がまた聞こえる。
「お願いだ。僕に仲間を救わせてくれ」僕の言葉に道化師が微笑んだ。その瞬間視界がぼやけながらも開ける。
僕の見えた視界の先には闘技場のようなところで、その周囲に様々な顔つきの人が集まり、歓声を上げている。
「これは...」僕は左目の皮膚にくっついた仮面に触れながら呟いた。すると、道化師が僕の言葉に応える。
「それは禁忌を犯した者に与えられる仮面です...。私も遠い昔禁忌を犯し、今では顔が見えない状態です...。でも心配しないでください...。あなたの仮面の量ではまだ誰にも見えません...。ですから一つ忠告致します...。禁忌を今後は使わないことをお勧めいたします...」道化師はそう言って闘技場ごと消えた。
「禁忌...だからなんだ...。僕の道に必要というのなら何でも使ってやる」僕は左目にへばり付いた仮面の切れ端を触りながら立ち上がった。
何度も言うようだが、僕の目標は平凡な冒険者だ。
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