取引
217話
「さて、終わらせよう」僕はそう言いながら脳裏にハルのことを思い浮かべていた。ハルが死ぬまであと六日。ここで足止めされて魔王と戦っているときに死ぬのが一番つらい。だから。
「直ぐに終わらせるんだ」再度同じような言葉を放ち、足を曲げ、伸ばし、スーツの男へと跳躍する。砂煙が僕のいたところにだけ上がり、地面を抉る。そして、スーツの男の大鎌に右拳を当てる。金属音が響き、腕がひりつく。
「そんなものでこの鎌が壊れる筈がないでしょう」スーツの男はそう言いながら僕を鎌で押してくる。僕はその力に負けぬように背後に氷塊を出して押すが、全く微動だにしなかった。
「流石幹部...」僕がそう呟くと同時に横から風が吹き荒れ、僕の身体が宙に舞う。
上空から地面を見るとそこには翼の生えたラフノが立っていた。
「これは俺の獲物だ。折角のこの力を試させてもらうぞ」ラフノはそう言った次の瞬間、手に光の粒と赤黒い粒が集まる。次の瞬間ラフノがまず左拳で、あえてスーツの男の鎌に叩きつけた。
「この鎌を壊したらお前は俺たちのチカラも魂も刈り取れないだろ?」ラフノは小声で言い放った。そこに声が放たれる。
「獲物だとか知るか...僕は早く終わらせるためにしているんだ」僕は地面に降り立ち、即座に言い放った。
「私の命を何と思っているのですか?そうですね。それではこうしましょう。私はここから先、手を出しません。しかし、あなたが攻撃してくれば私は一度だけ攻撃しましょう。運が良ければあなた方の方が有利ですよ」スーツの男は人差し指を立てながら言い放った。
「乗った」僕は即決した。ラフノと僕が順番に二度ダメージを与えられるからだ。相手は二人に一撃ずつ僕とラフノでスーツの男に一撃ずつの二回攻撃だ。こちらの方が確かに有利な気もするが、スーツの男は幹部だ。力も強いはずだ。十二分に警戒しなくては。
「では、どうぞ。攻撃してきてください」スーツの男はそう言って両手を大きく広げた。
とある草原で一人の少女が呟く。
「ナルファ元気にしてるかなぁ...何度もキツイ言葉遣いしちゃったしなぁ...嫌われてるかなぁ。ってこんなことしてる場合ないわよね。さぁ今日も世界のために」言葉を放った少女はナルファの姉だった。黒いドレスのそうな服装だが、動きやすくベルトでドレスの丈を縛って、ミニスカートの様になっている。
少女は小さな木で作られた小屋を出た。外は何も変わらぬ草原で緩やかな風が吹いているだけで、他には何もない。
「そう言えばナルファに付きまとってた奴、今どこにいるのかしら...」少女がそう呟くと同時に脳に何かがぶつかるようなものがした。
「魔界の扉が開いた?しかもほんのり残る雰囲気があの男の仲間の雰囲気と似てる...。スノイヤで誰にも見えない様にナルファの周囲を見ていたけど...魔界へ行ったってことかしらね。そうだとすると私もこの流れに乗って魔王とやらも消してしまおうかしら」少女は顎に指を付けながらそう言い放った。
その刹那のことだった。背後から声がかけられる。
「あら?あなたも魔界に行きたいのかしら?」声が聞こえた方向に向くと口調は女だが、声と身体は男だった。そして、その姿は魔族の象徴である漆黒の翼が生えていた。
「阻止したいのなら無駄よ。私は世界のために戦うの」少女はそう言い放ちながら魔族を睨む。するとそこで脈絡もなく魔族が口を開いた。
「阻止するつもりなんてないわよ?それに今さっき三人の人間を魔界に送ったわ。っと、また忘れてるわ?私の名前は”デスティ”魔界の門を開ける数少ない魔族と人間のハーフよ」デスティはそう言い放ち、微笑んだ。そこで少女は口を開く。
「名前なんて聞いてない。阻止するつもりがないというのはどういうこと?」少女がデスティに食い気味に聞く。それに応えるようにデスティは微笑みながら口を開いた。
「それはね?本心を言うと私は魔界を住処に平和に暮らしたいだけね。今では魔族とわかった人間は殺そうとし、魔界では弱い魔族は殺される。では、現界よりも数が少ない魔界を壊したほうが楽だってね」デスティはそう言い、微笑んでいる。
「...分かったわ。じゃあ魔界に連れて行ってくれる?」少女は疲れたようにため息交じりに言い放った。するとデスティが手をひらひらさせながら口を開いた。
「その前に...名前を教えてくれないかしら?でないと扉は開かないわよ?」デスティはそう言いながら少女を見下すように空を飛んだ。
「...セキ...」
「んん?」少女が頬を赤らめながらもふてながら口を開くことでデスティは困惑する。そして、少女の口が開かれた。
「”キセキ”...これが私の名前よ...」言った後でも熱が冷めず、耳が赤く染まっている。それを見て聞いてデスティは一つ言葉を言い放つ。
「生命を感じるいい名前ね」その言葉にキセキが驚いた顔をした。そして下を向き、直ぐに頭を上げて口を開く。
「さぁ、私を魔界に連れて行って」
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